2012皐月賞


父仔制覇を待つ者たち

 2008年はアグネスタキオン産駒のキャプテントゥーレが勝ち、2009年のアンライバルド、2010年のヴィクトワールピサはいずれもネオユニヴァース産駒だから、昨年で途切れるまで皐月賞は3年連続で父仔制覇となっていた。その前は大きなブランクがあって、91年トウカイテイオー(父シンボリルドルフ)、90年ハクタイセイ(ハイセイコー)、85年ミホシンザン(シンザン)、83年ミスターシービー(トウショウボーイ)の4組によって達成されている。前期父仔制覇群と後期父仔制覇群の間に17年のブランクができたのは、サンデーサイレンスUSAとブライアンズタイムUSAという皐月賞2大種牡馬の時代が続いたから。両者の比較では人気に応えるサンデーサイレンスUSA、とんでもない穴を開けるブライアンズタイムUSAという傾向の違いがあった。今年、父仔制覇の資格がある種牡馬はアグネスタキオン、ディープインパクト、ダイワメジャーの3頭。既に達成済みのアグネスタキオンは今年の2歳がラストクロップなので、チャンスはあと2回。昨年、熾烈な2歳リーディング争いを演じたディープインパクトとダイワメジャーの2頭は、この先も長くライバル関係を続けていく可能性がある。現役時を振り返るとディープインパクトは1.3倍の1番人気だったのに対し、スプリングS3着で出走枠に滑り込んだダイワメジャーは32.2倍の11番人気。仮にディープインパクトとダイワメジャーが皐月賞新2大種牡馬に育つとすると、ブライアンズタイムUSA的な役割は後者が担うことになる。
 ダイワメジャー産駒のうち、若葉S2着で出走権を得た◎メイショウカドマツは母の父がクリスエス。これがロベルト直仔なので、ブライアンズタイムUSA的な要素を備えているが、それ以上に注目しておきたいのが豪華な牝系。A4号族はアメリカンファミリー(保険会社じゃないよ)のなかでもスワップスやアイアンリージUSAといったケンタッキーダービー馬を出して最も華やかな一族だが、特に3代母コートリーディーの系統は近年の発展目覚しく、G2以上の勝ち馬を抜粋しただけでも下のように巨大なになってしまう。日本でも最優秀2歳牝馬ヤマニンパラダイスとその産駒ヤマニンセラフィムやヤマニンアルシオン、そして10年前に15番人気でこのレースに勝ったノーリーズン、そして、G1に手が届きそうなダークシャドウもいる。この牝系の最大の特徴は、アリダー、ダンチヒ、ミスタープロスペクターからフォーティナイナーに至るまで、その時代を代表するような大種牡馬ばかりを配合されて成功していることで、それらの強い個性を受け入れるのは牝系に相当な懐の深さがないとできない芸当といえる。メイショウカドマツの場合はロベルト系×ミスタープロスペクター系のニックスとなる母アルペンローズUSAに、父からサンデーサイレンスUSAとノーザンテーストCANを導入して、より日本的な色合いを強めた。ヘイローとロベルトという同い年のヘイルトゥリーズン産駒が3代目に並び、スカーレットインクの持つ米国ローカル血脈も、米国エスタブリッシュメント血統といえる母と好対照をなす。


