2013ジャパンC


日本的な鋭利追求

 ワールドベストレースホースランキング(IFHA発表)の10月6日版では2400mを中心としたL部門のランキングは1位が凱旋門賞のトレヴ(レーティング130)、2位がキングジョージVI世&クイーンエリザベスSのノヴェリスト、以下、オルフェーヴル(125)、ゴールドシップ(124)、アンテロ(124)、セイントニコラスアベイ(124)、イッツアダンディール(121)、キズナ(121)、フリントシャー(120)、トレーディングレザー(120)と続く。トレヴは早くに休養を決め、ノヴェリストは引退してしまったから、このカテゴリから日本のビッグスリーよりも強い馬を呼んでこようにも、そもそもそんな馬はほとんどいないのである。また、最近でも凱旋門賞-G1を勝ったばかりのデインドリームGERやソレミアIRE、ブリーダーズCターフ-G1を勝ったばかりのコンデュイットIREに来てもらっても、馬券圏内には食い込めないのだから、大物が来ればいいというものでもない。一方で、かつてはフランス馬やイギリス馬やドイツ馬、アメリカの芝馬、また日本馬でも多様な血統が活躍した場が、ほとんどサンデーサイレンスUSA系の2400m血統を中心とした限られた系統のみで占められるようになった。具体的には下表にある通り、サンデーサイレンスUSA系の隙間をキングカメハメハやジャングルポケットが埋め、東京2400mでの実績がないものに台頭の余地はない。


年々厳しくなるJCクラブ入会資格
馬名性齢父の備考母の父
2003タップダンスシチーUSA牡6Pleasant TapBCクラシック2着Northern Dancer
ザッツザプレンティ牡3ダンスインザダーク日本ダービー2着Miswaki
シンボリクリスエス牡4Kris S.英ダービー馬の父Gold Meridian
2004ゼンノロブロイ牡4サンデーサイレンスUSAジャパンC馬の父マイニングUSA
コスモバルク牡3ザグレブUSA愛ダービー馬トウショウボーイ
デルタブルース牡3ダンスインザダーク日本ダービー2着Dixieland Band
2005アルカセットUSA 英牡5KingmamboジャパンC馬の父Niniski
ハーツクライ牡4サンデーサイレンスUSAジャパンC馬の父トニービンIRE
ゼンノロブロイ牡5サンデーサイレンスUSAジャパンC馬の父マイニングUSA
2006ディープインパクト牡4サンデーサイレンスUSAジャパンC馬の父Alzao
ドリームパスポート牡3フジキセキ※1トニービンIRE
ウィジャボードGB 英牝5Cape Cross※2Welsh Pageant
2007アドマイヤムーン牡4エンドスウィープUSA宝塚記念馬の父サンデーサイレンスUSA
ポップロック牡6エリシオFR凱旋門賞馬サンデーサイレンスUSA
メイショウサムソン牡4オペラハウスGBジャパンC馬の父ダンシングブレーヴUSA
2008スクリーンヒーロー牡4グラスワンダーUSA有馬記念馬サンデーサイレンスUSA
ディープスカイ牡3アグネスタキオン日本ダービー馬の父Chief's Crown
ウオッカ牝4タニノギムレット日本ダービー馬ルションUSA
2009ウオッカ牝5タニノギムレット日本ダービー馬ルションUSA
オウケンブルースリ牡4ジャングルポケットジャパンC馬Silver Deputy
レッドディザイア牝3マンハッタンカフェ有馬記念馬Caerleon
2010ローズキングダム牡3キングカメハメハ日本ダービー馬サンデーサイレンスUSA
ブエナビスタ 降着牝4スペシャルウィークジャパンC馬Caerleon
ヴィクトワールピサ牡3ネオユニヴァース日本ダービー馬Machiavellian
2011ブエナビスタ牝5スペシャルウィークジャパンC馬Caerleon
トーセンジョーダン牡5ジャングルポケットジャパンC馬ノーザンテーストCAN
ジャガーメイル牡7ジャングルポケットジャパンC馬サンデーサイレンスUSA
2012ジェンティルドンナ牝3ディープインパクトジャパンC馬Bertolini
オルフェーヴル牡4ステイゴールド日本ダービー馬の父メジロマックイーン
ルーラーシップ牡5キングカメハメハ日本ダービー馬トニービンIRE
※1その後ドバイシーマクラシック勝ち馬の父 ※2その後英ダービー馬の父

