2011ダービー


黄金騎士の反攻

 1995年に日本ダービーにデビューしたサンデーサイレンスUSA産駒はタヤスツヨシが勝利を収め、以降、98年スペシャルウィーク、99年アドマイヤベガ、2000年アグネスフライト、03年ネオユニヴァース、05年ディープインパクトと6勝を挙げた。ラストクロップが出走した06年はマルカシェンクがメイショウサムソンの4着に終わり、そこでサンデーサイレンスUSA王国の栄光も終わりかと思ったら、さにあらず。翌07年にはウオッカの2着に娘の産駒アサクサキングスが入り、08年は後継アグネスタキオン産駒のディープスカイが、09年にはネオユニヴァース産駒のロジユニヴァースが勝ち、ダービー支配は次の世代に引き継がれた。昨年こそ非サンデーサイレンスUSA系のエイシンフラッシュが勝ったが、今年は何ということでありましょうか、18頭中16頭が直系の孫、残る2頭が娘の産駒というかつてない完全な独占状態となった。競馬場に初心者の友達を連れていくひとは「穴ならサンデーサイレンス系や」とだけつぶやいてレースを見ましょう。大体当たるから。

 この世代はこれまでのところ、種牡馬別に見ると、ディープインパクトの予想通りの成功と、ステイゴールドの予想を上回る大成功で推移してきた。表1は皐月賞号の当欄で使ったものを焼き直しただけだが、重賞での獲得賞金では皐月賞G1前夜の3位から2位へと順位を上げ、ディープインパクトとの差も約2億円から約1億4千万円に詰めている。今回の結果次第では逆転も十分に狙える勘定だ。ステイゴールド産駒は今回も皐月賞と同じ3頭が出走。オルフェーヴルはそこで3馬身差の完勝を収めた。皐月賞で3馬身以上つけて勝った馬は表2の通りの錚々たる顔ぶれ。第1回からわずか11頭だから、既に7年に1頭の名馬と呼ばれる資格は備えている。ただ、全兄のドリームジャーニーは朝日杯と宝塚記念G1、有馬記念G1を制した名馬なのに、連勝したのは2歳秋の新馬→芙蓉Sと4歳夏の小倉記念→朝日チャレンジCG3という楽な相手での2回しかない。このあたりはステイゴールド的な個性で、スプリングSG2と皐月賞G1を連勝したその後、更に3つ目があるかというと、ちょっと疑ってかかる姿勢も必要だろう。


表1) 世代別サイアーランキング(2008年生まれ、サラ総合、中央、重賞収得賞金に並び替え)
順位種牡馬名出走勝利重賞勝ち収得賞金(万円)代表産駒
回数頭数回数頭数回数頭数全般重賞
1ディープインパクト481117825733141,44151,118マルセリーナ
4ステイゴールド3457529215467,99637,139オルフェーヴル
2アグネスタキオン37210651376381,59133,600レーヴディソール
5サクラバクシンオー3367738293166,34725,752グランプリボス
6フジキセキ3248536272160,99521,596サダムパテック
12クロフネUSA3176724202242,35117,464ホエールキャプチャ
8ハーツクライ3056937311153,23513,007ウインバリアシオン
19デュランダル119281171122,84112,761エリンコート
14ロックオブジブラルタルIRE2666720161134,89611,618エイシンオスマン
9ネオユニヴァース49113341351151,8689,543ユニバーサルバンク
JBISサーチ(http://www.jbis.or.jp/)より。5月22日現在

表2) 歴代皐月賞馬着差ランキング
年度勝ち馬着差備考
141954ダイナナホウシユウ8 
71947トキツカゼ(牝)6東京
201960コダマ6 
361976トウショウボーイ5東京
451985ミホシンザン5 
101950クモノハナ4 
191959ウイルデイール4 
541994ナリタブライアン3 1/2 
31941セントライト3横浜
291969ワイルドモア3 
712011オルフェーヴル3 

 皐月賞G1で伸びかけて止まって5着のナカヤマナイトは、レース間隔が2カ月あったことを考えれば悪くない内容だったのではないだろうか。同じ厩舎で同じ父のナカヤマフェスタが昨年の秋にフォワ賞G2でのまあまあの2着から凱旋門賞G1で大健闘の2着に躍進したように、ここに照準を合わせた印象もある。母の父は帝王賞のコンサートボーイや川崎記念のエスプリシーズの父として知られるダート血統だが、89年のキングジョージVI世&クイーンエリザベスSG1ではナシュワンのクビ差2着となり、翌年のジャパンCG1でもベタールースンアップAUSとオードUSAからアタマ、アタマの差で3着となった。アリダーらしい底力と勝負弱さが同居した血統で、本気になれば勝負強いステイゴールドの気性は弱点を補い長所を伸ばす可能性がある。祖母の父マルゼンスキーは母系に入って有能な血脈の典型で、娘の産駒ウイニングチケットとスペシャルウィークがこのレースに勝っている。ただ、牝系は半姉ヨウヨウがエーデルワイス賞3着、3代母の産駒ウィニングスマイルが国内G1になる前年のスプリンターズSに勝ったほかは目立つところのない地味なもの。歴代ダービー馬ではミホノブルボンやアイネスフウジンらが地味な牝系だったが、それでも遡ればそれぞれコロナやプロポンチスGBといった名牝に辿りつくわけで、そのあたりが気にならないではない。

 ▲フェイトフルウォーはオルフェーヴルやドリームジャーニーと同じステイゴールド×メジロマックイーンの配合で、5代母がワシントンD.C.国際S2勝のフォートマーシーやトラヴァーズS勝ち馬キートゥザミントを産んだ名牝キーブリッジ。4代母の孫にはアスコットゴールドCG1のパピノーや英セントレジャーG1のシルヴァーペートリアークといった欧州型ステイヤーもいる。父も母の父も3歳のこの時期にはまだ粗削りな1勝馬だったことを考えれば、前走の大敗も若さゆえにあり得ること。尾を引くものではない。成長の余地、奥の深さということではオルフェーヴルやナカヤマナイトを凌ぐものを秘めている。

 ステイゴールドが海外で挙げた2勝、ドバイシーマクラシックG2でハナ差捉えたファンタスティックライトUSAと香港ヴァーズG1でアタマ差交わしたエクラールはいずれもモハメド殿下率いるゴドルフィンの所属馬で、鞍上はもちろん主戦のデットーリだった。殿下の生産所有馬デボネアは母の父が96年のジャパンCG1勝ち馬シングスピールIREで、その父インザウィングスの母が第3回ジャパンCに来日したハイホークIRE。いずれも殿下の勝負服をまとった名馬名牝であり、殿下の日本との関わりの歴史を押さえている点で、日本ダービーG1初参加にまことにふさわしい血統といえる。

 フジキセキ産駒は06年ドリームパスポートの3着がダービーでの最高着順。長距離部門での信頼性には乏しいが、08年のドバイシーマクラシックG1勝ち馬サンクラシークはオーストラリアでの父の産駒だから、ダメとはいい切れない。デュランダルの仔がオークスG1勝つんですからね。サダムパテックの祖母の父ミスタープロスペクターというパターンは父の産駒の底力を一段階引き上げる効果あり。

 天気が崩れた場合、一昨年の勝ち馬ロジユニヴァースの叔父に当たるノーザンリバーの大躍進があるかもしれない。モハメド殿下の服色で走った祖母ソニックレディは欧州マイルG1・3勝の名牝。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2011.5.30
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