2011オークス


生きて伝説と化す名牝系

 1983年のオークスは1番人気ダスゲニーが馬群に沈み、ゴールで5頭が横一線に並ぶ大接戦となった。1着ダイナカール、そして、タイアオバ、メジロハイネ、ジョーキジルクムとハナ、アタマ、ハナ、アタマの差で入線した。5着は何でしたかなあ? 思い出せないが、先に進みます。1996年にはエアグルーヴが1番人気に応えた。直線での不利をはね返してのオークス母娘制覇達成となる。1943年秋のクリフジと1954年ヤマイチに続く史上2組目の記録だった。エアグルーヴの初仔アドマイヤグルーヴは2003年のオークスで1番人気に推されたが、イレ込んで折り合いを欠き7着に敗れ、牝系3代制覇はならなかった。大レースでの父系3代制覇はメジロアサマ〜メジロティターン〜メジロマックイーンの天皇賞制覇があまりにも有名だが、アサマとティターンは秋の東京、マックイーンは春の京都なので、厳密にいうと同一レース父系3代制覇ではない。難しいものだ。牝馬の場合は年1頭の産駒しか得られないので、更に困難なのは明らか。グルヴェイグはそれに挑むことになる。牝系としては2度目の挑戦、骨折で本番2週前に回避した姉ポルトフィーノも入れると3度目の挑戦となる。母エアグルーヴはオークスを制しただけでなく、ジャパンCG1でもピルサドスキーIREからクビ差の1997年、エルコンドルパサーUSAから2 1/2馬身差の翌年と2度の2着があり、父もダービー、ジャパンCG1のタイトルを東京2400mで手に入れた。初コースでも血統的には最も適した舞台といえる。特にトニービン×ノーザンテーストの配合は東京の大レースに強く、他にも天皇賞(秋)のサクラチトセー、NHKマイルCのテレグノシスが出ている(表1)。この配合の繁殖牝馬としてのポテンシャルの高さは下表2の通りで、アドマイヤグルーヴ、フォゲッタブル、ネオヴァンドーム、バウンシーチューンらはサンデーサイレンス系種牡馬との配合による成功例だ。


表1)  トニービンIRE×ノーザンテーストCANの成功
馬名 生年 重賞勝ち鞍
サクラチトセオー 1990 天皇賞(秋)、アメリカJCC、中山記念、京王杯AH
エアグルーヴ 1993 天皇賞(秋)、優駿牝馬、札幌記念×2、大阪杯、チューリップ賞、マーメイドS
テレグノシス 1999 NHKマイルC、毎日王冠G2、京王杯SCG2
エモシオン 1995 京都記念
ナリタセンチュリー 1999 京都大賞典G2、京都記念
レニングラード 1999 アルゼンチン共和国杯

表2)  母としてのトニービンIRE×ノーザンテーストCAN牝馬
馬名 生年 重賞勝ち鞍
アドマイヤグルーヴ 2000 サンデーサイレンスUSA エリザベス女王杯×2、ローズS、阪神牝馬S
アーネストリー 2005 グラスワンダーUSA 金鯱賞G2、札幌記念G2、中日新聞杯G3
フォゲッタブル 2006 ダンスインザダーク ステイヤーズSG2、ダイヤモンドSG3
ルーラーシップ 2007 キングカメハメハ 日経新春杯G2、鳴尾記念G3
バウンシーチューン 2008 ステイゴールド フローラSG2
エーシンブラン 2008 スウェプトオーヴァーボードUSA 兵庫チャンピオンシップ
ネオヴァンドーム 2007 ネオユニヴァース きさらぎ賞G3

 バウンシーチューンは同じ配合パターンの母。そうはいっても未勝利だから戦績はエアグルーヴに比べようもないが、祖母はカーネーションCに勝ち、牝馬東タイ杯2着の活躍馬。4代母の子孫に福島記念のペガサスや中山牝馬Sのナリタルナパーク、クイーンSのミツワトップレディがいる牝系。地味な牝系からでも活躍馬を出すステイゴールドが父なら、これで十分ともいえるだろう。皐月賞G1をオルフェーヴルが制して勢いに乗るステイゴールド産駒の牝馬代表としての期待もかかる。ノーザンテーストCAN4×3のインブリードは皐月賞馬と同じパターンで、メジロマックイーンの代わりに据えられたのがトニービンIREなら、東京2400mは願ってもない舞台。父の母の父がディクタスFR、3代母の父がヒッティングアウェーUSAだから、サンデーサイレンスUSA、トニービンIRE、ノーザンテーストCANらの主流血脈の脇を固めるのも、それらと相性の良い名種牡馬という社台グループの現代史を凝縮したかのような血統構成でもある。

 ▲マルセリーナはディープインパクトに初のクラシックをもたらした孝行娘として名を残すことになった。セントジェームズパレスSG1勝ち馬マルジュ×サセックスS勝ち馬ディスタントレラティヴという英国マイラー血脈を重ねられた母マルバイユIREはイタリアで2歳の5月にデビューし、3歳終盤のセルジオクマニ賞G3、4歳6月のエミリオトゥラティ賞G2と1600mで実績を積み上げ、8月のフランス、ドーヴィル開催に遠征してやはり1600mのアスタルテ賞でG1のタイトルを得た。1800mでの準重賞勝ちもあるが、成績からは血統通りの純マイラーといえるだろう。マルジュは英ダービーG1・2着と距離に融通は利いたが、こなせるが最適ではないという判断が妥当。

 ピュアブリーゼの父モンズーンは3度ドイツ・リーディングの座に就いた名種牡馬で、産駒からは独ダービー馬3頭、独オークス馬2頭、仏オークス馬、伊ダービー馬、伊オークス馬各1頭が出た。凱旋門賞馬パントレセレブル、仏ダービー馬ベーリング、そしてサドラーズウェルズという配合の母もやはり2400m至上主義ともいうべき配合で、スタミナを要す流れになれば台頭可能。伯父のパプウスはドイツの芝重賞で入着を繰り返したまずまずの活躍馬だが、中山で行われたJCダートに出走して大差のしんがりに敗れた。姪はその汚名返上を期す立場でもあるわけ。

 ライステラスは父ソングオブウインドが菊花賞馬。母の父スピードワールドUSAは京成杯に勝って安田記念でも3着と健闘した3歳春当時は世代最強かといわれたものだが、立ち直ることなく、ある意味ウッドマン産駒らしい成績を残して引退した。祖母スピードアイリスはアンタレスS2着のほかに芝でも2勝している活躍馬。その父ミスターシービーは三冠馬で、ダイナカールとは同い年。そして、3代母の孫にハーツクライがいる血統はグルヴェイグに対抗する要素が多い。多様な良血を詰め込めるだけ詰め込んでいるので、それが良い方に出れば驚くべき大駆けもなくはないだろう。

 デルマドゥルガーの父リンカーンは阪神大賞典、京都大賞典、日経賞に勝ち、菊花賞、有馬記念、天皇賞(春)で2着。シンボリクリスエスUSAやディープインパクトがレコード勝ちしているときに2着だから相手が悪かったというしかないが、サンデーサイレンスUSA×トニービンIREで祖母がバレークイーンIREという血統背景は、むしろ種牡馬としての潜在能力を感じさせるもの。この距離で才能開花の可能性はある。祖母の父としてリアルシャダイUSAの名が見える点も不気味。

 ところで、1983年オークス5着馬はレインボーピットでした。思い出せたあなたはえらい!


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2011.5.23
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