 こういった特殊化には功罪両面あって、外国馬が最後の瞬発力比べ、脚の速さ比べで日本馬に対抗し得ないのはレースの興趣をそぐ負の部分だろうが、日本の血統の特長として軽い鋭さを突き詰めるのは悪くないとは思う。いずれ遠からず揺り戻しは来るのだろうから、それまでにはっきりとした個性を備えた血統を確立すること自体は、世界を相手に戦う際のひとつの武器になるだろう。それを発揮する場がどれだけあるかの問題は付きまとうにしても。
 デニムアンドルビーはディープインパクト×キングカメハメハのジャパンCトレンド配合。母の半姉トゥザヴィクトリーはドバイワールドC-G1で2着となり、秋にエリザベス女王杯に勝った。気難しいので成績にムラがあり、エリザベス女王杯直後のジャパンC-G1は惨敗したが、集中力を発揮した際の瞬発力、底力は普通の名牝の水準を超えていた。その伯母をディープインパクトの方にシフトしたとすると、より鋭く、より一発勝負的な性格が強まるように思える。秋のG1・2戦が不本意な内容だったぶん、反転攻勢に注げるパワーが温存されている可能性がある。

 ゴールドシップは昨年ハナ差2着のオルフェーヴルと同じ配合。父のステイゴールドはジャパンC-G1に4〜7歳時の4回出走して(10)(6)(8)(4)、母の父メジロマックイーンは4歳時に1番人気となってゴールデンフェザントUSAの4着に敗れた。ステイゴールドは最後の香港ヴァーズ-G1で使った本気を7歳時に出せば勝てたのかもしれないし、メジロマックイーンはハロン11秒台で争う脚の速さだけで負けたという面があった、そのあたりの短所はゴールドシップにも明らかに受け継がれている。とはいっても、それを補って余りあるミラクルな力を備えているに違いないのはオルフェーヴルを見ても分かる。

 エイシンフラッシュの母の父プラティニGERはメルクフィンク銀行賞-G1勝ち馬で1993年のジャパンC-G1で4着だった。母ムーンレディGERは独セントレジャー-G2勝ち馬で3代母マジョリタートが独1000ギニー-G2、独オークス-G2の勝ち馬。その孫ミスティックリップスGERは独オークス-G1に勝ち、繁殖牝馬として輸入されている。父のキングズベストUSAはアーバンシーUSAの半弟で英2000ギニー-G1勝ち馬。凱旋門賞-G1勝ち直後に出走したジャパンCで8着に敗れたアーバンシーUSAは、繁殖牝馬となってガリレオ、ブラックサムベラミー、シーザスターズと名馬名種牡馬を生み、当代で最も影響力のある牝馬となった。自身と親族の敗退歴を合わせれば、ジャパンC渇望度はメンバー中随一かもしれない。

 ジェンティルドンナは母ドナブリーニGBが2歳戦で4戦3勝。チェリーヒントンS-G2、チーヴァリーパークS-G1と6Fで連勝したスプリンターだった。3歳時は春の大敗続きから一度は立ち直ってG3で2着、軽いレースで1着となったが、その後は尻すぼみだった。そんな母の早熟性とディープインパクトの急上昇性能が噛み合ったのが3歳時の無敵ぶりだったとすると、それを今年も引き続き期待するのは酷かもしれない。

 大穴でヒットザターゲット。母はタマモクロス×ニホンピロウイナーというサンデーサイレンスUSA前夜の日本的配合。重賞では愛知杯の2着が最高着順だったが、ときには胸のすく追い込みも見せた。そこへ父にキングカメハメハを迎えて、現代的な、サンデーサイレンスUSA系に対抗しうるパワーも備わった。走る格好はタマモクロスを偲ばせるところがありますよね。

 外国招待馬は3頭とも来春の天皇賞-G1に来てもらえると楽しそうな顔ぶれ。上がり3F33秒台の戦いは厳しいと思うが、この春ブラックステアマウンテンIREであっと言わせたマリンズ厩舎のシメノンは嵌れば馬券圏内があるかも。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2013.11.24
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