2008ダービー


100年の繁栄を映す黒貝

 小岩井農場が明治40年(1907)に英国から輸入した20頭のサラブレッド繁殖牝馬は、100年を経た今もその末裔がいわゆる“小岩井の牝系”として一大勢力を保っている。現代ではその主要な系統はほぼ6つに絞られ、「サラブレッド血統大系Vol.5」(2005年、サラブレッド血統センター)上に占める量を記すと、アストニシメント系39ページ、フロリースカップ系31、ビューチフルドリーマー系25、プロポンチス19、フラストレート14、ヘレンサーフ10となる。1ページに大体80頭の名前が並ぶので、それだけの量的な下地があれば、ときどき活躍馬が出て当然ともいえるのだが、なかなか100年は続かない。ちょっと目立つ活躍をしながら消えていった牝系がどれだけあるだろうか。配合種牡馬の質を保てずに消えていった牝系がどれだけあるだろうか。

 その中でも名門の誉れ高いフロリースカップの系譜をまとめてみた(下表)。これだけ見ると大したことないように思われるかもしれないが、31ページ×80行に及ぶリストをこのスペースに押し込もうとすると、桜花賞も菊花賞も天皇賞も有馬記念も省略しなければならない。業績を唯一東京優駿に絞ってやっとこのサイズ。ここ2年連続ダービー馬を出している点が光る。もちろんフロリースカップ系も毎年のように出走馬を送り出してほとんどは敗れているわけで、近年に限っても81年に1番人気で敗れたサンエイソロン、84年のラッシュアンドゴーや05年のダンツキッチョウのように穴人気で大敗したものまでいて、どれもこれも好結果を収めるわけではない。しかし、フロリースカップが他の小岩井の名門より特に優れている点のひとつは、スペシャルウィークの登場でも分かるように、サンデーサイレンス時代を経てより存在感を増してきたこと。サンデーサイレンスがダービーにデビューした95年以降、牝系を5代遡っても内国産というのはフロリースカップ系の3頭以外には97年のサニーブライアンしかいない。このように在来のものと新しいものを融合して現代の競馬に耐える土台となりうる強固さがこの牝系の特質。ブラックシェルは天皇賞(春)のリキエイカンや宝塚記念のスズカコバン、ダービーグランプリのテイエムメガトンが出るトサモアーの分枝。ソシアルバターフライ系のトウショウボーイ、スターロッチ系のダービー馬ウイニングチケットと重ねられた母はテスコボーイの4×3を持つ純日本風の配合。2歳時にすずらん賞に勝ち、ファンタジーS3着の活躍馬だ。父のクロフネはジャングルポケットの鋭さに屈してダービーでは5着だが、この母なら父に欠ける器用さや鋭さを補える。アグネスタキオンが皐月賞を、ジャングルポケットがオークスを制して98年生まれ組が種牡馬としての優秀さを示している今季のクラシック。順番的に今回はクロフネかという気もする。

 そのひとつ下の99年生世代にもタニノギムレットvsシンボリクリスエスの2代目抗争がある。このケースではダービーに勝って先に種牡馬になり、すでにダービー馬を出したタニノギムレットに先行の利が認められ、スマイルジャックを。母はサンデーサイレンス×マルゼンスキー×セントクレスピンというスペシャルウィーク配合。東京2400mで巻き返し必至といえよう。皐月賞9着の大敗が予定外だが、父ともスペシャルウィークとも同じ3着では、それはそれで話が出来過ぎですからね。

 SS後継争い、同世代首席争いでリードするアグネスタキオン。全兄のアグネスフライトがダービー馬なので、現在いわれているところのマイラー色の強さもおいおい払拭されていくことになるのではないか。▲レインボーペガサスは母の父が大レースに強いデインヒル。ヴィクトリアマイルのエイジアンウインズもこの母の父だ。

 同じ父のディープスカイはケンタッキーダービーを制した名牝ウイニングカラーズやジャパンCのタップダンスシチーが出る名門牝系。母の父もこの牝系を代表する名馬であり、名牝ミスカーミー4×5が生じる。祖母の父は予備燃料タンクとして有効なリボー系キートゥザミント。距離延長にも問題はないだろう。

