2010安田記念


父の力を信じよう

 桜花賞G1とオークスG1はキングカメハメハ産駒のアパパネが勝ち、日本ダービーG1はキングズベスト産駒のエイシンフラッシュで、2着のローズキングダムもキングカメハメハ産駒だった。この春のキングマンボ血脈の活躍は異常とさえいえる。キングマンボ直仔では2000年にキングズベストが英2000ギニーG1を、ブルーマンバが仏1000ギニーG1を制覇、2005年にはヴァージニアウォーターズが英1000ギニーG1に勝って、ディヴァインプロポーションズが仏1000ギニーG1と仏オークスG1の連覇という例があるので、デインヒルUSA系やサドラーズウェルズ系といった主流血脈の間隙を突いて、集中的に際立った活躍をする場合があるのは確かなようだ。このあたりはサンデーサイレンスUSA直系を退けてクラシック3勝(同着もあるが)を挙げたこの春の日本の状況に似る。
 また、日本で成功した在外種牡馬というとカーリアンが代表的だが、キングマンボの場合はエルコンドルパサーUSAやキングカメハメハが種牡馬としても成功していて、浸透度という点でカーリアンを凌ぐ。そこで今回、香港勢対サンデーサイレンスUSA直系という構図にキングマンボが切り込むことがあるのではないかという見立て。ファリダットは2005年生まれ。同世代の父の産駒には、2006年キーンランド9月セリで1170万ドルで落札された1歳馬(メイダンシティ)や英・愛2000ギニーなどマイルG1・4勝のヘンリーザナヴィゲーターがいる。この春のドバイで重賞に勝ったアレクサンドロスやキャンパノロジストといった息の長い活躍を示すものもいて、なかなか多彩な顔ぶれ。一方の母ビリーヴはサンデーサイレンスUSA産駒として最初の一流スプリンター。スプリンターズSや高松宮記念など重賞4勝の実績はいまさら述べるまでもないことだろう。下表にあるように、エルコンドルパサーUSAやキングカメハメハ産駒の活躍馬の多くは母の父がサンデーサイレンスUSAであり、キングマンボとダンチヒの組み合わせは米国でG1・2勝のヴードゥーダンサーが出たほか、日本でもかなりの相性の良さを示している。そして何よりこの配合の要点は、ブリーダーズCマイルG1・2連覇のミエスク、ビリーヴ、そして表には出ていないが祖母の半姉レディーズシークレットと、仏日米の歴史的名牝3頭の競演となっている点。初めての重賞勝ちがG1という離れ業があっても驚けないポテンシャルを秘めた血統なのは確か。


