2010エリザベス女王杯


北米経由の欧州血脈主流

 英愛のサイアーランキングは長くサドラーズウェルズの牙城で、年齢的な衰えが見られるようになった05年に初めて同じ愛クールモアスタッドで供用されるデインヒルUSAにその地位を奪われた。といってもデインヒルUSAは5歳違うだけなのでその天下も長くは続かず、03年春の種付けシーズン中に事故で死亡してまう。ラストクロップのピーピングフォーンがプリティポリーS、愛オークス、ナッソーS、ヨークシャーオークスとG1・4連勝の大活躍を見せた07年を最後に首位から陥落することになる。その後はそれぞれの後継であるガリレオとデインヒルダンサーが交互にリーディングに就くという形になっているようだ。


歴代英愛リーディグサイアー
年度種牡馬
1990Sadler's Wells
1991Caerleon
1992Sadler's Wells
2004Sadler's Wells
2005デインヒルUSA
2006デインヒルUSA
2007デインヒルUSA
2008Galileo
2009Danehill Dancer
2010Galileo(見込み)

 この現代欧州2大血脈の相性がどうかというのを探るべく、父系がデインヒルUSA、母系がサドラーズウェルズのG1勝ち馬をピックアップしたのが下表。G1馬が続々と現れるというほどではないが、日本でいえばサンデーサイレンスUSAとノーザンテーストCAN、サンデーサイレンスUSAとトニービンIREの組み合わせ程度には相性が良いと考えられる。ちなみに来年の英クラシックの本命と目されているフランケルは父ガリレオ、母の父デインヒルUSAという天地逆のパターンだから、やはり両者の相性は良いようだ。また、この組み合わせのもうひとつの特徴は、産地も競走地も多様である点。これはデインヒルUSAがシャトルで南北両半球を行き来したことによる面が大きいが、これだけ万遍なく成功して日本だけダメということは考えにくい。アーヴェイはデインヒルの現在のところ最良の後継種牡馬といえるデインヒルダンサーが父。基本的にはマイラーだが、年を追って距離をこなす産駒が増えているのはデインヒルに似ており、配合によっては3000mで重賞勝ちする産駒(リュテス賞仏G3に勝ったワジール)まで出てきた。今年の香港ダービー馬スーパーサティンもこの父の産駒だから、アジア圏での実績もある。血統表中にエタンUSAやフォルティノFR、ダンサーズイメージUSAといった本邦輸入種牡馬が潜んでいるあたりにも親日派である可能性が窺える。母の父は直仔シングスピールIREを通じて日本のサドラーズウェルズ・アレルギーを緩和するのにひと役買ったインザウィングス。祖母アナオブサクソニーはセントレジャーの牝馬バージョンであるパークヒルS英G3の勝ち馬。豊富なスタミナが証明されているパークヒルSの歴代勝ち馬というのは繁殖牝馬としても優秀で、インザウィングスの母ともなったハイホークIREや、サンダーガルチの祖母シュートアライン、最近でもテイエムオーロラの祖母ケイシーGBなどが目につくところ。4代母アナパオラは独オークス馬だから、ブエナビスタ、エイシンフラッシュなどによる昨今のちょっとしたドイツブームに沿う牝系でもある。また、母はミルリーフ4×3のインブリードになっていて、これはオークス馬サンテミリオンの母の同3×3、ローズキングダムの5×4に通じるもの。前走で日本のオークス2着馬を破っているわけだし、北米の競馬を経験した欧州出身馬というのはジャパンCでも好成績を収めることが多い。格上といえる英日のオークス馬にひと泡吹かせる可能性はありそうだ。


父デインヒルUSA系×母の父サドラーズウェルズ系の成功例
馬名生年産地母の父GT勝ち距離
Niconeroニコネロ2001センDanzero2Scenic3オーストラリアンC2000m
Konigstigerケーニッヒスティーガー2002Tiger Hill2Barathea3伊グランクリテリウム1600m
Luas Lineルアスライン2002デインヒルUSA1In the Wings3ガーデンシティBCS9F
Horatio Nelsonホレーショネルソン2003デインヒルUSA1Sadler's Wells2ジャンリュックラガルデール賞1400m
Passage of Timeパシッジオブタイム2004Dansili2Sadler's Wells2クリテリウムドサンクルー2000m
Peeping Fawnピーピングフォーン2004デインヒルUSA1Sadler's Wells2愛オークス12F
アーヴェイGBAve2006Danehill Dancer2In the Wings3フラワーボウル招待S10F
Miss Keepsakeミスキープセーク2006Keeper2アントレプレナーGB3クイーンズランドオークス2400m
Beethovenベートーヴェン2007Oratorio2Sadler's Wells2デューハーストS7F
※「代」は血統表に出現する世代

 11月6日のブリーダーズCクラシックG1では直線なかばで抜け出したブレームが、20連勝とクラシック連覇、ブリーダーズカップ3連覇のかかったゼニヤッタの追い込みを封じた。ブレームは父系祖父がロベルトで、母の父の父がミスタープロスペクター。ゼニヤッタは父系祖父がミスタープロスペクターで、母の父の父がロベルトという形になっている。ロベルトとミスタープロスペクターは母の父がナシュアという共通の血を持つためか、ニックスとして定評があり、日本でもオークス馬チョウカイキャロルからダートの雄フリオーソまで成功例は多い。BCクラシックG1の結果はそれを再認識させるものだった。スノーフェアリーの父インティカーブもロベルト×ミスタープロスペクターのパターンで、4歳時クイーンアンS英G2を8馬身ち切った98年の国際クラシフィケーションでは130という芝でトップの評価を受けた。種牡馬としてもこの馬を含め3頭のG1勝ち馬を出しているのだからまずまずの成功といえる。母の父は父の2年前のクイーンアンS勝ち馬で、祖母の父はセントジェームズパレスS英G1勝ちと名マイラーをずらりと並べた配合だから、意外に易々と日本のスピードに対応してしまうかもしれない。

 “クラシック”の前日に行われたブリーダーズCジュヴェナイルフィリーズ(2歳牝馬)はオーサムフェザーが無傷の6連勝を果たした。これがデピュティミニスター系とミスタープロスペクター系の組み合わせ。アパパネと天地逆のパターンになる。この両血脈の組み合わせは07、08年の2年連続米年度代表馬となったカーリンを筆頭に、ポピュラーな米国式配合となっていて、そうであれば使い込まれてもへこたれないタフさが備わっていると考えていい。

 アースシンボルは最も日本的なトウカイテイオー×リアルシャダイUSA。この組み合わせは02年のマイルチャンピオンシップを11番人気で勝ったトウカイポイントと同じ。3代母ホースメンテスコは79年の桜花賞を15番人気で勝った。祖母の父もマルゼンスキーだから隙のない良血で、しかも大レースに強い血を揃えた。準オープンを勝ったばかりでも、一撃の威力はこれではないかと思わせる。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2010.11.14
©Keiba Book