2014マイルチャンピオンシップ


正しいディープの選び方

 この秋のG1は重賞未勝利馬が勝つ流れと並行して、当たり前のようにディープインパクト産駒が巻き返しており、秋華賞-G1、天皇賞(秋)-G1、エリザベス女王杯-G1を制して春の勝ち鞍3に並んだ。ただ、困ったことにディープインパクト産駒は出走数が多い。今回も6頭出しだ。下表は過去にG1でディープインパクト産駒が5頭以上出走した場合の成績を並べた。10回のうち5回は勝っていて、近年はタイトル奪取の成功率も高まっているが、必ずしも人気を正しく反映しているわけではなく、むしろ仲間内での序列が崩壊しているケースが多い。掴みどころがない。どうしたらいいのでしょうか。ここで、ディープインパクト産駒には複数のG1を勝った産駒がジェンティルドンナとヴィルシーナの2頭しかいないこと、その2頭が5歳世代で新たに天皇賞(秋)-G1に勝ったスピルバーグも5歳だったことを思い出そう。そう、ディープインパクト産駒の5歳から軸を選べばいい。

 ワールドエースはディープブリランテ、ゴールドシップと争ったクラシックから5歳で復帰するまで屈腱炎による長い休養を挟んだが、春の京都のマイラーズC-G2で鮮やかな復活を遂げた。かつてのライバルが種牡馬になったりフランスに遠征している一方、5歳を迎えてまだ10戦。怪我によるものとはいえ、同じ素質ならゆっくりと力をつけた方がより高いところに到達する可能性もある。母マンデラGERはディアナ賞-G1(独オークス)、ポモーヌ賞-G2、サンタバーバラH-G2といずれも3着。長距離向きだが決め手に欠けた。その半弟マンデュロは5歳時にイスパーン賞-G1、プリンスオブウェールズS-G1、ジャックルマロワ賞-G1と3つのG1を含め5連勝の快進撃を見せた。凱旋門賞-G1の前哨戦フォワ賞-G2を勝ったあとに右後肢の管骨骨折が判明して引退してしまったが、ドイツ血統のイメージを覆すスピードと距離適性の幅を示した。バーデン大賞-G1のタイガーヒルGERなどで知られるドイツのヴィッテキンツホフ牧場で育った牝系で、4代母マンドリアーレの産駒には1990年のメールミュルヘンスレネン-G2(独2000ギニー)とウニオンレネン-G1に勝ったマンデルバウムがいる。3代母マンデルアウゲは、直仔に目立つ産駒こそ出なかったが、独ダービー馬ネッカル、同オルシニ、ノルトラインヴェストファーレン大賞のノーフォークの母ナメディを通じて大種牡馬ティチノ5×4×4、更にアリシドンとアクロポリスの全兄弟4×3と第二次大戦前後の独英の血を緊密に並べてある。それが大きく開花したのがマンデュロであり、父にディープインパクトを配したワールドエースでは、より日本的な瞬発力を備えて大きな実を結ぶのではないだろうか。


