2012フェブラリーS


砂塵に隠したカリスマ的資質

 スタート直後の芝は別として、フェアで力がそのまま反映されやすいと思える東京ダート1600m。それでも週刊競馬ブックの「血統アカデミー」で指摘されている通り、「連覇がなく」、「パート2G1昇格後は2勝サイアーもいない」。わずかに見出せる反復性としてゴールドアリュール、エスポワールシチーの父仔制覇があるが、これも父は中山1800mでの勝利。過去にならいつつ、なおかつ前例を踏襲しない微妙な境界線上に勝ち馬は潜んでいるのではないだろうか。かつての札幌記念のように芝がないからダートで行っていたものを別にして、JRAでダート馬のための重賞として設けられたのはこのレースが最初。ダート馬の避難所としての初期、地方交流の活発化による急速なレベルアップがあった中期を経て、ドバイへのステップと上半期のチャンピオンシップ競走として現在につながるわけだが、一貫していえるのはマイナー血統の発掘と保全に寄与したこと。下表は勝ち馬の父とその当該年度末のサイアーランキングを示していて、トウショウペガサス、グランドオペラUSA、ヘネシーUSAあたりはこのレースのおかげで歴史に名を残すことができた。サンデーサイレンスUSAでさえ中山での1勝のみだし、あれだけダートの名馬を送り出したブライアンズタイムUSAは1勝も挙げていない。

 その観点から、今回の出走馬を父によって選別していくと、過去に産駒が勝ったもの、リーディング上位、他分野でG1勝ちがあるか望めそうなものなどを除外した結果、少々失礼ながら最適格者としてカリズマティックUSAとその産駒ワンダーアキュートが浮かび上がる。カリズマティックUSAはケンタッキーダービーG1、プリークネスSG1を連勝して、三冠最後のベルモントSG1のゴール前で故障を発症し3着に敗れた悲運の名馬。アメリカに残した産駒サンキングはG2とG3には4勝したが、G1は2着4回、3着4回と惜敗が続いた。日本に輸入されてからはジワジワ成績を上げて近年は唯一のグレード勝ち馬でもあるワンダーアキュートの活躍によって50位前後をキープしている。ストームバード系が日本で最初にG1勝ちを果たしたのはこのレースのサンライズバッカス(父ヘネシーUSA)。ヘネシーUSAとカリズマティックUSAは父系が同じというだけでなく、いずれもルイス夫妻の持ち馬で調教師はD.ウェイン・ルーカス。ヘネシーUSAは単年度供用されただけとはいえ、日本でのサイアーランキング上の地位もよく似ている。ワンダーアキュートは兄ワンダースピードがダート重賞5勝。5歳で急上昇して、6歳時から8歳時まで浮き沈みを繰り返しながら毎年重賞勝ちを果たした息の長さは特筆に価する。その兄を能力面で底上げしたのがこの弟と見れば、あと2〜3度は急成長を示す場面があるだろう。母の父プレザントタップは産駒のタップダンスシチーUSAでお馴染み。プレザントコロニー、ヒズマジェスティを経てリボーに遡る貴重なラインで、大レースでこそ底力が生きる。ちなみに、現在22連勝で米国の記録を更新中のラピッドリダックスの父はプレザントコロニー直仔のプレザントリーパーフェクト。母の父はストームキャットだから、天地を逆にしたような配合であり、異色の才能を期待できる血統なのかも知れない。


