10年前の秋といえば、あのサイレンススズカの天皇賞。何気なく3頭ボックスで買った馬連があろうことか残った1点で当たってしまった。そのせいで印象深いというのではないが、そのときの2着がステイゴールド。考えてみれば、当時無敵の6連勝を記録したサイレンススズカに1馬身以内に迫った(宝塚記念)唯一の存在だったのだから、それくらい走っても当然だが、重賞初制覇がその1年半後の目黒記念、G1初制覇が更に1年半後の香港ヴァーズまで持ち越されたのは不思議というほかない。オフサイドトラップの2着に終わったステイゴールドは翌秋の天皇賞でもスペシャルウィークの2着に終わった。それも僅かクビ差だからもったいなかった。種牡馬の競走成績を語るとき一般に勝ち鞍に目が行きがちだが、負けたレースに本質が隠されていることもある。菊花賞4着馬ジャングルポケット産駒のオウケンブルースリが勝ち、菊花賞2着馬スペシャルウィーク産駒フローテーションが2着した先週の結果が示す通りだ。それを踏まえて、ステイゴールド産駒の◎ドリームジャーニーに期待してみる。大量の重賞入着と、それ以上に大量の重賞着外を積み上げたステイゴールドとは対照的に、母の父メジロマックイーンは重賞勝率64%、同連対率85%という堂々たる名馬だが、それでもひとつだけ汚点といいますか、失態といいますか、秋の天皇賞では1位入線失格のいまわしい過去がある。2位入線のプレクラスニーには6馬身もの差をつけていて、そのまま確定していれば、これは不良馬場とはいえ秋の天皇賞(2000mになってから)の最大着差記録となるところだった(記録は87年ニッポーテイオーの5馬身)。したがって、この父と母の父には、ともに池江郎厩舎の名ステイヤーという共通点を別にしても、こと天皇賞・秋に関しては全力で共闘体制を取る用意があると考えることができる。 |
ステイゴールドの重賞入着コレクション | |
1着 | 香港ヴァーズG1(2400m、2着馬:エクラール)、ドバイシーマクラシックG2(2400m、ファンタスティックライトUSA)、日経新春杯(2400m、サンエムエックス)、目黒記念(2500m、マチカネキンノホシUSA) |
2着 | 天皇賞・秋(2000m、勝ち馬:オフサイドトラップ)、天皇賞・秋(2000m、スペシャルウィーク)、天皇賞・春(3200m、メジロブライト)、宝塚記念(2200m、サイレンススズカ)、日経賞(2500m、レオリュウホウ)、アメリカJCC(2200m、マチカネキンノホシUSA)、ダイヤモンドS(3200m、ユーセイトップラン) |
3着 | 有馬記念(2500m、勝ち馬:グラスワンダーUSA)、宝塚記念(2200m、グラスワンダーUSA)、金鯱賞(2000m、ミッドナイトベットUSA)、京都記念(2200m、テイエムオペラオー)、日経賞(2500m、セイウンスカイ)、鳴尾記念(2000m、スエヒロコマンダー)、目黒記念(2500m、ゴーイングスズカ) |
失格 | 京都大賞典(2400m、勝ち馬:テイエムオペラオー) |
メジロマックイーンの重賞入着コレクション | |
1着 | 天皇賞・春(3200m、2着馬:ミスターアダムス)、天皇賞・春(3200m、カミノクレッセ)、宝塚記念(2200m、イクノディクタス)、菊花賞(3000m、ホワイトストーン)、阪神大賞典(3000m、カミノクレッセ)、阪神大賞典(3000m、ゴーサイン)、大阪杯(2000m、ナイスネイチャ)、京都大賞典(2400m、メイショウビトリア)、京都大賞典(2400m、レガシーワールド) |
2着 | 天皇賞・春(3200m、勝ち馬:ライスシャワー)、有馬記念(2500m、ダイユウサク)、宝塚記念(2200m、メジロライアン) |
失格 | 天皇賞・秋(2000m、勝ち馬:プレクラスニー) |
対して、天皇賞・秋の実績があるのは○ダイワスカーレット。半兄ダイワメジャーは一昨年の勝ち馬で、父のアグネスタキオン産駒からは昨年の2着馬アグネスアークが出ている。この世代の牝馬と牡馬の力関係では土台から優位に立っているので、4月以来となる休み明けの影響がなければ当然アッサリのケースもあるだろう。ダイワメジャーにしてもヴァーミリアンにしても、このスカーレット一族の一流馬には、早い時期からそこそこ強く、古馬になって本格化するとむちゃくちゃ強くなるという傾向がある。ダイワスカーレットがその一族の傾向に忠実で、昨年の強さが“そこそこ”の段階でのものだったとすると、本格化すれば一体どこまで強くなってしまうのでしょうか。 10年前の秋の勝ち馬オフサイドトラップはトニービンIRE産駒。前年にはエアグルーヴが、95年にはサクラチトセオーが勝っていて、トニービンIRE産駒の東京での強さが遺憾なく発揮されている。1代下がってジャングルポケット産駒となると菊花賞に勝ったことで東京のスペシャリストという色合いは薄れてしまったようだが、トールポピーがオークスに勝っているように、しっかり父系の伝統を受け継いでいることは間違いない。▲トーセンキャプテンは母がサンデーサイレンスUSA産駒初の海外G勝ち馬サンデーピクニック。祖母は伊1000ギニー、伊オークスに勝ち、愛オークスでも2着に入った活躍馬で、カーリアン×シャーリーハイツという本格派の欧州2400m型血統。ここに入っても見劣りしない底力を備えている。 同じ父の△タスカータソルテは母の父がノーザンテーストCANだから、トニービンIRE×ノーザンテーストCANのエアグルーヴやサクラチトセオーに似た配合。古くはシンボリルドルフを破ったギャロップダイナの父として、最近では一昨年の勝ち馬ダイワメジャーの母の父として、ノーザンテーストCAN血脈は実に長期間にわたってこのレースで重要な役割を担ってきたことになる。それを支えたのが恐らくハイペリオン血脈で、この配合でも父母両方から十分に取り込まれていて、ハイペリオンを発展させる形でノーザンダンサー4×3を持つ。東京向きの息の長い末脚と追い比べでの勝負強さはここでも通用。 夏の終わりにセイウンワンダーが新潟2歳Sを制したフロリースカップGB系。秋もこの名門牝系の大活躍が続くのかと思われたが、10月に入るとメイショウサムソンは凱旋門賞で大敗、ブラックシェルは故障で戦線離脱、女王ウオッカが前哨戦を落とすなど、流れが悪い。まあ、同じ牝系といっても揃ってどうこうするほど近い縁でもないわけだが、不思議とこういう波には無視できないものがある。なぜか直接対決では分が悪いダイワスカーレットがいることでもあり、買い被りはできない。 エアシェイディはダイワメジャーと同期で同じサンデーサイレンスUSA×ノーザンテーストCANの配合。母エアデジャヴーはクイーンSに勝ち、オークス2着、桜花賞と秋華賞では3着だった。どうもこの牝系特有の育ちの良さが災いして、G1級のポテンシャルをタイトルに繋げるところまでいかないようだ。ただし、全妹エアメサイアは桜花賞4着、オークス2着と母同様の道をたどるかと思われたが秋華賞に勝った。兄としてもどこかで奮起して威厳を示したいところ。SS直仔が強いこのレースはぴったりかもしれない。 |
競馬ブック増刊号「血統をよむ」2008.11.2
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