ワールドベストレースホースランキング(IFHA発表)の10月6日版では2400mを中心としたL部門のランキングは1位が凱旋門賞のトレヴ(レーティング130)、2位がキングジョージVI世&クイーンエリザベスSのノヴェリスト、以下、オルフェーヴル(125)、ゴールドシップ(124)、アンテロ(124)、セイントニコラスアベイ(124)、イッツアダンディール(121)、キズナ(121)、フリントシャー(120)、トレーディングレザー(120)と続く。トレヴは早くに休養を決め、ノヴェリストは引退してしまったから、このカテゴリから日本のビッグスリーよりも強い馬を呼んでこようにも、そもそもそんな馬はほとんどいないのである。また、最近でも凱旋門賞-G1を勝ったばかりのデインドリームGERやソレミアIRE、ブリーダーズCターフ-G1を勝ったばかりのコンデュイットIREに来てもらっても、馬券圏内には食い込めないのだから、大物が来ればいいというものでもない。一方で、かつてはフランス馬やイギリス馬やドイツ馬、アメリカの芝馬、また日本馬でも多様な血統が活躍した場が、ほとんどサンデーサイレンスUSA系の2400m血統を中心とした限られた系統のみで占められるようになった。具体的には下表にある通り、サンデーサイレンスUSA系の隙間をキングカメハメハやジャングルポケットが埋め、東京2400mでの実績がないものに台頭の余地はない。 |
年々厳しくなるJCクラブ入会資格 | |||||
年 | 馬名 | 性齢 | 父 | 父の備考 | 母の父 |
2003 | タップダンスシチーUSA | 牡6 | Pleasant Tap | BCクラシック2着 | Northern Dancer |
ザッツザプレンティ | 牡3 | ダンスインザダーク | 日本ダービー2着 | Miswaki | |
シンボリクリスエス | 牡4 | Kris S. | 英ダービー馬の父 | Gold Meridian | |
2004 | ゼンノロブロイ | 牡4 | サンデーサイレンスUSA | ジャパンC馬の父 | マイニングUSA |
コスモバルク | 牡3 | ザグレブUSA | 愛ダービー馬 | トウショウボーイ | |
デルタブルース | 牡3 | ダンスインザダーク | 日本ダービー2着 | Dixieland Band | |
2005 | アルカセットUSA 英 | 牡5 | Kingmambo | ジャパンC馬の父 | Niniski |
ハーツクライ | 牡4 | サンデーサイレンスUSA | ジャパンC馬の父 | トニービンIRE | |
ゼンノロブロイ | 牡5 | サンデーサイレンスUSA | ジャパンC馬の父 | マイニングUSA | |
2006 | ディープインパクト | 牡4 | サンデーサイレンスUSA | ジャパンC馬の父 | Alzao |
ドリームパスポート | 牡3 | フジキセキ | ※1 | トニービンIRE | |
ウィジャボードGB 英 | 牝5 | Cape Cross | ※2 | Welsh Pageant | |
2007 | アドマイヤムーン | 牡4 | エンドスウィープUSA | 宝塚記念馬の父 | サンデーサイレンスUSA |
ポップロック | 牡6 | エリシオFR | 凱旋門賞馬 | サンデーサイレンスUSA | |
メイショウサムソン | 牡4 | オペラハウスGB | ジャパンC馬の父 | ダンシングブレーヴUSA | |
2008 | スクリーンヒーロー | 牡4 | グラスワンダーUSA | 有馬記念馬 | サンデーサイレンスUSA |
ディープスカイ | 牡3 | アグネスタキオン | 日本ダービー馬の父 | Chief's Crown | |
ウオッカ | 牝4 | タニノギムレット | 日本ダービー馬 | ルションUSA | |
2009 | ウオッカ | 牝5 | タニノギムレット | 日本ダービー馬 | ルションUSA |
オウケンブルースリ | 牡4 | ジャングルポケット | ジャパンC馬 | Silver Deputy | |
レッドディザイア | 牝3 | マンハッタンカフェ | 有馬記念馬 | Caerleon | |
2010 | ローズキングダム | 牡3 | キングカメハメハ | 日本ダービー馬 | サンデーサイレンスUSA |
