この春はオルフェーヴルが迷走を続けたかと思うとゴールドシップが皐月賞に完勝とステイゴールド産駒の周辺は今年も何かとにぎやか。そんな中で先週はステイゴールドの初年度世代で、最も初期の「代表産駒」エムエスワールドが京都ハイジャンプでレコード勝ちを果たした。障害とはいえ9歳を迎えての重賞初制覇は、引退戦となった7歳時の香港ヴァーズが最初で最後のG1勝ちだった父の個性の一部を強調してみせることになった。そんなこんなで今や堂々たる大種牡馬となったステイゴールドも、産駒の最初の重賞制覇はソリッドプラチナムによる2006年のマーメイドSであり、結局、初年度産駒で平地重賞に勝ったのはこれとコスモプラチナ(マーメイドS)の2頭。いずれも牝馬だった。成功種牡馬には、初期に牝馬の活躍が先行するケースは少なくないが、特に牝馬に偏りを見せるもの以外はやがてバランスがとれるようになる。ドリームジャーニー、ナカヤマフェスタ、オルフェーヴル、ゴールドシップとG1勝ち馬4頭どれもが牡馬というのも当初の成績からは考えにくい偏り方で、そろそろ牝馬にも大物が出てきておかしくない。◎アイスフォーリスは3代母が名牝ダリア。テキサスの石油王ネルソン・バンカー・ハント氏の生産所有馬としてフランスのモーリス・ジルベール厩舎からデビューして5カ国で勝利を挙げたダリアの競走馬としてのハイライトは、ラインゴールドIRE以下にあっという間に6馬身差をつけた1973年、ハイクレア以下においでおいでの楽勝を収めた1974年のキングジョージVI世&クイーンエリザベスSの連覇だろう。ダリアの父系は凱旋門賞馬ヴェイグリーノーブルからヴィエナ、オリオールを経てハイペリオンに遡る。母の父ハニーズアリバイはアリバイを経てハイペリオンに遡る。ヨーロッパ型の前者と、米国で成功した後者のミックスによるハイペリオン4×4は、その後の繁殖牝馬としての成功の基礎ともなっている。下の牝系図に示した通り、ノーザンダンサー系に限らず多様な種牡馬から活躍馬を送り出し、しばらく鳴りを潜めた分枝からも突如大物が現れたりするのは、ダリアの基礎牝馬としての血統構成の確かさゆえなのだろう。日本には直仔リヴリアUSAの種牡馬としての影響が強く、繁殖牝馬として輸入されたベゴニアUSAの子孫にはまだ重賞勝ち馬すら出ていないが、リボー系のプラグドニクル、怪物らしさが母の父として生きそうなクロフネUSAと配合されてきたこの母のポテンシャルは恐らく高い。これまでのレースぶりはクロフネUSA的な不器用さが災いしている面が見受けられるが、2400mに延びることで、これまで隠れていたステイゴールド〜サンデーサイレンスUSA的な瞬発力と底力が表に出てきそうだ。 |
ダリア一族の繁栄 |
DAHLIA ダリア(牝、栗毛、1970〜2001年、米国産、父Vaguely Noble、母Charming Alibi、母の父Honeys Alibi、) 2〜6歳時、仏愛英米加で48戦15勝。主な勝ち鞍:キングジョージY世&クイーンエリザベスSG1(2回)、サ ンクルー大賞G1、愛オークスG1、サンタラリ賞G1 ダハールUSA DAHAR(牡、1981、Lypahrd)リュパン賞G1、センチュリーHG1、サンルイスレイSG1、サンファン | カピストラーノ招待HG1他 リヴリアUSA RIVLIA(牡、1982、Riverman)ハリウッド招待HG1、カールトンF.