何という馬だったか忘れてしまったが、今年2月、引退の近い池江泰郎調教師との会話で「今度は絞り込んでいくからね」はあ、速い時計が出ておりますね「そう。絞って絞って、もう水気がないくらいにするよ」というやりとりがあって、水気云々は物のたとえとしても、ぎりぎりまで無駄をそぎ落として能力を発揮させる、これが池江(父)流なのだと感心したことがある。それは過去の名馬の成績に数字ではっきりと残されている。下のグラフに見る通り、池江(父)師の下で育ったメジロマックイーンにしても、ステイゴールドにしても、プラスマイナス10キロの狭い範囲での変動はあっても、右肩上がりに上がっていくことはない。メジロマックイーンなどカリカリしていた3歳春から比べてドッシリした全盛期にはさぞ体重も増えていたのだろうという印象があるが、改めて数字を見直すと全然そんなことはなかった。池江(父)流の集大成ディープインパクトに至っては、軽くなる一方といえるくらいだ。ごく大まかにいうと、メジロマックイーンによって数多くの大きなタイトルを得たノウハウが実を結んだのは、調教で強い負荷をかけ、ぎりぎりまで絞り込むことで高いパフォーマンスを示すサンデーサイレンスUSA産駒だったといえるだろう。そのようなメジロマックイーンとステイゴールドの合作によって成功したドリームジャーニーは、グラフがほとんど父ステイゴールドと重なるくらいになっている。池江泰郎調教師の子息である池江泰寿師は父も母の父もよく知るだけに、ベストの仕上げを施していった結果、図らずもステイゴールドそっくりの馬体重の推移を描くことになったのだろう。そこで◎オルフェーヴルのデータに目を移すと、メジロマックイーンとステイゴールドの中間のようでもあるが、それ以上にディープインパクトに酷似していることが分かる。少なくとも3歳春までは。前走のプラス16キロはこのグラフの中にあると突出した跳ね上がり方に見える。ただ、父の伯父サッカーボーイはもみじS→阪神3歳Sが+14キロ、函館記念→マイルチャンピオンシップが+18キロでそれぞれ何の問題もなく圧勝している。今回更に増えることはないと思うが、いずれにしてもどんな馬体重で競馬場に現れるのかは興味深い。将来はディープインパクトなのか、サッカーボーイなのか、メジロマックイーンなのか、あるいはステイゴールドなのか。どの血縁者に似た道を進み、そこからどう独自の道を開くのかを見届けたい。 |
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もうひとつの表は三冠馬と春の2冠を制しながら三冠には手が届かなかった馬の一覧。2冠馬のうち不出走と出ても1番人気にならなかったものを除いたクモノハナ、ボストニアン、コダマ、メイズイ、ミホノブルボン、ネオユニヴァース、メイショウサムソンが三冠残念無念組。プリメロGB産駒のクモノハナを負かしたのはセフトGB産駒のハイレコードで、セフトGB産駒のボストニアンを負かしたのはプリメロGB産駒のハクリョウだったという因縁めいた話は別にしても、ざっと見て負かすのは2冠馬とは色合いの異なる血統というケースが多い。サンデーサイレンスUSA産駒のネオユニヴァースをダンスインザダーク産駒のザッツザプレンティが負かしたのが一番近いといえる程度。そこで、もし逆転があるなら○シゲルリジチョウ。父グラスワンダーUSAは対ステイゴールド3勝2敗。2度の有馬記念と宝塚記念を勝ったときに先着し、2000年の日経賞と宝塚記念ではステイゴールドに先着を許したが、そのときステイゴールド自身は2着、4着だから、トータルではグラスワンダーUSA圧勝といえる。その次にステイゴールドに立ちはだかったのがテイエムオペラオーで、これには10回先着されて、2001年の京都大賞典ではただ一度の先着を果たしたが、斜行してナリタトップロードを落馬させてしまい失格となった。仇敵テイエムオペラオーの父系祖父サドラーズウェルズがシゲルリジチョウの母の父だから、因縁重視で選ぶとこれになる。叔父に高松宮記念のサニングデール、3代母の産駒に英ダービー馬カヤージがいる牝系は名門。 |
歴代三冠馬とニアミス馬 | |||
勝ち鞍 | 年度 | 春2冠馬 | 菊 |
三冠 | 1941 | セントライト | 1 |
皐ダ | 1950 | クモノハナ | 2 |
皐ダ | 1951 | トキノミノル | 不 |
皐ダ | 1952 | クリノハナ | 不 |
皐ダ | 1953 | ボストニアン | 2 |
皐ダ | 1960 | コダマ | 5 |
皐ダ | 1963 | メイズイ | 6 |
三冠 | 1964 | シンザン | 1 |
皐ダ | 1970 | タニノムーティエ | 11 |
皐ダ | 1971 | ヒカルイマイ | 不 |
皐ダ | 1975 | カブラヤオー | 不 |
皐ダ | 1981 | カツトップエース | 不 |
三冠 | 1983 | ミスターシービー | 1 |
三冠 | 1984 | シンボリルドルフ | 1 |
皐ダ | 1991 | トウカイテイオー | 不 |
皐ダ | 1992 | ミホノブルボン | 2 |
三冠 | 1994 | ナリタブライアン | 1 |
皐ダ | 1997 | サニーブライアン | 不 |
皐ダ | 2003 | ネオユニヴァース | 3 |
三冠 | 2005 | ディープインパクト | 1 |
皐ダ | 2006 | メイショウサムソン | 4 |
逆に同属が血で血を洗うというケースは日本での歴史上、競馬よりもはるかに長い期間続いていたわけだから、その線で選ぶと▲フェイトフルウォー。父と母の父が同じ。祖母がニジンスキー×リヴァリッジ、4代母がトムロルフの娘でそのきょうだいにキートゥザミントやフォートマーシーがいる。牝系の格と配合種牡馬の底力ではオルフェーヴルを凌ぐ。 △ダノンマックインはメジロマックイーンと無関係だが、祖母の父リアルシャダイUSAがよりどころ。直仔ライスシャワーだけでなく淀の超長距離で格別の存在感あり。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2011.10.23
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