2013有馬記念


逆風に走れ黄金船

 今年の凱旋門賞-G1でのオルフェーヴルの敗戦は地元にトレヴというお化けのような牝馬がいて巡り合わせが悪かったと片付けられているが、印象だけで物を言わせてもらえば、着順は2着で変わらないとしても3着馬アンテロをクビ差抑えるので精一杯というはずはなく、せめてもう1馬身ほどの伸びがあってしかるべきではなかったか。昨年のオルフェーヴルの最終レーティングは127(対象は宝塚記念-G1)で、今年は凱旋門賞-G1を終えて125。2ポイント=1馬身差として、今年はその数字通りにパフォーマンスを落としていることになる。あまりに一瞬にしてトレヴに差を付けられて走る気をなくしたか、推測は様々に成り立つだろうが、馬がその気にならなければ、人がどれだけ手を尽くしてもどうにもできない。それが顕著になるところがステイゴールド血統の恐ろしさ。ほぼ時を同じくして、日本では同じ血統の後輩ゴールドシップがよりはっきりとした形で迷走モードに入っている。

 ステイゴールドの現役時代を振り返ると、武豊騎手に乗り替わった6歳5月の目黒記念で重賞初制覇、藤田騎手に乗り替わった翌年の日経新春杯で重賞2勝目、海外遠征を敢行して武豊騎手に乗り替わったドバイシーマクラシック-G2で海外重賞初制覇、日本に帰ると1位入線失格を含めて4度敗れ、再び海を渡って武豊騎手を背にした現役最終戦の香港ヴァーズ-G1制覇と、海外遠征や騎手が乗り替わったタイミングで良い結果を出すことが多かった。いつもと違う刺激が何かあることで、走る気を起こした、あるいはやめる気を出さずにすんだのではないだろうか。

 ステイゴールド産駒のこのコースでの成績の良さは、現在連覇継続中で3勝を収め、昨年は1、2着を独占したこの有馬記念-G1に限らず、下表にある通りクラスを問わず高いアベレージを保っている。これも推測だけで言わせてもらえば、フィジカルな適性とは別に、コーナーが6つあって馬にしてみればいつ終わるか分からないややこしいコース設定がステイゴールド産駒のややこしさにフィットするのではないか。今年のゴールドシップの凡走は京都2回、東京1回。広くて、しかも時計の速いコースはステイゴールド産駒が好まない傾向にあるが、そこにほかの要因も絡んで極端な結果となった。中山2500mへのコース替わり、ムーア騎手への乗り替わりは、それを一変させる引き金にはなるだろう。ちなみに、ステイゴールド4歳時の秋は京都大賞典4着(0秒6差)→天皇賞(秋)2着(0秒2差)→ジャパンC-G1・10着(1秒4差)を経て有馬記念ではグラスワンダーUSA、メジロブライトに続く3着(0秒5差)に入った。父と同じくらいの反発力を見込めば、前走の惨敗にこだわる必要はない。下総御料牧場が導入した8代母星旗USAに遡る牝系からは、東京優駿のクモハタ、ハクチカラ、天皇賞(春)のタカクラヤマ、菊花賞のニホンピロムーテーが出る。6代母梅城=ハマカゼは昭和23年の桜花賞馬。母の父メジロマックイーンはアストニシメントに遡る小岩井牝系だが、そこに星友USAの仔月友、種正GBの孫ボストニアンと下総御料牧場ゆかりの血を重ねられていて、スタミナ豊かなこの牝系の古風な良さが生きる配合といえる。


