2010宝塚記念


にわかに活気付くサッカー少年

 今年は7月12、13日の2日間で行われる日本競走馬協会「セレクトセール」。上場馬は同協会のウェブサイトhttp://www.jrha.or.jp/index.html上で公開されている。1歳馬と当歳馬合計から現時点の欠場馬を除いた432頭のうち、サンデーサイレンスUSA系種牡馬の産駒は241頭で全体の56%。母の父がサンデーサイレンスUSAかその直仔というのが94頭いるので、それを加えると全体の77%が父母いずれかからサンデーサイレンスUSAの血を受けていることになる。今回は出走馬18頭中14頭がサンデーサイレンスUSAの仔か孫なので、“SS率”は78%。セレクトセールと相似形になった。今年ここまでのG1/Jpn1も13戦中9つをサンデーサイレンスUSAの孫が勝っていて“SS率”は69%。やはり7割に近い。善し悪しは別にして、これが現実。
 そうなってくると、SS系vs何かと考えるよりも、SS系の中での差異を見つけ出して馬券に生かす方が現実的だろう。近年のこのレースではサンデーサイレンスUSA系に次いでサドラーズウェルズ系が実績を残しているが、これはテイエムオペラオーやメイショウサムソンといったどこでも強い馬がいたため。特にこのレースで、多くの馬を通じて大きな影響力を及ぼしているといえるのは実はサッカーボーイだ。サッカーボーイ自身の種牡馬としてこのレースでの実績はヒシミラクルに限られるわけだが、同じ配合のイクノディクタスが大健闘したり、全妹を通じて黒幕的影響力を及ぼしていたり、しかも、いずれも人気薄という点が穴党好み。ただ、サッカーボーイの活躍も20年以上前のことだから、現存するサッカーボーイ血統も量は限られていて、今年の場合はステイゴールド産駒の2頭のみとなった。ステイゴールドはサンデーサイレンスUSA+サッカーボーイという血統で、自身このレースに勝つことはなかったが、実際に昨年の勝ち馬を出した。宝塚記念仕様のSS系といっていいだろう。2頭のうちどちらを取るかといえば、ナカヤマフェスタ。より人気薄だから。下表を見て分かる通り、ステイゴールド自身4回出走したこのレースでは人気が低いほど着順が良かったし、“サッカーボーイ血統”はどれも軽く扱われるほど反発力が増す。ナカヤマフェスタの牝系は4代母の孫にブリーダーズCターフG1のシアトリカル、安田記念のタイキブリザードUSA、曾孫にアーリントンミリオンG1のパラダイスクリークUSAやマンハッタンHG1のフォービドンアップルらがいて、そこにデインヒルUSA(祖母の父)、タイトスポットUSA(母の父)と配合された。世界の芝競馬の主流血脈であるデインヒルUSAは、今のところ日本では母系に入って底力を補う役を担っており、それが大レースでの大駆けにつながることもしばしば。母の父は北米の芝競馬のレベルが高い時代にアーリントンミリオンG1、エディリードHG1とG1・2勝を挙げた名馬。種牡馬成績、ブルードメアサイアー成績ともにさっぱりだが、リボー系だけにむしろこれまでの沈黙が大爆発の予兆と考えることもできる。ステイゴールドとの組み合わせはアテにならない同士でも、それがうまく噛み合えば大変なパワーになる可能性はある。


サッカーボーイ血統の活躍
サッカーボーイ(牡、1985年生、栗毛、白老産、父ディクタスFR、母ダイナサッシュ、母の父ノーザンテーストCAN)11戦6勝、最優秀3歳牡馬(旧表記)、最優秀スプリンター【主な勝ち鞍】マイルチャンピオンシップ、阪神3歳S、函館記念、中スポ4歳S
年度着順人気馬名性齢備考
199328イクノディクタス牝6父ディクタスFR×母の父ノーザンテーストCAN
1995811ゴーゴーゼット牡4父サッカーボーイ
199829ステイゴールド牡4母がサッカーボーイの全妹
199937ステイゴールド牡5母がサッカーボーイの全妹
1110インターフラッグ牡6父ノーザンテーストCAN×母の父ディクタスFR
200045ステイゴールド牡6母がサッカーボーイの全妹
200145ステイゴールド牡7母がサッカーボーイの全妹
200224ツルマルボーイ牡4母の父サッカーボーイ
200316ヒシミラクル牡4父サッカーボーイ
28ツルマルボーイ牡5母の父サッカーボーイ
1111バランスオブゲーム牡4祖母がサッカーボーイの全妹
200464ツルマルボーイ牡6母の父サッカーボーイ
200638バランスオブゲーム牡7祖母がサッカーボーイの全妹
139アイポッパー牡6父サッカーボーイ
200898ドリームパスポート牡5祖母がサッカーボーイの全妹
200912ドリームジャーニー牡5父の母がサッカーボーイの全妹
※関係ないとは思うが年度の太字はFIFAワールドカップ開催年

 ドリームジャーニーは父が宝塚記念4回出走、母の父は1勝2着1回、自身も1勝。血統的な経験値(?)ではメンバー中随一であり、4×3となるノーザンテーストCANもこのレースでの重要血脈のひとつ。ノーザンテーストCANの良さの一面であるタフさとか渋太さが出てくるのは恐らくこれから。昨年同様の過程でなくても、帳尻を合わせるしたたかさが備わっているのではないだろうか。

 ▲ブエナビスタはドイツのシュヴァルツゴルト系出身。マンハッタンカフェから英ダービーG1のスリップアンカーまで、ドイツを出ても大活躍しているファミリーで、ドイツ外血統との組み合わせで発展性を示すのが強み。今年のダービー馬エイシンフラッシュもドイツ血統だから、こういう穏やかなブームは長く続くものなのかもしれない。いずれにせよ奥の深さがドイツ血統の良さであり、父スペシャルウィークも古馬になってからその強さを確かなものにしている。4歳の今年、まだ上昇の途中と考えれば、これまで以上のパフォーマンスを期待しておいていいだろう。

 メイショウベルーガは一昨年の勝ち馬エイシンデピュティと同じ父フレンチデピュティUSA。母の父サドラーズウェルズはテイエムオペラオーやメイショウサムソンの父系祖父。近親にあたるダンシングブレーヴUSAはスイープトウショウやメイショウサムソンの母の父となった。このようにパーツごとに見ると、このレースに実績のある血脈を集めていることが分かる。母の父としてのサドラーズウェルズは、これまでもエルコンドルパサーUSAやコンデュイットIREをはじめ多くの大物を送り出したが、今年も娘の産駒ワークフォースが英ダービーG1制覇と勢いがある。

 サンデーサイレンスUSA、トニービンIRE、ノーザンテーストCANという日本3大血脈はこのレースでも実績豊富。その3本の組み合わせになっているのが、ジャガーメイル、フォゲッタブル、そしてコパノジングーの3頭。ジャガーメイルはイクノディクタスの祖母の曾孫。フォゲッタブルは母エアグルーヴがブエナビスタの母と同期で、ひょっとすると今より牡馬が強い時代に天皇賞(秋)を制してジャパンCG1で2度2着となった。コパノジングーは珍しいアグネスタキオンの晩成型で、近くには3代母の産駒ガクエンツービート(スーパークリークの勝った菊花賞で2着)がいる程度だが、下総御料牧場の星旗USAに遡る名門。7代母梅城はハマカゼの競走名で1948年の桜花賞に勝った。大穴ならこれかもしれない。《出走取消》


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2010.6.26
©Keiba Book