ブエナビスタ 降着 | 牝4 | スペシャルウィーク | ジャパンC馬 | Caerleon | |
ヴィクトワールピサ | 牡3 | ネオユニヴァース | 日本ダービー馬 | Machiavellian | |
2011 | ブエナビスタ | 牝5 | スペシャルウィーク | ジャパンC馬 | Caerleon |
トーセンジョーダン | 牡5 | ジャングルポケット | ジャパンC馬 | ノーザンテーストCAN | |
ジャガーメイル | 牡7 | ジャングルポケット | ジャパンC馬 | サンデーサイレンスUSA | |
2012 | ジェンティルドンナ | 牝3 | ディープインパクト | ジャパンC馬 | Bertolini |
オルフェーヴル | 牡4 | ステイゴールド | 日本ダービー馬の父 | メジロマックイーン | |
ルーラーシップ | 牡5 | キングカメハメハ | 日本ダービー馬 | トニービンIRE | |
※1その後ドバイシーマクラシック勝ち馬の父 ※2その後英ダービー馬の父 |
こういった特殊化には功罪両面あって、外国馬が最後の瞬発力比べ、脚の速さ比べで日本馬に対抗し得ないのはレースの興趣をそぐ負の部分だろうが、日本の血統の特長として軽い鋭さを突き詰めるのは悪くないとは思う。いずれ遠からず揺り戻しは来るのだろうから、それまでにはっきりとした個性を備えた血統を確立すること自体は、世界を相手に戦う際のひとつの武器になるだろう。それを発揮する場がどれだけあるかの問題は付きまとうにしても。 ○ゴールドシップは昨年ハナ差2着のオルフェーヴルと同じ配合。父のステイゴールドはジャパンC-G1に4〜7歳時の4回出走して(10)(6)(8)(4)、母の父メジロマックイーンは4歳時に1番人気となってゴールデンフェザントUSAの4着に敗れた。ステイゴールドは最後の香港ヴァーズ-G1で使った本気を7歳時に出せば勝てたのかもしれないし、メジロマックイーンはハロン11秒台で争う脚の速さだけで負けたという面があった、そのあたりの短所はゴールドシップにも明らかに受け継がれている。とはいっても、それを補って余りあるミラクルな力を備えているに違いないのはオルフェーヴルを見ても分かる。 ▲エイシンフラッシュの母の父プラティニGERはメルクフィンク銀行賞-G1勝ち馬で1993年のジャパンC-G1で4着だった。母ムーンレディGERは独セントレジャー-G2勝ち馬で3代母マジョリタートが独1000ギニー-G2、独オークス-G2の勝ち馬。その孫ミスティックリップスGERは独オークス-G1に勝ち、繁殖牝馬として輸入されている。父のキングズベストUSAはアーバンシーUSAの半弟で英2000ギニー-G1勝ち馬。凱旋門賞-G1勝ち直後に出走したジャパンCで8着に敗れたアーバンシーUSAは、繁殖牝馬となってガリレオ、ブラックサムベラミー、シーザスターズと名馬名種牡馬を生み、当代で最も影響力のある牝馬となった。自身と親族の敗退歴を合わせれば、ジャパンC渇望度はメンバー中随一かもしれない。 △ジェンティルドンナは母ドナブリーニGBが2歳戦で4戦3勝。チェリーヒントンS-G2、チーヴァリーパークS-G1と6Fで連勝したスプリンターだった。3歳時は春の大敗続きから一度は立ち直ってG3で2着、軽いレースで1着となったが、その後は尻すぼみだった。そんな母の早熟性とディープインパクトの急上昇性能が噛み合ったのが3歳時の無敵ぶりだったとすると、それを今年も引き続き期待するのは酷かもしれない。 大穴でヒットザターゲット。母はタマモクロス×ニホンピロウイナーというサンデーサイレンスUSA前夜の日本的配合。重賞では愛知杯の2着が最高着順だったが、ときには胸のすく追い込みも見せた。そこへ父にキングカメハメハを迎えて、現代的な、サンデーサイレンスUSA系に対抗しうるパワーも備わった。走る格好はタマモクロスを偲ばせるところがありますよね。 外国招待馬は3頭とも来春の天皇賞-G1に来てもらえると楽しそうな顔ぶれ。上がり3F33秒台の戦いは厳しいと思うが、この春ブラックステアマウンテンIREであっと言わせたマリンズ厩舎のシメノンは嵌れば馬券圏内があるかも。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2013.11.24
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