バークHG1、サンルイスレイSG1他 ベゴニアUSA Begonia(牝、1983、Plugged Nickle) | Little Too Much リトルトゥーマッチ(セン、1990、Storm Bird)3着オスターマンポカルG3 | フサイチシンイチ(牡、1993、ノーザンテーストCAN)3着目黒記念 | リリウム(牝、2005、クロフネUSA) | アイスフォーリス(牝、2009、ステイゴールド)2着フローラSG2 DELEGANT デレガント(牡、1984、Grey Dawn)サンファンカピストラーノ招待HG1 Dahlia's Image ダリアズイミッジ(牝、1985、Lyphard) | Dahlia's Krissy ダリアズクリシー(牝、1996、Kris S.) | RITE OF PASSAGE ライトオブパシッジ(セン、2004、Giant's Causeway)ゴールドCG1 ワジドUSA WAJD(牝、1987、Northern Dancer)エヴリ大賞G2、ミネルヴ賞G3 | WALL SREET ウォールストリート(牡、1993、Mr. Prospector)カンバーランドロッジSG3 | Whist ウィスト(牝、1994、Mr. Prospector) | | Trick Taker トリックテーカー(牝、1999、Capote) | | MISSION CRITICAL ミッションクリティカル(セン、2004、ファンタスティックライトUSA)ワカニュイスタ | | | ッド国際SG1、ラフハビットプレートG3 | | BRILLANT LIGHT ブリリアントライト(セン、2005、ファンタスティックライトUSA)エイジャックスSG2 | NEDAWI ネダウィ(牡、1995、Rainbow Quest)英セントレジャーG1、ゴードンSG3 DAHLIA'S DREAMER ダリアズドリーマー(牝、1989、Theatrical)フラワーボウル招待HG1 |
東京2400mで見せた鮮やかな変わり身といえば昨年のウインバリアシオンが印象的。実際、ハーツクライ産駒は初年度産駒が3歳を迎えた昨年以降、東京2400mで19戦4勝2着5回3着4回、勝率0.210、連対率0.473、3着内率0.684という数字を残している。今回のように2頭出ていれば1頭は馬券になるということ。○サンシャインはワンカラットの半妹。母バルドウィナFRは3歳2月の2000m戦でデビューして、2100m、そして2100mのペネロープ賞G3と3連勝。その父ピストレブルーは凱旋門賞G1・3着、サンクルー大賞G1勝ちという2400mの馬だから、姉がスプリンターとして大成したのは、ほとんどその父ファルブラヴIREに起因すると考えて良さそうだ。父が替われば一変する可能性は少なくない。古色蒼然たるフランス血統を集めたこの母と父系のサンデーサイレンスUSAをトニービンIREがうまく繋ぐ役を果たしそうな配合。 ▲ミッドサマーフェアの父タニノギムレットは産駒ウオッカと合わせてダービー父娘制覇を達成していて、母の父キングマンボは直仔にダービー馬キングカメハメハとジャパンCG1勝ち馬エルコンドルパサーUSA、アルカセットUSAを送った。直系の孫からもダービー馬エイシンフラッシュが出ている。両者の組み合わせはチョウカイキャロル以来世界中で多くの大物を送ったロベルト系×ミスタープロスペクター系のニックスでもある。2009年の独ダービー馬ヴィーナーヴァルツァーはダイナフォーマー×キングマンボだから、特に似た配合。祖母ストームソングUSAはブリーダーズCジュヴェナイルフィリーズG1に勝った1996年の米最優秀2歳牝馬。距離、コースの適性、牝系の格まで非の打ちどころがないが、このレースはどこか首を傾げざるを得ない血統が結果を残してきた。逆説的ながら、その点が不安となる。 △アイムユアーズはひょっとすると来年のサマースプリントシリーズで大活躍しているかも知れないが、キングマンボ×サドラーズウェルズの母の父に再びサドラーズウェルズを重ねた形で、3代母がダイナカール。2000m以上のオープン実績皆無という父の産駒の傾向を覆す可能性がある。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2012.5.20
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