ドバイシーマクラシック-G1をジェンティルドンナ、桜花賞-G1をハープスター、NHKマイルC-G1をミッキーアイル、ヴィクトリアマイル-G1をヴィルシーナが制して、それらの父ディープインパクトは本格的なG1勝ち馬量産態勢に入った。シンプルに考えて、その勢いを止めるとすれば、かつて先代スーパーサイアー・サンデーサイレンスUSAの産駒に時に痛撃を与えたブライアンズタイムUSAしかいない。サンデーサイレンスUSA産駒出現前夜のチョウカイキャロルと、同厩の桜花賞馬チアズグレイスを破ったシルクプリマドンナの2頭がブライアンズタイムUSA産駒のオークス馬で、ほかに桜花賞、オークス、エリザベス女王杯を制した名牝ファレノプシス、エリザベス女王杯-G1でヴィルシーナを差し切ったレインボーダリアなどはいずれも印象深い。実際に活躍馬が多いのは牡馬だが、秋華賞2着のナリタルナパーク、同3着のニシノナースコールなど、重賞レベルに達する者はG1でも通用する底力を備えている場合が多い。◎マイネグレヴィルはレッドリヴェールの2着だった札幌2歳S-G3がもはや忘れられかねない近況だが、不良馬場に牡馬が次々と余力をなくして脱落していく大消耗戦でレッドリヴェールに交わされてからも食い下がってクビ差に踏み止まった内容は、先行の利だけで片付けられない。サンデーサイレンスUSA系の瞬発力が尽きたところからもうひと頑張りできるのがブライアンズタイムUSA産駒の良さ。それを支えるのがフロリースカップGBに遡るボトムラインで、この分枝は4代母ヒンドバースを経て5代母サンマリノで下表の名馬名牝群に合流する。ヒンドバースの娘オカノブルーのもとにはビッグレッドファーム草創期の活躍馬ヤマノスキー(阪神3歳S2着、京都大賞典3着など)が出たのをはじめ、代が下ってもマイネル・マイネの活躍馬が多く現れた。特に1997年生まれからは京成杯のマイネルビンテージ、シリウスSのマイネルブライアン、小倉大賞典のマイネルブラウと立て続けに重賞勝ち馬が出てこの牝系を勢い付かせ、その後、祖母の孫にあたる2001年生まれのマイネルデュプレも共同通信杯に勝った。この分枝からはおよそ10年ぶりの活躍馬、フロリースカップGB系全体で見てもウオッカのジャパンC-G1制覇からは4年半が経過した。このごろのフロリースカップGB系ではシスタートウショウの出現からマチカネフクキタルまでが6年、スペシャルウィークからビッグウルフまで5年の間隔があったのが長い方で、おおむね2〜3年に1頭の大物は出ている。その周期を考えれば、そろそろ来るのではないか、それもヒンドバースの系統に初めての大物が出るのではないかと、根拠薄弱かつ勘頼みで申し訳ないが、そう思います。サンキスト系に戻し交配的にシラオキ系のスペシャルウィークを配してマルゼンスキーの3×2の強い近交となった母の配合にも、フロリースカップGB系らしい華やかさがそこはかとなく漂っている。 |
フロリースカップ系の繁栄 |
フロリースカップGB Florries Cup(GB) (黒鹿 牝 1904年生 父Florizel)1907年輸入 第四フロリースカップ 1912 | フロリスト 1919 ……ミナミホマレ 1939 ダ | 第弐フロリスト 1927 | |フロラヴァース 1936 | | サンキスト 1944 | | ガーネット 1955 秋・有……メイショウサムソン 2003 皐・ダ | | 第四サンキスト 1956 ……ダテテンリュウ 1967 菊 | | サンマリノ 1961……ミホランザン 1971 朝、セイウンワンダー 2006 朝 | スターカップ 1930 | 第弐スターカップ 1937 | | シラオキ 1946 ……コダマ 1957 阪・皐・ダ・宝、シンツバメ 1958 皐 | | ワカシラオキ 1960 ……ヒデハヤテ 1969 阪 | | | ローズトウショウ 1965 ……マチカネフクキタル 1994 菊、シスタートウショウ | | | 