2013天皇賞・春


衝撃のステゴ・キラー

 昨年この時期のオルフェーヴルはご存知のように阪神大賞典G2で大逸走をやらかし、天皇賞(春)G1では後方のまま伸びることもなく11着に敗れた。どちらも違う意味でまともに走っていないのは確かだが、それを横において阪神大賞典G2と天皇賞(春)G1の時計を単純に比較すると(表1)、同じカテゴリのレースとはいえその質はまったく違っていたことが分かる。時計分析がこの欄の仕事ではないので、大雑把に結論を示せば、一完歩をこなすのに負荷のかからない軽い馬場で速く走るだけの争いになるとステイゴールド産駒は何かに負ける場合があるということ。凱旋門賞G1であれだけの瞬発力を示す馬は古今東西めったにいるものではないが、オルフェーヴルが昨年のこのレースで勝とうとすれば、上がり3F32秒2の脚を使う必要があった。無理です。表ではゴールドシップが勝った今年の阪神大賞典G2の通過タイムを並べてみたが、馬場状態が違うにもかかわらず、上がりの時計は実によく似ている。それにオルフェーヴルと同じステイゴールド×メジロマックイーンのゴールドシップは対応できるのかということになる。菊花賞G1当時60.8-48.3-36.1-24.2-12.4の上がりを差し切っている実績があるので、成長分を加味すれば、仮に昨年と同じ流れになっても差し切れる計算が成り立つが、最後に11秒台の軽い切れ味を発揮できるものがいて速さ比べになってしまうと分が悪い可能性がある。ちょうど母の父メジロマックイーンがジャパンCでゴールデンフェザントUSAに、有馬記念でダイユウサクに敗れたときと同様のシーンがあり得ないとはいえない。


表1)阪神大賞典と天皇賞(春)の通過タイムの比較
2012阪神大
賞典〈稍〉
13.312.313.313.612.412.712.313.913.212.213.212.112.011.913.43:11.8
 前半38.952.564.9 中盤64.3  上り62.649.437.325.313.4 
2012天皇賞
(春)〈良〉
13.011.611.311.712.411.911.912.712.712.712.111.911.411.712.312.53:13.8
 前半35.947.660.0 中盤61.7※ 上り59.847.936.524.812.5 
2013阪神大
賞典〈良〉
13.111.512.012.112.512.312.513.112.411.812.112.212.112.313.03:05.0
 前半36.648.761.2 中盤62.1  上り61.749.637.425.313.0 
※中盤6つのタイムの合計に5/6を掛けて均した

 そこで、思い出すべきはディープインパクトということになる。2006年の天皇賞(春)はレコード決着で、レースの上がりは12.7-11.3-11.0-11.2-11.3。ディープインパクト自身は4Fを45秒を切るくらいの脚で上がっている。その産駒として天皇賞(春)G1初挑戦となるトーセンラーは菊花賞G1で3着。オルフェーヴルから0秒7差の完敗だった。前走で負かしたベールドインパクトから寸法を測ると、仮想オルフェーヴルであるゴールドシップにも完敗なので、これを仮想ディープインパクトとするには若干の無理がある。これは認めなければいけない。しかし、表2に示したように、ディープインパクト産駒の新規領域開拓力は凄まじいもので、3歳での安田記念G1制覇とか、3歳牝馬によるジャパンCG1制覇とか、それまでに例のないことをやってしまうので、いつも意外に人気がない。つまり、無理を押して狙ってこそ妙味があるのがディープインパクト産駒ということになる。トーセンラーの母の父リシウスは2歳時にミドルパークSG1に勝ち、3歳で英2000ギニーG1、ジュライCG1、ジャックルマロワ賞G1などで2着となったスプリンターに近いマイラー。それでも、母の父としては仏オークス馬ネブラスカトルネードを出しているし、トーセンラーの半兄フラワーアリーも米国で“真夏のダービー”トラヴァーズSG1に勝っている。リファール4×4の近交はジェンティルドンナに通じるもので、これはステゴ・キラーとしての武器となるかもしれない。5代母グーフトがリファールの母なので、より念入りにリファールらしい味付けが施されているともいえるだろう。祖母がサドラーズウェルズ×ヴェイグリーノーブルという欧州ステイヤー配合でもあってずっしりとした土台の上にディープインパクトの軽い切れを載せた配合。長距離を走ってなおかつ鋭く伸びる可能性あり。