キングマンボ系の日本進出
〜日本での重賞勝ち/G1級入着馬
KINGMAMBO キングマンボ(牡、鹿毛、1990年生、米国ケンタッキー産、父Mr. Prospector、
    母Miesque、母の父Nureyev)ムーランドロンシャン賞G1、セントジェームズパレスSG1、プー
    ルデッセデプーラン=仏2000ギニー=G1、ジェベル賞
 エルコンドルパサーUSA El Condor Pasa(牡、黒鹿、1995、母の父Sadler's Wells)ジャパンC
  |  G1、サンクルー大賞G1、フォワ賞G2、NHKマイルC、ニュージーランドT、共同通信杯、2
  |  着:凱旋門賞G1、イスパーン賞G1
  | ビッググラス(牡、鹿、2001、イブンベイGB)根岸SG3
  | ヴァーミリアン Vermillion(牡、黒鹿、2002、サンデーサイレンスUSA)ジャパンCダートG1、フ
  |  ェブラリーSG1、東京大賞典、帝王賞、JBCクラシック×3、川崎記念×2、浦和記念、ダイ
  |  オライト記念、名古屋グランプリ、ラジオたんぱ杯2歳S、2着:東京大賞典×2、3着:ジャパ
  |  ンCダートG1
  | トウカイトリック(牡、鹿、2002、Silver Hawk)阪神大賞典G2、ダイヤモンドSG3、3着:天皇
  |  賞(春)G1
  | アイルラヴァゲイン(牡、鹿、2002、Meadowlake)オーシャンS
  | サクラオリオン(牡、黒鹿、2002、Danzig)中京記念G3、函館記念G3
  | アロンダイト(牡、黒鹿、2003、Riverman)ジャパンCダート
  | ソングオブウインド(牡、青鹿、2003、サンデーサイレンスUSA)菊花賞
  | エアジパング(牡、鹿、2003、Halo)ステイヤーズS
  | ラピッドオレンジ(牝、鹿、2003、サンデーサイレンスUSA)TCK女王杯
 アメリカンボスUSA(牡、鹿、1995、Dixieland Band)中山記念、アメリカJCC、エプソムC、2着:
  |  有馬記念
 マンボツイストUSA(牡、鹿、1995、Danzig)平安S、マーチS、名古屋大賞典
 アドマイヤマンボUSA(牡、黒鹿、1996、Sir Ivor)全日本3歳優駿
 King's Best キングズベスト(牡、鹿、1997、Lombard)英2000ギニーG1
  | エイシンフラッシュ(牡、黒鹿、2007、プラティニGER)東京優駿G1、京成杯G3、3着:皐月賞
  |  G1
 キングフィデリア(牡、鹿、1998、Danzig)新潟大賞典
 スターキングマンUSA(牡、栗、1999、Blushing Groom)東京大賞典、日本テレビ杯、2着:JB
  |  Cクラシック、川崎記念、ダービーグランプリ、3着:ジャパンCダート、南部杯
 アルカセットUSA Alkaased(牡、鹿、2000、Niniski)ジャパンCG1、サンクルー大賞G1、ジョッキ
  |  ークラブSG2、2着:コロネーションCG1
 キングカメハメハ(牡、鹿、2001、ラストタイクーンIRE)東京優駿、NHKマイルC、神戸新聞杯、
  |  毎日杯
  | ゴールデンチケット(牡、黒鹿、2006、サンデーサイレンスUSA)兵庫チャンピオンシップ、3
  |  着:ジャパンCダートG1、ジャパンダートダービー
  | フィフスペトル(牡、鹿、2006、Bahri)函館2歳S、2着:朝日杯FS
  | アパパネ(牝、鹿、2007、Salt Lake)優駿牝馬G1、桜花賞G1、阪神ジュベナイルフィリーズ
  | ローズキングダム(牡、黒鹿、2007、サンデーサイレンスUSA)朝日杯フューチュリティS、東
  |  京スポーツ杯2歳S、2着:東京優駿G1
  | コスモセンサー(牡、栗、2007、リヴリアUSA)アーリントンCG3
  | ショウリュウムーン(牝、鹿、2007、ダンスインザダーク)チューリップ賞G3
  | エーシンリターンズ(牝、栗、2007、キャロルハウスIRE)3着:桜花賞G1
 ファリダットUSA(牡、青鹿、2005、サンデーサイレンスUSA)3着:安田記念G1

 キングマンボ×サドラーズウェルズのエルコンドルパサーUSAが出現すると、サドラーズウェルズ牝馬人口も多いので、その模倣は多く試みられた。2匹目のドジョウ狙いは欧州で成功し、前述のディヴァインプロポーションズやヴァージニアウォーターズ、ヘンリーザナヴィゲーターと名牝・名馬が続々と現れた。エルコンドルパサーUSAほど技巧を凝らした配合でなくても、名牝スペシャルの血が生きるこの組み合わせは優れているということ。ライブコンサートIREは父系がサドラーズウェルズで母の父がキングマンボだから、エルコンドルパサーUSA配合を天地さかさまにして、趣向を変えた配合。こちらもハイホークIREやグローリアスソング、ミエスクと並んで名牝密度の高いことが売り。サイレントウィットネスAUS、ブリッシュラックUSAといった最強香港勢を退けたアサクサデンエンGBもこの父シングスピールの産駒。

 で、今回の焦点となる香港勢(ビューティーフラッシュNZ、フェローシップNZ、サイトウィナーNZ)。この春のクイーンエリザベスII世CG1は8歳のヴィヴァパタカが3年ぶり2度目の制覇。チャンピオンズマイルG1もやはり7歳のエイブルワンが3年ぶり2度目の制覇。昨年暮れの香港国際レースの地元の勝ち馬も強いのは強いが新鮮味に欠ける。ここ数年来牝馬が君臨している日本からこういっては何だが、香港競馬もひょっとすると全体のレベルがジリ貧停滞傾向にあるのではないか。競走馬の主な供給元であるオセアニアの馬産がシャトル種牡馬の成功によって急速に勢いを得てから、かれこれ20年。シャトルの成功というのが、オセアニア在来血統×欧米血統の擬似的な雑種強勢によるものだとして、ラストタイクーンIREやデインヒルUSAといった欧州系ノーザンダンサー血脈が行き渡ってしまうと、もうそれほど効果は望めなくなってくるのではないだろうか。

 1999年香港CG1で無念の出走取消となったエアジハードは同年の安田記念とマイルチャンピオンシップを制覇。▲ショウワモダンは今回唯一の父仔制覇有資格馬。母は4勝のうち2勝が1600mで、牝系はNHK杯のアスワンや仏2000ギニーのリヴァーマンと同じ。

 全盛期のエアジハードを天皇賞(秋)で3着に退けたのがスペシャルウィークで、その産駒トライアンフマーチは母が桜花賞馬。大舞台こそが似合う血統。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2010.6.6
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