2013菊花賞


リアルシャダイの京都愛

 リアルシャダイUSAがリーディングサイアーの座に就いたのは1993年の一度きり。今から20年前のことになる。長く続いたノーザンダンサー時代と、その後のトニービンIRE、ブライアンズタイムUSA、サンデーサイレンスUSAの3大種牡馬時代の狭間の一瞬だった。しかし、リアルシャダイUSAの評価はリーディングサイアーの勲章以上に、長距離戦、特に京都のG1での強さによって高まった。馬券的にはそういうことだ。2年目の産駒シャダイカグラが桜花賞を制したあと、4年目の産駒イブキマイカグラが京都で行われた阪神3歳Sに勝つと、ライスシャワーの菊花賞と天皇賞(春)2勝を加えたほか、しばしば人気薄で上位に食い込み京都の長丁場での強さを印象付けた。2000年代に入って母の父に回るようになると、その頻度こそ下がるものの、トウカイポイントによる11番人気でのマイルチャンピオンシップ制覇のほか、イングランディーレが10番人気で天皇賞(春)を逃げ切っている。近年はG1の舞台にたどり着くことが稀になっていて、昨年のタガノビッグバンはフローテーション以来4年ぶりの「母の父リアルシャダイUSA」だった(14着)。20数頭しか残っていない父リアルシャダイUSAの繁殖牝馬は最も若いもので現在13歳。残された少ないチャンスを生かして京都の長丁場の王者らしさを見せることができるかが◎ヤマイチパートナーに懸かっている。祖母の父シーホークFRは2頭のダービー馬と2頭の春の天皇賞馬を送った昭和の長距離血統。3代母の父がタマナーFRなので、祖母は父系祖父エルバジェ×母の父タマナーFRのアサヒエンペラー(春の天皇賞2着)と似た構成になる。4代母ワカシラオキは名門フロリースカップGB系でも特に活気のある分枝で、ここからはダービー馬ウオッカを筆頭に、桜花賞馬シスタートウショウ、そして菊花賞馬マチカネフクキタルが現れている。父のサムライハートはサンデーサイレンスUSA×エアグルーヴという血統表を見れば説明不要の良血馬。現役時は5戦3勝に終わったが、勝った3つはすべて京都でのものだ。父がサンデーサイレンスUSA×トニービンIRE×ノーザンテーストCANの配合で、母の父がリアルシャダイUSAということは、1990年代から2007年までのリーディングサイアーの血をすべて持つことになる。サンデーサイレンスUSA系種牡馬とリアルシャダイUSA牝馬の組み合わせにシラオキの血が加わる構成はフローテーションと同じ。祖母の父として半世紀前の血が残る点はダービー馬キズナに似ており、父系の新しい血と母系の古い血の年代的なズレが何らかの効果を上げているのではないかと見られるケースは少なくない。ともあれ、ぐだぐだというよりも、京都の長距離ならリアルシャダイUSAといったベタな狙いが功を奏すこともある。


京都のG1級競走におけるリアルシャダイUSAの成功
レース距離着順人気馬名性齢母の父
2008菊花賞3000215フローテーション牡3スペシャルウィークリアルシャダイUSA
2008天皇賞(春)G1320013アドマイヤジュピタ牡5フレンチデピュティUSAリアルシャダイUSA
2004天皇賞(春)3200110イングランディーレ牡5ホワイトマズルGBリアルシャダイUSA
2003天皇賞(春)320028サンライズジェガー牡5リアルシャダイUSAトウショウボーイ
2002マイルChp.1600111トウカイポイントせん5トウカイテイオーリアルシャダイUSA
1999秋華賞2000210クロックワーク牝3リアルシャダイUSAゲイメセンUSA
1998エ女王杯220025ランフォザドリーム牝4リアルシャダイUSAスルーザドラゴンUSA
1997菊花賞300027ダイワオーシュウ牡3リアルシャダイUSAロイヤルスキーUSA
1995天皇賞(春)320014ライスシャワー牡6リアルシャダイUSAマルゼンスキー
1995天皇賞(春)320026ステージチャンプ牡5リアルシャダイUSAノーザンテーストCAN
1995天皇賞(春)320033ハギノリアルキング牡5リアルシャダイUSADanzig
1993菊花賞300029ステージチャンプ牡3リアルシャダイUSAノーザンテーストCAN
1993天皇賞(春)320012ライスシャワー牡4リアルシャダイUSAマルゼンスキー
1992菊花賞300012ライスシャワー牡3リアルシャダイUSAマルゼンスキー
1992天皇賞(春)320033イブキマイカグラ牡4リアルシャダイUSAノーザンテーストCAN
1991菊花賞300021イブキマイカグラ牡3リアルシャダイUSAノーザンテーストCAN
1991天皇賞(春)3200312オースミシャダイ牡5リアルシャダイUSAミルジョージUSA
1990阪神3歳S160012イブキマイカグラ牡2リアルシャダイUSAノーザンテーストCAN
集計京都(1着-2着-3着-着外) 産駒:4-7-3-30 娘の産駒:3-1-0-16
集計他場(1着-2着-3着-着外) 産駒:1-3-9-35 娘の産駒:1-2-2-43

