2012天皇賞(秋)


4歳世代の反撃

 競走馬は生き物であり、年によって天候などの環境が変わるので、生まれた年が違えば能力の水準に差が出るのはありそうなこと。試しに古馬混合G1勝ちを生年毎に数えてみると、ウオッカ、ダイワスカーレットの2004年生まれが16勝、2005年7勝、2006年11勝、2007年15勝、2008年18勝、2009年15勝、2010年3勝とはっきり差が出た(10月26日現在、パート1G1のみ、海外を含む)。オルフェーヴル世代の2008年生まれはロードカナロアが香港スプリント-G1を2勝し、今年もアドマイヤラクティがコーフィールドC-G1に勝つなど国内の枠に収まらない活躍を見せた。ひとつ下の現5歳、2009年生まれもジャスタウェイ、ジェンティルドンナ、ハナズゴールが海外G1に勝っていて、いずれ強力な2008年世代を上回る可能性がある。こうなるとしわ寄せがくるのは下の世代で、2005年生まれが苦戦したように、現4歳の2010年生まれが今年になって勝ったのはコパノリッキーのフェブラリーS-G1とコパノリチャードの高松宮記念-G1だけ。やっぱり5歳が強いよねということにはなるのだが、かといって4歳がこのままG1・3勝に終わるとも考え辛い。どこかで反撃があって、ある程度帳尻は合わせてくると考えるのが自然だろう。だとすれば、チャンスは5歳の2強が休み明けの今回ではないだろうか。
 サトノノブレスは昨年の菊花賞2着、その後G2とG3に勝った。実績不足は確かだが、それを補うのが母の父トニービンIREの存在。下表に示した通り90年代後半の直仔の大活躍から、2代目が主力となる時代を迎えてもその存在感は大きい。ジャスタウェイは3代前なので、これをトニービンIREの手柄とするのはさすがに無理がある気がしないでもないが、ハーツクライにはトニービンIRE的サンデーサイレンスUSAという面もある。オフサイドトラップ、トーセンジョーダンなど、人気薄での一発があるのも特長だ。半兄にエプソムC-G3や関屋記念-G3で2着となったヒカルオオゾラがいる程度で近親に大物はいなくても、4代母はアンティックヴァリューUSA。アンティックヴァリューUSAは2冠の名牝ベガを生み、ベガの孫にはハープスターが現れた。アンティックヴァリューUSAにネヴァーベンド系アイリッシュリヴァー、ボールドルーラー系オールウェイズランラッキーとナスルーラ系を重ねられた祖母ならトニービンIREの瞬発力がより強く現れる可能性が高い。父ディープインパクトによって、その個性は良い方に増幅されるのではないだろうか。


天皇賞(秋)で際立つトニービンの働き
年度着順 馬名性齢人気オッズ 備考
1994ロイスアンドロイス牡41165.7トニービンIRE(母の父Key to the Mint)
1995サクラチトセオー牡525.3トニービンIRE(母の父ノーザンテーストCAN)
1997エアグルーヴ牝424.0トニービンIRE(母の父ノーザンテーストCAN)
1998オフサイドトラップ牡7642.4トニービンIRE(母の父ホスピタリテイ)
2003テンザンセイザ牡51031.0トニービンIRE(母の父Caerleon)
2004アドマイヤグルーヴ牝4917.0母エアグルーヴの父がトニービンIRE
2007カンパニー牡6624.5父ミラクルアドマイヤの父がトニービンIRE
2009カンパニー牡8511.5父ミラクルアドマイヤの父がトニービンIRE
2010アーネストリー牡524.9母レットルダムールの父がトニービンIRE
2011トーセンジョーダン牡5733.3父ジャングルポケットの父がトニービンIRE
2012ルーラーシップ牡524.5母エアグルーヴの父がトニービンIRE
2013ジャスタウェイ牡4515.5父ハーツクライの母の父がトニービンIRE