表2)ディープインパクト産駒のG1入着歴
年月日レース距離

馬名
タイム後半
3F

馬体

10.12.19朝日杯FS1600リアルインパクト081.34.034.845042
12.19朝日杯FS1600リベルタス081.34.035.02490-2
11.04.10桜花賞1600マルセリーナ081.33.934.324524
04.24皐月賞2000ダノンバラード082.01.335.384644
05.08NHKマイルC1600コティリオン081.32.433.42468-2
05.08NHKマイルC1600リアルインパクト081.32.534.244962
06.05安田記念1600リアルインパクト081.32.034.59494-2
10.23菊花賞3000トーセンラー083.03.535.234368
12.11阪神JF1600ジョワドヴィーヴル091.34.934.14418-2
12.04.08桜花賞1600ジェンティルドンナ091.34.634.32456-4
04.08桜花賞1600ヴィルシーナ091.34.735.14434-4
04.15皐月賞2000ワールドエース092.01.734.924460
04.15皐月賞2000ディープブリランテ092.01.836.735020
05.13ヴィクトリアM1600ドナウブルー081.32.534.1743212
05.13ヴィクトリアM1600マルセリーナ081.32.733.534482
05.20優駿牝馬2400ジェンティルドンナ092.23.634.234604
05.20優駿牝馬2400ヴィルシーナ092.24.435.32432-2
05.27東京優駿2400ディープブリランテ092.23.834.53496-6
05.27東京優駿2400トーセンホマレボシ092.23.936.175046
10.14秋華賞2000ジェンティルドンナ092.00.433.114742
10.14秋華賞2000ヴィルシーナ092.00.433.924500
11.11エ女王杯2200ヴィルシーナ092.16.336.11448-2
11.11エ女王杯2200ピクシープリンセス082.16.335.154504
11.18マイルChp.1600ドナウブルー081.33.034.154342
11.25ジャパンC2400ジェンティルドンナ092.23.132.83460-14
13.04.07桜花賞1600アユサン101.35.035.57484-12
04.07桜花賞1600レッドオーヴァル101.35.035.124304
1着:9回、2着:9回、3着:9回、着外:55、勝率:0.109、連対率:0.219、3着内率:0.329(4月21日現在)

 カポーティスターは3代母ローラローラFRが1996年の勝ち馬サクラローレルの母。仏版菊花賞だったころのロイヤルオーク賞G1に勝ったレディベリーやその産駒で3000m時代のパリ大賞典G1勝ち馬ルネンジョーンと同じ牝系。キンシャサノキセキAUSや豪AJCオークスG1のアブソルートリーAUSなど最近の活躍馬もいて、ファミリーの活気は維持されている。ディープインパクトやステイゴールドを脅かすとすればハーツクライ産駒ではないかともいえる。

 レッドカドーGBは1980年代終盤にスプリンターとして名を馳せたカドージェネルーの産駒。当時は欧州のスプリンターのレベルが高く、ハビタット系やアホヌーラ系や、多様な血統が鎬を削って活躍していた。この父系も歴史遺産的価値を備えたテューダーミンストレル直系。どうして3200mのレースに来ることになったのかとも思うが、ウォーニングが4000mのカドラン賞G1勝ち馬を出したケースがあるし、欧州血統だけに多様な血脈が潜在しているためともいえる。好位直後の内を進んで抜け出すような競馬ができれば、あっといわせるかもしれない。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2013.4.28
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