マイナー血統の聖域としてのフェブラリーS
(勝ち馬の父の種牡馬ランキング)
馬場時計勝ち馬性齢人気順位父系統
119841.40.1ロバリアアモン牡52サーペンフロGB23Turn-to
2851.36.9アンドレアモン牡61リュウファーロス74Bois Roussel
3861.36.7ハツノアモイ牡51サンシーFR33Fine Top
4871.36.5リキサンパワー牡64オーバーサーブUSA161Nijinsky
5881.37.7ローマンプリンス牡76ブレイヴェストローマンUSA3Never Bend
6891.37.2ベルベットグローブ牡62ロイヤルスキーUSA40Bold Ruler
7901.36.7カリブソング牡41マルゼンスキー6Nijinsky
8911.34.9ナリタハヤブサ牡41ナグルスキーCAN41Nijinsky
9921.35.4ラシアンゴールド牡410ラシアンルーブルUSA17Nijinsky
10931.35.7メイショウホムラ牡57ブレイヴェストローマンUSA9Never Bend
11941.37.8チアズアトム牡55トウショウボーイ6Princely Gift
12951.36.4ライブリマウント牡42グリーンマウントUSA27Lyphard
13961.36.5ホクトベガ牝63ナグルスキーCAN14Nijinsky
14971.36.0シンコウウインディ牡46デュラブUSA57Topsider
15981.37.5グルメフロンティア牡66トウショウペガサス109Luthier
16991.36.3メイセイオペラ牡52グランドオペラUSA85Nijinsky
1720001.35.6ウイングアロー牡54アサティスUSA15Topsider
18011.35.6ノボトゥルー牡55Broad Brush66Ack Ack
19021.35.1アグネスデジタル牡51Crafty Prospector87Mr. Prospector
20031.50.9ゴールドアリュール牡41サンデーサイレンスUSA1Turn-to
21041.36.8アドマイヤドン牡51ティンバーカントリーUSA11Mr. Prospector
22051.34.7メイショウボーラー牡41タイキシャトルUSA10Turn-to
23061.34.9カネヒキリ牡41フジキセキ2Turn-to
24071.34.8サンライズバッカス牡53ヘネシーUSA60Storm Bird
25081.35.3ヴァーミリアン牡61エルコンドルパサーUSA18Mr. Prospector
26091.34.6サクセスブロッケン牡46シンボリクリスエスUSA3Turn-to
27101.34.9エスポワールシチー牡51ゴールドアリュール12Turn-to
28111.36.4トランセンド牡51ワイルドラッシュUSA17Nearctic
※順位は当該年度の最終総合サイアーランキング(JBISによる)、1〜10回フェブラリーH、11〜13回G2、20回は中山1800mで施行

 セイクリムズンの父エイシンサンディもランキング50位台で安定しているが、こちらは名古屋GPのミスタキサイレンスやチューリップ賞のエイシンテンダーを出すマイナー種牡馬界の大御所。母の父サウスアトランティックIREの強い気性が距離適性の幅を狭めている可能性はあるが、オークス馬スマイルトゥモローも同じ母の父であり、ミルリーフ×リボーという配合だけにスタミナそのものはある。アストニシメントGB系の古い名門に、フロリースカップGB系の父という小岩井復古調をベースに、ノーザンダンサーの近交、そしてサンデーサイレンスUSAを重ねた温故知新型の凝った配合。一発があっても驚けない。

 トランセンドは母の父がトニービンIREということもあって東京での強さは格別。父は今回最多の3頭出しを実現しており、これはダート重賞には珍しい例。5代母の産駒にスワップス、6代母の産駒にアイアンリージUSAと古き良き時代のケンタッキーダービー馬が出る名門牝系で、それが日本で復活し、更にドバイで活躍するというスケールの大きさもいい。ただ、一昨年の後半からは一度の凡走もなく、ずっと強い競馬を続けてきた。この馬に限ったことではないが、気にしておくべき部分ではある。

 ヤマニンキングリーは父が02年の勝ち馬。東京での父仔制覇が達成されればこのレースでは初めて。芝とダートの両方で重賞勝ちを収めた点で、今のところ父に最も近づいたといえるし、古い話だが、札幌記念でブエナビスタを破ったジャイアントキラー的側面も父の産駒らしさのひとつ。サンデーサイレンスUSA牝馬にミスタープロスペクター系種牡馬の配合は4年前の勝ち馬でもあるヴァーミリアンに共通するパターンでもある。このように特徴を挙げると過去の例に似ていないことをテーマとした今回の趣旨からは外れるが、そういったガイドラインを壊すのとすればこの父の仔ではないかという気もする。祖母はケンタッキーオークスG1勝ちの名牝で、孫のヤマニンシュクルは阪神JF勝ち馬。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2012.2.19
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