1988 桜、ウオッカ 2004 ダ・J・秋・阪・安・安・V | | ミスアシヤガワ 1964 ……スペシャルウィーク 1995 ダ・J・春・秋 | 第四スターカップ 1941 ……タイセイホープ 1955 皐 | トキノタカラ 1945 ……ヤマニンモアー 1957 春 | 健宝 1959(競走:ケンホウ)桜……ナリタハヤブサ 1987 帝、ビッグウルフ 2000 JD 第六フロリースカップ 1915 | 賀栄 1923 | 栄幟 1938 ……マツミドリ 1944 ダ、キタノカチドキ 1971 皐・菊・阪、リードスワロー 1975 | エ、ニホンピロウイナー 1980 安・マ・マ、サンドピアリス 1986 エ 第九フロリースカップ 1924 | スターリングモア 1929 ……ヤシマドオター 1946 桜・秋、トサモアー 1953 阪、リキエイカン | 1966 春・阪、カツラノハイセイコ 1976 ダ・春、スズカコバン 1980 | 宝 ヴィスカップ 1927 ……ダイゴトツゲキ 1982 阪 |
……は子孫。阪:阪神3歳S、朝:朝日杯、桜:桜花賞、皐:皐月賞、ダ:東京優駿、菊:菊花賞、春:天皇賞 (春)、秋:天皇賞(秋)、有:有馬記念、宝:宝塚記念、エ:エリザベス女王杯、J:ジャパンC、安:安田記念、 マ:マイルチャンピオンシップ、帝:帝王賞、JD:ジャパンダートダービー |
桜花賞とオークスの2冠を制したベガはダービー馬アドマイヤベガ、ダート王アドマイヤドン、セントライト記念のアドマイヤボス、東京新聞杯2着のキャプテンベガと生んだ牡馬4頭がすべてチャンピオン〜オープンまで出世し、結果的に最後の産駒となった唯一の牝馬ヒストリックスターが○ハープスターを生む。名牝の系譜はこうして辛うじてつながることになった。このあたりは名牝物語のひとつのエピソードとして完成している感もある。ただ、中山開催時のジャパンCに勝った母の父ファルブラヴIREは、一線級相手なら距離は2000mに近い方が良く、産駒にはスプリンターが多い。2400mになって死角があるとすれば、そのあたり。 ▲マジックタイムの母タイムウィルテルはフローラS、紫苑Sともに2着、祖母フサイチカツラは万葉Sで3着、ダイヤモンドSで4着となった。ブライアンズタイムUSA×サドラーズウェルズの組み合わせだけを見ても、長距離適性は高いが瞬発力不足も仕方がないところ。そこにサンデーサイレンスUSA×トニービンIREの父は、大レース向きの瞬発力補強として最適だろう。しかも血統表上ではサンデーサイレンスUSA、トニービンIRE、ブライアンズタイムUSAの旧3大種牡馬の揃い踏みとなる。父はサンデーサイレンスUSA系としては晩成のせいか春の牝馬G1では今イチだが、この世代はヌーヴォレコルトが桜花賞-G1で馬券圏内に食い込んでおり、これまでの傾向とは違う結果を見込んでおいてもいいかもしれない。 △フォーエバーモアは伯母にCCAオークス-G1のシャロンUSAがいて、その孫ジャスタウェイは現在の暫定世界ランキング1位。父が欧風血統のサンデーサイレンスUSA直仔で、母エターナルビートUSAが米国血統主体のアウトブリードという点ではジャスタウェイと共通している。こちらは母方の遠い代にブルーラークスパーやラトロワンヌといったサンデーサイレンスUSAと相性のいい血が多く潜んでおり、ここ一番での爆発力は秘めているはずだ。 ヌーヴォレコルトは米国の名門ネイティヴストリート系。そこに代々ミスタープロスペクター、ダンチヒ系チーフズクラウン、ヌレエフ系のBCマイル勝ち馬スピニングワールドUSAと配合されてきた。マイラー寄りとはいえパワフルな主流血脈を集め、しかもそれぞれが名門牝系出身の名血で奥が深い。父ハーツクライのサポートがあれば距離克服も難しくない。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2014.5.25
©Keiba Book