日本ダービーに先んじて正式なG1に昇格したのを機に、過去13回のNHKマイルCの歴史を振り返ってみると、初期には勢力を増し続ける輸入競走馬のガス抜きとして機能し、近年は日本ダービーへの新たなステップレースとしての性格を帯びてきたことが分かる。もう少し踏み込むと、ミスタープロスペクター系の日本における発展の足場として重要な役割を果たしていたことも明らかになる。下表はG1/Jpn1レースで最初に勝ったミスタープロスペクター直系のリスト。94年ジャパンCのマーベラスクラウンや95年スプリンターズSのヒシアケボノUSAが単発的に勝っているが、Mr.プロスペクター系が過去13年で勝ち馬5頭、2着3頭、3着4頭という継続的な活躍を見せたのはこのレースの大きな特徴といえる。いかに世界の主流、米国の王者とはいっても、登場の時期と場所を得なければ成功はおぼつかない。たとえばパーソナリティUSAは登場が早過ぎたヘイルトゥリーズン系、クラウンドプリンスUSAは早過ぎたレイズアネイティヴ系といえるだろうし、最近ではデヒアUSAなども早過ぎたデピュティミニスター系だったのかもしれない。エルコンドルパサーUSAやキングカメハメハのその後の成功に、このレースが寄与した部分は決して小さくないだろう。 クロフネUSAといえばエルコンドルパサーUSAと並ぶこのレースの偉大な卒業生だが、過去3世代の産駒から父子出走を果たしたのはフサイチリシャール(06年6着)とブラックシェル(08年2着)の2頭しかいない。これは東京の力任せの競馬ができる1600mには合うが、そこまでの過程を上がってくる器用さに欠けるせいかもしれない。○ティアップゴールドは上り調子にあるので、出てきた以上は好勝負可能なのではないだろうか。母の父がMr.プロスペクター系なのでブレイクランアウトUSAの逆のパターン。しかもマキアヴェリアンなら欧州系最高級。牝系は4代母の産駒にサドラーズウェルズ、5代母の産駒にヌレエフのいる名門で、6代母ソングの玄孫がエルコンドルパサーUSA。これもG1NHKマイルCのためにあつらえたかのような血統だ。ちなみに、半兄マイネルスケルツィはニュージーランドTを勝って1番人気で臨んだこのレースで惨敗したが、これは父がグラスワンダーUSAだから縁がなかったものと考えておきたい。 名門牝系といえば、▲スガノメダリストは3代母の産駒に英・愛ダービーのザミンストレル、4代母の産駒に英三冠馬ニジンスキーがいる。Mr.プロスペクター3×3の近交は強烈だが、米G1メートロンSのストラティジックマヌーヴァーから米G1トラヴァーズのフラワーアリーまで、徐々に成功例も出てきた。父はここを勝って日本ダービーにも勝った最初の存在。クロフネUSAが開拓に着手した道を完成させたわけだが、そのように要領良くクロフネUSAより先に父子制覇を達成するかもしれない。 もう1頭のキングカメハメハ産駒△フィフスペトルは母の父がセントジェームズパレスSとクイーンエリザベス2世Sの2つのマイルG1に勝った名マイラー。父がノーザンダンサー4×4で母がニジンスキー3×3というノーザンダンサーの濃さが目につくが、実際には遠い代に数多く潜むナスルーラ血脈の影響の方が大きいようで、距離短縮はプラス。 大穴で日本のMr.プロスペクター系の重鎮アフリートCAN産駒のタイガーストーン。牝系は名門ネイティヴパートナー系で、00年の勝ち馬イーグルカフェUSAもここの出身。 |
G1/Jpn1レースにおけるミスタープロスペクター直系の初出一覧 | |||
レース | 年度 | 馬名 | 父 |
川崎記念 | 2007 | ヴァーミリアン | エルコンドルパサーUSA |
フェブラリーS | 2002 | アグネスデジタルUSA | Crafty Prospector |
高松宮記念 | 2001 | トロットスター | ダミスターUSA |
桜花賞 | 1999 | プリモディーネ | アフリートCAN |
皐月賞 | 未 | ||
天皇賞(春) | 未 | ||
NHKマイルC | 1997 | シーキングザパールUSA | Seeking the Gold | 1998 | エルコンドルパサーUSA | Kingmambo | 2000 | イーグルカフェUSA | Gulch | 2004 | キングカメハメハ | Kingmambo | 2005 | ラインクラフト | エンドスウィープUSA |
ヴィクトリアマイル | 未 | ||
優駿牝馬 | 未 | ||
東京優駿 | 2004 | キングカメハメハ | Kingmambo |
安田記念 | 2003 | アグネスデジタルUSA | Crafty Prospector |
宝塚記念 | 2005 | スイープトウショウ | エンドスウィープUSA |
かしわ記念 | 2003 | スターリングローズ※ | アフリートCAN |
帝王賞 | 2004 | アドマイヤドン | ティンバーカントリーUSA |
ジャパンダートダービー | 2003 | ビッグウルフ | アフリートCAN |
スプリンターズS | 1995 | ヒシアケボノUSA | Woodman |
南部杯 | 1997 | タイキシャーロック | ジェイドロバリーUSA |
秋華賞 | 2004 | スイープトウショウ | エンドスウィープUSA |
菊花賞 | 2006 | ソングオブウインド | エルコンドルパサーUSA |
天皇賞(秋) | 2001 | アグネスデジタルUSA | Crafty Prospector |
JBCスプリント | 2002 | スターリングローズ | アフリートCAN |
JBCクラシック | 2002 | アドマイヤドン | ティンバーカントリーUSA |
エリザベス女王杯 | 2005 | スイープトウショウ | エンドスウィープUSA |
マイルチャンピオンシップ | 2000 | アグネスデジタルUSA | Crafty Prospector |
ジャパンC | 1994 | マーベラスクラウン | Miswaki |
ジャパンCダート | 2002 | イーグルカフェUSA | Gulch |
阪神ジュベナイルフィリーズ | 1999 | ヤマカツスズラン | ジェイドロバリーUSA |
全日本2歳優駿 | 1998 | アドマイヤマンボ※ | Kingmambo |
朝日杯フューチュリティS | 2001 | アドマイヤドン | ティンバーカントリーUSA |
有馬記念 | 未 | ||
東京大賞典 | 2003 | スターキングマン | Kingmambo |
※当時は「統一ダートG2」 |
競馬ブック増刊号「血統をよむ」2009.5.10
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