馬の移動手段としての実用性を考えると、1600ｍを１分35秒で走ってバテるものより、３分20秒かかっても3200ｍ走れるものの方が役に立つ。一方、競技としての競馬を突き詰めていけば、1600ｍ前後で争うのがいろいろな面で合理的だし、種牡馬として信頼性や経済性が高いのも1600〜2000ｍで活躍したものだ。そういうわけで3000ｍ前後の超長距離戦の比率は欧州圏で高く、北米で低い。日本は平均的。いずれにせよ世界的にこの分野が衰退傾向にあるのは確かで、かつて３歳クラシックの最終関門だったレースは古馬に開放して何とか格を保っていたり、保てなかったり、あるいは距離短縮によって出走馬の質の確保を図っている。３歳限定で正規のＧ１格は世界中で英セントレジャーだけになってしまった。菊花賞もせっかくデルタブルースやディープインパクトといった世界的名馬が歴代勝ち馬に名を連ねているわけだから、それらの効力が消えないうちにＧ１格を得るよう努力すべきだと思うのだが、このまま正規グレードと偽装グレードの混在が続いていくのだろうか。

　下表ではＧ１勝ち馬だけ簡単に血統を記しているが、サドラーズウェルズを別格とすると、ダルシャーンやラシュカリのミルリーフ系、リアルシャダイUSAやクリスエスのロベルト系、短距離王国オーストラリアの長距離血統ザビールといったところが目に付く。それら３つの血脈を備えているのが◎マイネルチャールズ。父はナリタブライアン、マヤノトップガンで菊花賞２勝。母の父ザビールの直仔にはエフィシェント、ベーゼル、ガリック、エーブルマスター、アワユニコーン、ジェザビール、クロノスと７頭の3200ｍＧ１ウイナーがいる。祖母の産駒ダブルリーフはラストタイクーンIRE産駒ながら南アフリカでＧ２ゴールドヴァーズに勝ち、Ｇ１ゴールドＣ（現キヤノンゴールドＣ）で２着している。そもそも3000ｍ級を目指した配合・生産をやっていない今どき、これだけ超長距離実績に富んだ血統というのは探してもなかなかいない。無事菊花賞まで進んでくれて良かったと思う。

　菊花賞父仔制覇はこれまで父セントライト（勝利年度1941年）→子セントオー（52年）、父トサミドリ（49年）→子キタノオー（56年）、子キタノオーザ（60年）、子ヒロキミ（23年）、父シンザン（64年）→子ミナガワマンナ（81年）、子ミホシンザン（85年）、父ダンスインザダーク（96年）→子ザッツザプレンティ（03年）、子デルタブルース（04年）と８組の例がある。皐月賞が５組、日本ダービーも５組で、それらに比べて多いのは特殊な距離だからこそかもしれない。そこでマンハッタンカフェ産駒のメイショウクオリアを○にしてみた。牝系がダンスインザダークと同じで、３代母の産駒にアラジUSA（父ブラッシングルルーム）、ノヴェール（父ラーイ）がいる名門。ＪＣダートのイーグルカフェUSAもこの牝系で、大レースに強い底力がある。騎手もヒシミラクルで大穴を開けた。

　長距離の大レースは人気の有無に関わらずリアルシャダイUSA産駒。かつてそういわれた時期があった。母の父に回ってもイングランディーレ、アドマイヤジュピタと２頭の春の天皇賞馬を出しているので、チェックを怠れない名前だ。その娘の産駒▲フローテーションは父も春の天皇賞馬スペシャルウィーク。母は函館2600ｍの900万特別勝ちがあり、祖母の産駒には最優秀２歳牝馬スティンガー、ローズＳのサイレントハピネスがいる。３代母の産駒タラケノは86年のサンルイスレイＳ（当時Ｇ１）でシンボリルドルフに唯一負けた馬だが、Ｇ２サンルイスオビスポＨ勝ちのほか、レベルの高かった当時の米国芝戦線で再三Ｇ１入着を果たしたステイヤー。

　アグネスタキオンは、皐月賞、ＮＨＫマイルＣ、日本ダービーと産駒がこの春の３歳牡馬戦線を席巻。ディープスカイがいなければいないで代役を立ててくるくらい簡単なことかもしれない。△ダイワワイルドボアは母が凱旋門賞馬スワーヴダンサーの半妹。母の父ヌレエフは菊花賞向きとはいえないが、祖母の父アレッジドは凱旋門賞連覇の名馬。大レースで底力を発揮するリボー系だ。