 サクセスブロッケンは母がフィリーズレビュー勝ちのSS産駒。祖母の父がデピュティミニスターで父がシンボリクリスエスだと、やや重い印象だが、消耗戦なら。

 大穴で天皇賞(春)でリバイバルした“母の父リアルシャダイ”のフローテーション。父はフロリースカップ系のダービー馬。祖母の父は最後の米三冠馬アファームド。


フロリースカップGB系から現れたダービー馬

 フロリースカップGB Florries Cup (牝、1904、父Florizel)
   第四フロリースカップ (牝、1912、父インタグリオーGB)
    | フロリスト (牝、1919、父ガロンGB)
    |   第弐フロリスト (牝、1927、父ラシカッターGB)
    |    | フロラヴァース (牝、1936、父シアンモアGB)
    |    |   サンキスト (牝、1944、父ミンドアーGB)
    |    |     ガーネット (牝、1955、父トサミドリ)
    |    |       エール (牝、1972、父フォルティノFR)
    |    |         ウイルプリンセス (牝、1983、父サンプリンスIRE)
    |    |           マイヴィヴィアン (牝、1997、父ダンシングブレーヴUSA)
    |    |             メイショウサムソン (牡、2003、父オペラハウスGB)東京優駿
    |   スターカップ (牝、1930、父シアンモアGB)
    |    | 第弐スターカップ (牝、1937、父ダイオライトGB)
    |    |   シラオキ (牝、1946、父プリメロGB)
    |    |     コダマ (牡、1957、父ブッフラーGB)東京優駿
    |    |     ワカシラオキ (牝、1960、父ソロナウェーIRE)
    |    |      | ローズトウショウ (牝、1965、父テューダーペリオッドGB)
    |    |      |   コーニストウショウ (牝、1977、父ダンディルートFR)
    |    |      |     エナジートウショウ (牝、1987、父トウショウボーイ)
    |    |      |       タニノシスター (牝、1993、父ルションUSA)
    |    |      |         ウオッカ (牝、2004、父タニノギムレット)東京優駿
    |    |     ミスアシヤガワ (牝、1964、父ヒンドスタンGB)
    |    |       レディーシラオキ (牝、1978、父セントクレスピンGB)
    |    |         キャンペンガール (牝、1987、父マルゼンスキー)
    |    |           スペシャルウィーク (牡、1995、父サンデーサイレンスUSA)東京優駿
    |   ミナミホマレ (牡、1939、父プリメロGB)東京優駿
   第六フロリースカップ (牝、1915、父インタグリオーGB)
    | 賀栄 (牝、1923、父ガロンGB)
    |   栄幟 (牝、1938、父プライオリーパークGB)
    |     マツミドリ (牡、1944、父カブトヤマ)東京優駿
   第九フロリースカップ (牝、1924、父ガロンGB)
     スターリングモア (牝、1929、父シアンモアGB)
       第三スターリングモア (牝、1944、父月友)
         第三スターリングモアノ一 (牝、1951、父トビサクラ)
          | ミタケ (牝、1960、父タカクラヤマ)
          |   コウイチスタア (牝、1968、父ジャヴリンIRE)
          |     カツラノハイセイコ (牡、1976、父ハイセイコー)東京優駿
         トサモアー (牝、1953、父トサミドリ)阪神3歳S、神戸新聞杯、[2]桜花賞、[2]菊花賞
           モンテホープ (牝、1960、父ライジングフレームGB)
             リキエイカン (牡、1966、父ネヴァービートGB)天皇賞(春)
             ヤマニサクラ (牝、1967、父タリヤートスIRE)
              | ナムラピアリス (牝、1984、父トウショウボーイ)
              |   オイスターチケット (牝、1998、父ウイニングチケット)2勝、[3]ファンタジーS
              |     ブラックシェル (牡、2005、父クロフネUSA)
             サリュウコバン (牝、1974、父ネヴァービートGB)
               スズカコバン (牡、1980、父マルゼンスキー)宝塚記念

※日本ダービー馬の出た系統以外省略。トサモアーの分枝だけ少し詳しくしてある。

競馬ブック増刊号「血統をよむ」2008.6.1
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