多頭数出しのディープインパクト産駒
レース頭数内訳
2011優駿牝馬4着マルセリーナ(1人気)8着ハッピーグラス(17)9着ハブルバブル(4)
11着メデタシ(9)14着グルヴェイグ(3)15着サイレントソニック(15)
2012皐月賞2着ワールドエース(2人気)3着ディープブリランテ(3)7着ベールドイン
パクト(13)11着アーデント(8)18着アダムスピーク(5)
2012東京優駿1着ディープブリランテ(3人気)3着トーセンホマレボシ(7)4着ワー
ルドエース(1)8着エタンダール(13)9着ベールドインパクト(12)
14着スピルバーグ(9)18着ヒストリカル(6)
2012菊花賞4着ベールドインパクト(10人気)6着ロードアクレイム(3)7着ダノンジェ
ラート(12)9着マウントシャスタ(2)10着エタンダール(8)11着ニューダ
イナスティ(13)13着アーデント(16)
2012マイルチャンピオンシップ3着ドナウブルー(5人気)5着リアルインパクト(9)6着ダノンシャーク(6)
11着マルセリーナ(8)12着ファイナルフォーム(3)
2013マイルチャンピオンシップ1着トーセンラー(2人気)3着ダノンシャーク(1)5着ドナウブルー(10)
8着レッドオーヴァル(11)10着リアルインパクト(13)
2014ヴィクトリアマイル1着ヴィルシーナ(11人気)5着キャトルフィーユ(13)7着デニムアンド
ルビー(4)8着スマートレイアー(1)12着エバーブロッサム(16)
15着ラキシス(9)16着ウリウリ(5)
2014安田記念4着ダノンシャーク(9人気)5着ワールドエース(3)8着フィエロ(6)
12着エキストラエンド(12)13着リアルインパクト(14)14着トーセンラー(8)
16着ミッキーアイル(2)
2014天皇賞(秋)1着スピルバーグ(5人気)2着ジェンティルドンナ(2)7着デニムアンド
ルビー(6)8着サトノノブレス(11)12着ディサイファ(8)13着マーティン
ボロ(7)
2014エリザベス女王杯1着ラキシス(3人気)5着キャトルフィーユ(8)6着ショウナンパンドラ(4)
10着スマートレイアー(5)11着ヴィルシーナ(7)
G1に産駒が5頭以上出走したときの成績

 フィエロは重賞未勝利というこの秋のG1勝ち馬の傾向にも沿う。母ルビーIREはG1・7連勝の名馬ロックオブジブラルタルIREの全妹だから、大雑把にいえばミッキーアイルと似たような配合になるが、種牡馬としてのデインヒルUSAとロックオブジブラルタルIREを比べた場合、やはり父デインヒルUSAの偉大さにより敬意を表すべきではあろう。フィエロの姉でサドラーズウェルズ産駒のプレシャスジェムは4歳時に3連勝で愛G3勝ちにまで到達しており、晩成の傾向がある系統で、4代母リヴァーレディの産駒にはプールデッセデプーラン-G1(仏2000ギニー)勝ち馬で名種牡馬のリヴァーマンがいる。京都4歳特別のケイウーマンIREやその仔でダイヤモンドS-G3に勝ったモンテクリスエス、NHK杯のアスワンもこの牝系。

 ▲ミッキーアイルは母スターアイルIREがダート1000mの勝ち馬ながら、祖母は2500mのミネルヴ賞-G3の勝ち馬で、3代母はエイコーンS-G1など米で2、3歳時にG1・4勝を挙げた名牝。超名牝のゴーフォーワンドと同い年でこの実績は大変なもので、繁殖牝馬としても成功し、産駒に阪神牝馬Sのダイヤモンドビコー、孫にアッシュランドS-G1のライラックスアンドレースUSAらが出た。4代母のマイジュリエットも名牝で、4歳時の1976年にはヴォスバーグS-G2で牡馬の強豪を蹴散らし、米最優秀スプリンターに選ばれている。距離もこなしたので完全なスプリンターというわけではなかったが、ギャラントマンに由来する天才的なスピードは、代を経てミッキーアイルの個性の一部を支えているのかもしれない。

 エリザベス女王杯に勝ったラキシスはディープインパクト×ストームキャットの配合で、このパターンは桜花賞のアユサン、東京優駿のキズナに続く3例目となる。ディープインパクトによって米国の主流血脈ストームキャットが生かされることになったのはめでたい限りだが、このレースは2010年エイシンフォワード、2011年エイシンアポロンの連勝などストームキャット直系が特異に活躍する傾向がある。ホウライアキコは父系曽祖父がストームキャット。母の父がサンデーサイレンスUSAだから日本向けの配合といえるし、その一方でミスタープロスペクター4×4、ノーザンダンサー5×4、セクレタリアト5×5と米国らしさも失っていない。4代母ベティズシークレットの産駒には英ダービー馬セクレトUSA、5代母ベティロレインの産駒にジョッキークラブ賞-G1(仏ダービー)勝ち馬カラコレロがいる名門。ハープスターと0秒3差、ミッキーアイルと0秒1差の力は侮れない。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2014.11.23
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