2008安田記念


お坊ちゃんの覚醒

 昨年の来日時に115だったグッドババの国際レーティングは現在122まで上昇した。昨年の勝ち馬ダイワメジャーのそれは121だから、そのまま単純に当てはめるとたとえ今回ダイワメジャーがいたとしてもハナ〜3/4馬身の差でグッドババが勝つことになる。香港の現在のレーティング上位馬は表1の通りで、トップのセークリッドキングダムの123は日本の現役馬トップであるポップロックとメイショウサムソンの122を上回る。トップレベルの層がそれだけ厚いので、今回の出走馬をレーティング順に並べた表2でも上位を占めることになる。ただ、昨年来日したグッドババを含む4頭も、117〜115に収まっていながら、掲示板には1頭も載らずじまいだった。香港の場合は調教師も騎手も世界の一流が集まっているし、国際レースには欧州・豪州の一流馬が来るのでハイレベルの戦いになるのは当然なのだが、一流馬の走る競馬場はシャティンに限られていて、そこにレーティングを鵜呑みにできない原因がある。芝の状態もコーナーの具合も熟知した自分の庭ではどこまでも強く、海外の強豪さえ一蹴する力があっても、それが外に出るとどうかというと、また別の話になる。これはジャパンCでは強くても敵地でさっぱりだったかつての日本馬の姿と同じことかもしれない。かつてこのレースで連対した3頭の香港馬は98年2着オリエンタルエクスプレスがグリーンデザート産駒、00年1着フェアリーキングプローンがデインヒル産駒、06年ブリッシュラックがロイヤルアカデミーII産駒と、父だけ見ても世界に通用するブランド品だった。05年3着に敗れたサイレントウィットネス、06年3着のジョイフルウィナーはともにマイナー種牡馬エルモキシー産駒だったので、一流種牡馬の産駒かどうかという意外に単純なフルイで用を果たす面もある。グッドババの父リアファンは微妙なところ。一流ではあるが、超一流とはいえない。というわけで▲としてお茶を濁す。3代母の孫にはマイルの名牝ミエスクがいて、今年の牝馬クラシック路線で活躍したオディールもこの一族。

 このレースにおけるサンデーサイレンス直仔は昨年のダイワメジャーが初勝利。これで堰を切ったように……というほど駒が残っていないが、同期のエアシェイディは母の父も同じ。ノーザンテーストは3つ目の表に示したように安田記念で高い実績を残していて、さすがのSSもこの母の父のサポートなしには安田記念制覇は果たせなかった。牝系はお馴染みの名門で、全妹エアメサイアは秋華賞に勝ち、叔父エアシャカールは皐月賞と菊花賞に勝った。これまでのところオークス2着、桜花賞と秋華賞で3着という母の奥ゆかしさばかりを受け継いだかに見えるお坊ちゃん気質が問題だが、今年を迎えて初めて重賞勝ちを収めるなど、ようやく名門の嫡子たる自覚が出てきたようだ。フジキセキやアグネスタキオンの活躍ばかりが目立つこの春、そろそろサンデーサイレンス直仔がその威厳を示すタイミングかもしれない。

 ロドリゴデトリアーノは英・愛2000ギニーを連勝。その後、2000m級で古馬を相手にしたインターナショナルS、チャンピオンSでも末脚が鈍ることはなかった。90年代初期の有数のマイラーで、輸入後はオークス馬エリモエクセルなど出したが、牡馬の大物はスーパーホーネットが初めて。エルグランセニョール直系ということでも貴重だ。ノーザンダンサー系×レイズアネイティヴ系という定番マイラー配合で、牝系はニジンスキーやザミンストレルと同じ。ハビタットやクリムゾンサタン、ギャラントマンといったマイナー血脈もいいスパイスとなって爆発力強化にひと役買っている。

 ウオッカは不振というほど悪い成績ではないが、全盛期の姿にないこともはっきりしている。いったんピークを極めたブライアンズタイム系が陥るだらだらモードに嵌まっているのかもしれない。ブライアンズタイム直仔ファレノプシスのように秋華賞から2年後のエリザベス女王杯で復活した例もあるし、メイショウサムソンと同じ在来の名門フロリースカップ系でもあるので、簡単に燃え尽きることはないと思うが、まだ全幅の信頼は置き辛いところ。

 上り調子にあるブライアンズタイム系は少々の相手強化もはね返してしまう。オーシャンエイプスはようやく当初の評価に力が追いついてきて、今が一番勢いのある時期。これも母の父ノーザンテーストという点に注目。

 ピンクカメオは01年に9番人気で勝ったブラックホークの半妹。産駒が桜花賞と天皇賞(春)に勝った父フレンチデピュティの今年の勢いは格別で、先週も金鯱賞を制した。特に道悪なら一発警戒。


表1)
香港 国際レーティング(6/4現在、香港ジョッキークラブ発表)
レーティング 馬名 産地 調教地
 E 
123         セークリッドキングダム セン 香港
    122 122   ヴィヴァパタカ セン 香港
      122   ヴェンジャンスオブレイン セン 香港
  122       グッドババUSA セン 香港
    122     ラモンティ UAE
    120     アーキペンコ 南ア
      119   ドクターディーノ
  118       アルマダNZ セン 香港
  118       クラカドー UAE
117         アブソルートチャンピオン セン 香港
    116     キハノ セン
    116     バリウス
      116   ブッソーニ
116         ロイヤルディライト セン 香港
115         サンジロ セン 香港
  115       ハロープリティ セン 香港
  115 115     ブリッシュラックUSA セン 香港
  115       フローラルペガサス 香港
  115       ロイヤルプライド 香港

表2)
安田記念 プレレーティング(6/1現在、JRA発表)
レーティング 馬名
 E 
  122       グッドババUSA セン
  118       アルマダNZ セン
  118       スーパーホーネット
  117       スズカフェニックス
      116   ウオッカ
  115       コンゴウリキシオーIRE
  115 115     ブリッシュラックUSA セン
113         アイルラヴァゲイン
  112       エイシンドーバーUSA
      112   ドリームジャーニー
  110   110   エアシェイディ
  110       キストゥヘヴン
  110       ジョリーダンス
  109       ドラゴンウェルズUSA
  108       ハイアーゲーム
  107       ニシノマナムスメ
  104       オーシャンエイプス
  104       ピンクカメオ
※年齢は主催者発表による(北半球齢と南半球齢が混在)

表3)
ノーザンテーストの活躍
年度 馬名 続柄
1986 ギャロップダイナ
88 ダイナアクトレス 母の父 父
92 カミノクレッセ 父系祖父
93 イクノディクタス 母の父
95 サクラチトセオー 母の父
99 エアジハード 祖母の父
2002 アドマイヤコジーンUSA 母の父
03 アドマイヤマックス 母の父
04 テレグノシス 母の父
07 ダイワメジャー 母の父

競馬ブック増刊号「血統をよむ」2008.6.8
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