華麗なるアメリカンファミリー〜コートリーディー系
(G1、G2勝ち馬のみ抜粋)
COURTLY DEE コートリーディー(牝、1968年生、父Never Bend)米で33戦4勝
 ALI OOP アリウープ(牡、1974、Al Hattab)サプリングS-米G1
 Vireo(牝、1976、True Knight)
  | Rush for Gold(牝、1983、Quack)
  |   PRECIOUS GLITTER プレシャスグリッター(牝、1993、デインヒルUSA)マジックナ
  |       イトS-豪G2
 Princess Oola(牝、1978、Al Hattab)
  | AZZAAM アザーム(牡、1987、Chief's Crown)シドニーC-豪G1
 Foreign Courier(牝、1979、Sir Ivor)
  | GREEN DESERT グリーンデザート(牡、1983、Danzig)ジュライC-英G1
  | Yousefia(牝、1989、Danzig)
  |   マチカネハツシマダUSA(牝、1995、Private Account)
  |     ダークシャドウ(牡、2007、ダンスインザダーク)毎日王冠-G2
 Embellished(牝、1980、Seattle Slew)
  | SEATTLE DAWN シアトルドーン(牝、1986、Grey Dawn)デラウェアH-米G2
  |   ゴールドサンライズUSA GOLD SUNRISE(牝、1993、フォーティナイナーUSA)ゴー
  |         ルデンロッドS-米G2
  |     Badraan(牝、1998、Danzig)
  |       EASTERN ARIA イースタンアリア(牝、2006、Halling)パークヒルS-英G2
 ALTHEA アルセア(牝、1981、Alydar)アーカンソーダービー-米G1、サンタスザナS-米G1
  |     ハリウッドスターレットS-米G2、デルマーフューチュリティ-米G2、デルマーデビュタ
  |     ーントS-米G2、ハリウッドジュヴェナイル選手権-米G2
  | Destiny Dance(牝、1986、Nijinsky)
  |  | BALLETTO バレット(牝、2002、ティンバーカントリーUSA)フリゼットS-米G1
  | Aurora(牝、1988、Danzig)
  |  | ARCH アーチ(牡、1995、Kris S.)スーパーダービー-米G1
  |  | ACOMA アコマ(牝、2005、エンパイアメーカーIIUSA)スピンスターS-米G1、ミシズリ
  |  |       ヴィアS-米G2
  | ヤマニンパラダイスUSA(牝、1992、Danzig)阪神3歳牝馬S
 バラダUSA Barada(牝、1982、Damascus)
  | アンブロジンUSA(牝、1988、Mr. Prospector)
  |   ノーリーズン(牡、1999、ブライアンズタイムUSA)皐月賞
 KETOH ケトー(牡、1983、Exclusive Native)カウディンS-米G1
 AISHAH アイシャー(牝、1987、Alydar)レアパフュームS-米G2
  | ALDIZA アルディザ(牝、1994、Storm Cat)ゴーフォーワンドS-米G1
  | ATELIER アトリエ(牝、1997、Deputy Minister)モリーピッチャーBCH-米G2
 AQUILEGIA アクアリージア(牝、1989、Alydar)ニューヨークH-米G2
 トワイニングUSA TWINING(牡、1991、フォーティナイナーUSA)ピーターパンS-米G2、ウィ
  |     ザーズS-米G2
 Amizette(牝、1992、フォーティナイナーUSA)
   アルペンローズUSA Alpine Rose(牝、1999、Kris S.)
     メイショウカドマツ(牡、2009、ダイワメジャー)

 ○グランデッツァはこれまでで最もアグネスタキオン産駒らしい走法に見える。晩年の産駒に何かしらのエッセンスが強く伝わるということは、根拠はともかく昔からいわれていて、これもその一例ではあるだろう。半姉マルセリーナは昨年の桜花賞馬で、アイルランド産の母マルバイユIREはイタリアでG3に2勝したあと、英仏遠征を試み、フランスのアスタルテ賞G1に勝った。1800mまで勝ち鞍はあるが、重賞勝ちはすべて1600mだった。母の父は英ダービーでも2着となったが、1600mに専念していればセントジェームズパレスSG1以外にもG1勝ちを上積みできたのではないかと思える部分もある。それだけに皐月賞に全力投入がいいのではないだろうか。

 ▲ゴールドシップはオルフェーヴルを筆頭にドリームジャーニー、フェイトフルウォーと特異な成功を示すステイゴールド×メジロマックイーンの配合。母ポイントフラッグはチューリップ賞2着の活躍馬で、5代母の産駒にオールカマーのスイートフラッグが出る。下総御料牧場の星旗USAに遡る古い名門牝系。祖母のプルラリズムUSA×トライバルチーフGBという配合にやや非力さを感じるが、そういった部分も補ってしまう力を持つのが父の特長のひとつでもある。△ワールドエースは母マンデラGERがドイツ血統だから、これから伸びる余地が大きい。ロジメジャーはジャパンCG1レコード勝ちのアルカセットUSAの甥。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2012.4.15
©Keiba Book