ステイゴールド産駒の中山2500m成績  (2006年〜2013年12月15日まで)
年月日レース名馬場馬名性齢父馬人気勝ち時計体重
13/12/013歳上1000万マイネルジェイド牡3マヤノトップガン82.36.3456
13/09/21九十九里特別 1000万レオプログレス牡8ヒシマサルUSA32.34.1466
13/03/23日経賞G2フェノーメノ牡4デインヒルUSA12.32.0494
12/12/23有馬記念G1ゴールドシップ牡3メジロマックイーン12.31.9506
12/12/23グッドラックH 1000万マイネルメダリスト牡4アサティスUSA22.34.4496
12/12/023歳上1000万サトノシュレン牡4エルハーブUSA22.33.3480
12/09/22九十九里特別 1000万フェデラルホール牡3ドクターデヴィアスIRE12.32.9478
12/09/163歳上500万マイネルリヒト牡3タイキシャトルUSA22.32.5450
11/12/25有馬記念G1オルフェーヴル牡3メジロマックイーン12.36.0462
10/01/11迎春S 1600万ジャミール牡4Sadler's Wells12.34.6452
09/12/27有馬記念G1ドリームジャーニー牡5メジロマックイーン22.30.0426
09/09/26九十九里特別 1000万ロードアイアン牡3アジュディケーティングUSA42.32.5482
トータル56戦(12.6.7.31) 勝率 0.214 連対率 0.321 3着内率 0.446 単勝回収率 101.6%

 オルフェーヴルは三冠制覇、2度の欧州遠征と突っ走っるようにして濃密な競走生活を送ってきたが、5歳といえば全兄のドリームジャーニーが迷走の時期をようやく脱して宝塚記念-G1と有馬記念-G1を制した歳だ。有馬記念-G1は全兄弟で2勝、同じステイゴールド×メジロマックイーンでは3勝しているので改めて何を言うこともないが、ノーザンテーストCAN4×3に由来する芯の強さは、若さに任せて押し切った3歳時以上のしたたかさにつながるのではないだろうか。

 ▲ヴェルデグリーンの父はステイゴールドが4着に終わった2001年のジャパンC-G1勝ち馬で、母の父はステイゴールドの最も惜しい大レース2着であった1999年の天皇賞(秋)勝ち馬。優駿牝馬に勝った祖母ウメノファイバーにもステイゴールドと対戦歴があり、その1999年のジャパンC-G1は1着スペシャルウィーク、6着ステイゴールド、12着ウメノファイバーという結果だった。このような因縁が子孫に何らかの影響を与えることはないが、スペシャルウィーク×サクラユタカオーの母の配合は父のハイペリオン的な側面を強調しそうで、字面から受ける東京2400m向きの印象よりも、中山の消耗戦で本来の良さが出る可能性がある。

 2005年のこのレースでディープインパクトを破ったハーツクライは、ステイゴールドと並ぶ産駒3頭出し。カレンミロティックは祖母が仏オークス馬。4代母はアガ・ハーン殿下のシャヒナーズで、その孫にはガネー賞など牡馬相手にフランスとドイツでG1に2勝したカルタジャーナがいる。その半弟カラジIREは中山グランドジャンプ3連覇の名馬だから、遠くで日本と、中山と深いつながりのある牝系。父の持つリファール、祖母の父カーリアンの父ニジンスキーを経由してのノーザンダンサー5×5がつなぐ欧州血脈に母の父から米国的なスピードが加わり、中山2500mで機動力が生きそう。

 1月にハタノヴァンクールが川崎記念に勝つと、後を襲ったホッコータルマエがJBCクラシックまでダート重賞6勝、それを倒したのもベルシャザールで、その間に芝ではロードカナロアが高松宮記念-G1、安田記念-G1、スプリンターズS-G1、香港スプリント-G1を制して短距離グランドスラム的な偉業を達成していた。これら全部キングカメハメハ産駒。芝長距離では京都大賞典-G2でのヒットザターゲットの金星もある。それらA級馬に限らず下級馬もよく走って出走頭数、勝ち馬頭数、勝利回数のすべてでトップの成績を収めたにもかかわらず、ホームランをポンポン打つディープインパクトがいたためリーディングサイアーの座には手が届かないが、既にキングカメハメハ自身がリーディングとなった2011年の収得賞金は超えている。トゥザグローリーラブリーデイが父の賞金加算に貢献するかも。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2013.12.22
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