 エピファネイアは馬力のあり過ぎるスペシャルウィークといった印象はあるものの、父シンボリクリスエスUSAが有馬記念2勝、母シーザリオがオークス馬、母の父スペシャルウィークが春の天皇賞馬と単純に考えれば長距離が向かない要素は少ない。祖母はサドラーズウェルズ×ハビタットのニックスで一流マイラーの多く出たパターンだが、米国で芝11FのラトガーズH-G3に勝って距離に融通の利くところを示した。ヘイルトゥリーズンの近交のほかに、遠い代でプリンスキロの血が幾重にも重ねられている点が加速しだすと制御が難しいレースぶりに現れているのかもしれないが、そこは父が3歳秋に完成を見たように、ひと夏越しての成長でカバーできるのではないか。

 きさらぎ賞以降のタマモベストプレイは距離が延びるにつれて着順を落としていて、スワンSのタマモホットプレイ、米子Sのタマモナイスプレイの全弟らしく距離の壁があるようにも見えるが、それにしてはキズナから0秒4、エピファネイアから0秒3差の東京優駿-G1など踏ん張りが利き過ぎているのではないかと疑念も生じる。母が9歳時に産んだタマモホットプレイと、18歳時の本馬では全兄弟でも異なる形質が現れて不思議ではない。母と同い年の父に関しても同様のことがいえる。この牝系はサッカーボーイ、そしてここ2年の勝ち馬を出したステイゴールドと同じで、2006年の2着馬ドリームパスポートは牝系と父が同じ。ドリームパスポートからトニービンIREを引いたものが本馬の血統になるので、見た目に京都長丁場適性では減点が必要になりそうだが、母の父ノーザンテーストCANの万能性のひとつには距離克服能力も含まれる。近い例ではダイワスカーレットの有馬記念-G1とか。菊花賞実績に限っても、1989年の勝ち馬バンブービギン、1991年2着イブキマイカグラ、1993年2着ステージチャンプ、1998年3着エモシオン、そして昨年の2着馬スカイディグニティが挙げられる。

 ユールシンギングはエピファネイアと同じ父と母の父の組み合わせ。こちらは祖母がトニービンIRE×リアルシャダイUSA、4代母がノーザンテーストCAN産駒のオークス馬シャダイアイバーという、より日本での信頼性が高い血を重ねられている。勢いに乗った父の産駒は相手強化を楽々と突破してしまうケースがあるので要注意。

 ダービーフィズは母が菊花賞馬マンハッタンカフェの全妹。自身の全姉アプリコットフィズはクイーンS-G3に勝っていて、半兄クレスコグランドは京都新聞杯-G2勝ち馬。同じファミリーのビワハイジも次々と重賞勝ち馬を送り出しているように、ドイツ牝系に蓄えられた力をサンデーサイレンスUSAで引き出すパターンは本当に成功例が多く、しかも大物が現れる。菊花賞馬オウケンブルースリと春の天皇賞馬ジャガーメイル、そしてエリザベス女王杯-G1で大穴を開けたクィーンスプマンテを出した父にも京都長丁場の新王者の資格あり。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2013.10.20
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