昨年10月24日に新ひだか町の北海道市場で行われたジェイエス繁殖セールの取引価格トップ3はエクセルマネジメントの繁殖牝馬が占めた。エリモピクシーが99,750,000円、エリモハルカが33,600,000円、エリモフィナーレが21,525,000円。これらをはじめこのセールでは繁殖牝馬19頭が売却され、続いて行われたエクセルマネジメントプライベートセールでは1歳馬3頭、当歳馬5頭が完売。1969年に始まったえりも農場(旧称えりも牧場)の馬産は幕を閉じた。80年代のサニーシプレー(1978年生、父エリモシブレーUSA、阪神3歳S)、トウケイホープ(1976、イースタンフリートUSA、東京大賞典)、エリモローラ(1979、イースタンフリートUSA、日経新春杯)、パッシングサイアー(1979、ゲイサンFR、菊花賞2着)、パッシングパワー(1983、ゼダーンGB、金鯱賞)、90年代のエリモシック(1993、ダンシングブレーヴUSA、エリザベス女王杯)、エリモダンディー(1994、ブライアンズタイムUSA、日経新春杯)、エリモエクセル(1995、ロドリゴデトリアーノUSA、優駿牝馬)、2000年代に入ってのエリモブライアン(1997、ブライアンズタイムUSA、ステイヤーズS)、エリモハリアー(2000、ジェネラスIRE、函館記念)などに代表されるその生産馬は、その勝ち鞍の数とか印象の深さとは別に、関西の競馬にいつもいて当たり前の存在だった。 結果的に見ると、最も多くの重賞勝ち馬を送り出したのは1974年に輸入されたデプグリーフUSAを祖とする系統で、その3代母バイユーはデラウェアオークス、エイコーンS、ガゼルH、マスケットHなど米国で7勝を挙げて最優秀3歳牝馬となった名牝。半姉デルタはアーリントンラッシーS、全姉レヴィーはCCAオークスなどに勝ち、それぞれ現代まで名門として牝系を発展させている。米国に残ったバイユーの子孫にもスルーオゴールドからアプティテュードまで、多くの活躍馬が出ている。その名牝バイユーにボールドルーラー、バックパサーと米国を代表する種牡馬を重ね、更に凱旋門賞馬ヴェイグリーノーブルを配したのがデプグリーフUSA。50年代、60年代の米国の名血と重厚な欧州血脈のカクテルは、今となって見ると日本特有の軽いスピードを載せるにはまことに良い土台となる構成だった。デプグリーフUSAが10歳のときに生まれたエリモシューテングはテスコボーイGB牝馬らしい細面の美しい黒鹿毛で、2戦目の新馬戦と忘れな草賞に勝って引退した。4番仔エリモシックはエリモシューテングの仔として最も活躍し、3歳時に秋華賞2着、4歳時のエリザベス女王杯では後方から直線猛然と伸び、連覇のかかったダンスパートナーをクビ差捉えた。馬体やレース振りから受ける個人的な印象では、キョウエイマーチを抑えてこちらが日本でのダンシングブレーヴUSAの牝馬の代表産駒といえる。5年後にその全妹として生まれたエリモピクシーは5歳でようやくオープンに上がると、6歳で重賞入着を果たすようになって暮れのファイナルSに勝った。姉ほどレースに力を注力しなかったというと語弊があるが、そのおかげもあってか、あるいは5歳若かったことで配合相手が違ったためか、ノースヒルズマネジメントで繁殖牝馬になると、初年度産駒リディルがデイリー杯2歳SとスワンS-G2に勝つなどさっそく姉を凌ぐ活躍を見せた。父がダンスインザダークに替わった◎クラレントは兄同様にデイリー杯2歳S-G2に勝ち、その後G3勝ちを3つ積み上げての古馬G1初挑戦となる。母が奥手、父にもその傾向ありという血統を考えれば、4歳秋まで時間がかかったことはむしろ良かったのではないだろうか。血統表2代目にサンデーサイレンスUSAとダンシングブレーヴUSA、3代目にノーザンダンサー直仔ニジンスキーとリファール、名牝キーパートナーとデプグリーフUSA、そして5代目に隠し味のようにディナーパートナーとバックパサーが並ぶ配合は高級感があって、どっしりと据わりが良い。父の産駒は菊花賞3勝ばかり目立つが、安田記念-G1に勝ったツルマルボーイ、3年前にここで2着のダノンヨーヨーもいる。 |