 ジェンティルドンナが左回りで負けたのは昨年のドバイシーマクラシック-G1・2着と天皇賞(秋)-G1・2着の2回だけ。3歳春の優駿牝馬-G1の圧勝、秋にはジャパンC-G1でオルフェーヴルをねじ伏せ、この春もドバイシーマクラシック-G1で絶体絶命の場面から馬群をこじ開けるように外に進路を取ると鋭く伸びて強豪シリュスデゼーグルFRに1 1/2馬身の差をつけた。シーマクラシックでのレーティングが119にとどまったので世界ランキングには入っていないが、長距離部門で世界の牝馬の5本の指に入るのは間違いない。母ドナブリーニGBが勝ったチーヴァリーパークS-G1とチェリーヒントンS-G2はいずれも直線コースの2歳6F戦。一度走った右回りアスコットの8Fでは大敗。母の父ベルトリーニもロンシャン1600mで大敗した。回りの左右の得手不得手が親からどれだけ伝わるものなのかは不明だし、全姉ドナウブルーは5勝のうち4勝が京都なので、あまり関係がないのかもしれない。ただ、長い直線を飽きず諦めずに走る能力、そのメンタルな面はヨーロッパのスプリンターから受けたものではないだろうか。メイダンの直線を一瞬で抜け出した脚もそうかもしれない。気がかりといえば年を重ねるとともに一所懸命なときとそうでないときの差が大きくなってきたことだが、東京であれば大きく崩れることは考えにくい。

 上半期に▲フェノーメノとゴールドシップで長距離部門の古馬G1を独占したステイゴールド産駒は、秋を迎えるとゴールドシップは凱旋門賞-G1でやる気を示さず、3歳牝馬のレッドリヴェールが伸び悩み、ここにきて風向きが変わってきた。少々逆風の方が力を発揮するのがステイゴールド産駒ではあるが、東京のG1に限ると勝ったのは3歳時のオルフェーヴルだけ。フェノーメノ自身も青葉賞-G2には勝ったが、東京優駿-G1と3歳時のこのレース、2度のG1では惜敗しているのも事実。対ジェンティルドンナで2度とも先着を許しているのは、オルフェーヴルやゴールドシップらのステイゴールド産駒の一流馬に共通するレディファースト属性の片鱗ではないかとの疑いもある。そのあたりが力上位を認めつつ飛びつけない部分。

 3歳世代は牝馬ハープスターが頂点にいて、牡馬三冠は結果的には3頭が分けた。それを考えると初対決の上の世代を突破するほどの勢いはないのではないか。ただ、世代としてはそうでも、個別に考えればイスラボニータが初経験となる東京2000mでとてつもなく強い可能性は残る。恐らく中山の2000mより、東京2400mよりも優れたパフォーマンスを示すだろう。サンデーサイレンスUSAの初年度産駒フジキセキにとっては実質的な最終世代で、祖母の父にフジキセキに合うミスタープロスペクター系のクラフティプロスペクターを持ち、母の父は切れ味鋭いコジーン。スプリンターズSに勝ったスノードラゴンは父系祖父がコジーンで母の父がサンデーサイレンスUSA直仔だから、天地を逆にしたパターン。サンデーサイレンスUSAの血が加わることで、コジーンの切れ味に力強さが加わるようだ。

 エピファネイアは父が天皇賞(秋)を中山と東京で勝ち、母の父スペシャルウィークも1999年に勝った。母シーザリオは広い東京の優駿牝馬も、小回りハリウッドパークのアメリカンオークス-G1も勝った。回りの左右がどうこうという馬ではないけれど、血統的背景はこのコースが一番似合う。

 強い6歳世代ヒットザターゲットは母の父タマモクロスが1988年の勝ち馬。祖母の父ニホンピロウイナーは1985年3着同着。3代母の父ノーザンテーストCANはこのレースに合う。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2014.11.1
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