2009NHKマイルC


狙い澄ましたブレイクショット

 日本ダービーに先んじて正式なG1に昇格したのを機に、過去13回のNHKマイルCの歴史を振り返ってみると、初期には勢力を増し続ける輸入競走馬のガス抜きとして機能し、近年は日本ダービーへの新たなステップレースとしての性格を帯びてきたことが分かる。もう少し踏み込むと、ミスタープロスペクター系の日本における発展の足場として重要な役割を果たしていたことも明らかになる。下表はG1/Jpn1レースで最初に勝ったミスタープロスペクター直系のリスト。94年ジャパンCのマーベラスクラウンや95年スプリンターズSのヒシアケボノUSAが単発的に勝っているが、Mr.プロスペクター系が過去13年で勝ち馬5頭、2着3頭、3着4頭という継続的な活躍を見せたのはこのレースの大きな特徴といえる。いかに世界の主流、米国の王者とはいっても、登場の時期と場所を得なければ成功はおぼつかない。たとえばパーソナリティUSAは登場が早過ぎたヘイルトゥリーズン系、クラウンドプリンスUSAは早過ぎたレイズアネイティヴ系といえるだろうし、最近ではデヒアUSAなども早過ぎたデピュティミニスター系だったのかもしれない。エルコンドルパサーUSAやキングカメハメハのその後の成功に、このレースが寄与した部分は決して小さくないだろう。
 ブレイクランアウトUSAの父スマートストライクはこれまでジャパンCダートのフリートストリートダンサーUSAが代表産駒といえたが、昨年、一昨年と2年連続米年度代表馬となったカーリンを出し、一昨年のブリーダーズCではカーリンが“クラシック”を、イングリッシュチャネルが“ターフ”を制するという快挙を達成した。これまでコジーン産駒が別々の年にターフとクラシックを勝ったことがあったが、同一年の独占は史上初。今年のケンタッキーダービー馬マインザットバードの血統表にも母の父として登場していて、目下の勢いではMr.プロスペクター系随一といえる。この父系はなぜか産駒の出来に波が大きいので、勢いの有無は重要だ。母の父はこちらもNHKマイルの申し子ともいえるフレンチデピュティUSA。過去に直仔のクロフネUSAとピンクカメオが勝ち、グラスエイコウオーUSAが13番人気で2着、孫のブラックシェルも昨年2着に入った。母は短距離での勝ち鞍もあるが、芝12Fの米G2ロングアイランドHに勝ったフレンチデピュティUSA産駒らしいといえばらしい万能ぶりを発揮した。その、ノーザンダンサー4×4、ボールドルーラー4×4、ナスルーラ5×5×5、プリンスジョン5×5という配合は、とかく単調になりがちな父に、爆発的なスピードを与えている。

 クロフネUSAといえばエルコンドルパサーUSAと並ぶこのレースの偉大な卒業生だが、過去3世代の産駒から父子出走を果たしたのはフサイチリシャール(06年6着)とブラックシェル(08年2着)の2頭しかいない。これは東京の力任せの競馬ができる1600mには合うが、そこまでの過程を上がってくる器用さに欠けるせいかもしれない。ティアップゴールドは上り調子にあるので、出てきた以上は好勝負可能なのではないだろうか。母の父がMr.プロスペクター系なのでブレイクランアウトUSAの逆のパターン。しかもマキアヴェリアンなら欧州系最高級。牝系は4代母の産駒にサドラーズウェルズ、5代母の産駒にヌレエフのいる名門で、6代母ソングの玄孫がエルコンドルパサーUSA。これもG1NHKマイルCのためにあつらえたかのような血統だ。ちなみに、半兄マイネルスケルツィはニュージーランドTを勝って1番人気で臨んだこのレースで惨敗したが、これは父がグラスワンダーUSAだから縁がなかったものと考えておきたい。

 名門牝系といえば、スガノメダリストは3代母の産駒に英・愛ダービーのザミンストレル、4代母の産駒に英三冠馬ニジンスキーがいる。Mr.プロスペクター3×3の近交は強烈だが、米G1メートロンSのストラティジックマヌーヴァーから米G1トラヴァーズのフラワーアリーまで、徐々に成功例も出てきた。父はここを勝って日本ダービーにも勝った最初の存在。クロフネUSAが開拓に着手した道を完成させたわけだが、そのように要領良くクロフネUSAより先に父子制覇を達成するかもしれない。

 もう1頭のキングカメハメハ産駒フィフスペトルは母の父がセントジェームズパレスSとクイーンエリザベス2世Sの2つのマイルG1に勝った名マイラー。父がノーザンダンサー4×4で母がニジンスキー3×3というノーザンダンサーの濃さが目につくが、実際には遠い代に数多く潜むナスルーラ血脈の影響の方が大きいようで、距離短縮はプラス。

 大穴で日本のMr.プロスペクター系の重鎮アフリートCAN産駒のタイガーストーン。牝系は名門ネイティヴパートナー系で、00年の勝ち馬イーグルカフェUSAもここの出身。


G1/Jpn1レースにおけるミスタープロスペクター直系の初出一覧
レース年度馬名
川崎記念2007ヴァーミリアンエルコンドルパサーUSA
フェブラリーS2002アグネスデジタルUSACrafty Prospector
高松宮記念2001トロットスターダミスターUSA
桜花賞1999プリモディーネアフリートCAN
皐月賞
天皇賞(春)
NHKマイルC1997シーキングザパールUSASeeking the Gold
1998エルコンドルパサーUSAKingmambo
2000イーグルカフェUSAGulch
2004キングカメハメハKingmambo
2005ラインクラフトエンドスウィープUSA
ヴィクトリアマイル
優駿牝馬
東京優駿2004キングカメハメハKingmambo
安田記念2003アグネスデジタルUSACrafty Prospector
宝塚記念2005スイープトウショウエンドスウィープUSA
かしわ記念2003スターリングローズ※アフリートCAN
帝王賞2004アドマイヤドンティンバーカントリーUSA
ジャパンダートダービー2003ビッグウルフアフリートCAN
スプリンターズS1995ヒシアケボノUSAWoodman
南部杯1997タイキシャーロックジェイドロバリーUSA
秋華賞2004スイープトウショウエンドスウィープUSA
菊花賞2006ソングオブウインドエルコンドルパサーUSA
天皇賞(秋)2001アグネスデジタルUSACrafty Prospector
JBCスプリント2002スターリングローズアフリートCAN
JBCクラシック2002アドマイヤドンティンバーカントリーUSA
エリザベス女王杯2005スイープトウショウエンドスウィープUSA
マイルチャンピオンシップ2000アグネスデジタルUSACrafty Prospector
ジャパンC1994マーベラスクラウンMiswaki
ジャパンCダート2002イーグルカフェUSAGulch
阪神ジュベナイルフィリーズ1999ヤマカツスズランジェイドロバリーUSA
全日本2歳優駿1998アドマイヤマンボ※Kingmambo
朝日杯フューチュリティS2001アドマイヤドンティンバーカントリーUSA
有馬記念
東京大賞典2003スターキングマンKingmambo
※当時は「統一ダートG2」

競馬ブック増刊号「血統をよむ」2009.5.10
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