デプグリーフ系の新展開 |
デプグリーフUSA Depgleef(USA)(牝、鹿、1970、父Vaguely Noble)1974年4月11日生、 1975年4月輸入 北海道・えりも町 えりも牧場 パッシングサイアー(牡、栗、1979、ゲイサンFR)4勝 2着:菊花賞 パッシングパワー(牡、芦、1983、ゼダーンGB)7勝 金鯱賞 エリモシューテング(牝、黒鹿、1984、テスコボーイGB)2勝 忘れな草賞 | エリモシック(牝、青鹿、1993、ダンシングブレーヴUSA)4勝 エリザベス女王杯 2着:秋華 | | 賞、札幌記念、3着:4歳牝馬特別(東) | エリモピクシー(牝、鹿、1998、ダンシングブレーヴUSA)7勝 ファイナルS 3着:京都牝馬 | | S、愛知杯、福島牝馬S | | リディル(牡、栗、2007、アグネスタキオン)5勝 スワンSG2、デイリー杯2歳、米子S、谷 | | | 川岳S | | クラレント(牡、栗、2009、ダンスインザダーク)5勝 デイリー杯2歳SG2、富士SG3、東京 | | | 新聞杯、エプソムC | | レッドアリオン(牡、鹿、2010、アグネスタキオン)2勝 2着:ニュージーランドTG2 3着: | | アーリントンCG3 現役 | ディーエスハリアー(牡、鹿、2002、コマンダーインチーフGB)3勝 3着:プリンシパルS エリモハスラー(牝、黒鹿、1988、ブレイヴェストローマンUSA)未勝利 | エリモハリアー(セン、鹿、2000、ジェネラスIRE)9勝 函館記念×3、巴賞 2着:朝日チャレ | ンジC 3着:オールカマーG2、金鯱賞 エリモフローレンス(牝、鹿、1990、イルドブルボンUSA) エリモダンディー(牡、黒鹿、1994、ブライアンズタイムUSA)5勝 日経新春杯、京阪杯、若 駒S 2着:京都金杯、すみれS |
ダンスインザダークが切れ味で屈するとすればディープインパクト産駒だろう。○トーセンラーは5代母がリファールの母で当時は大レースだったレディーズH勝ちグーフト。そこにアルザオとリパティアを経由して戻し交配的にリファール4×4を重ね、同時にミスタープロスペクター、サンデーサイレンスUSAを導入した。半兄フラワーアリーはトラヴァーズS-G1に勝ってブリーダーズCクラシック-G1・2着の一流のスピードを誇っただけに、距離短縮が吉と出るかも。 ▲ダノンシャークは3代母の孫に凱旋門賞馬モンジューIRE、4代母の産駒にアーリントンミリオン-G1に勝ちジャパンC-G1・3着のディアドクターFRが出る牝系。母の父カーリアンは海外繋養馬として最大級の成功を収め、このレースに限ってもシンコウラブリイIRE、ゼンノエルシドIREと2頭の勝ち馬を送った。 △サンレイレーザーの父ラスカルスズカは2010年を最後に種牡馬を引退。今年のスズカマンボとスズカフェニックスのブレークを見ると血縁関係がなくてもひょっとしてと思うが、それはともかく、今回この馬が唯一の非サンデーサイレンスUSA。父ラスカルスズカがサイレンススズカの半弟で父系はダンシングブレーヴUSA、母の父はブリーダーズCマイルを制した万能コジーン。小倉記念勝ちの半兄サンレイジャスパーがミスズシャルダン産駒だったことを思うと、永井家の血のマジックがここでもないだろうか。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2013.11.17
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