2006宝塚記念


逆転のトリック

 実は今回がディープインパクトのG1デビューなのであるというと驚かれる向きもあるかと思うが、これはウソではない。ジャパンCに遅れること9年、宝塚記念は国際セリ名簿基準作成委員会によって2001年に認定された日本で2番目の国際G1(パートIG1)レース。あとは安田記念とマイルチャンピオンシップが2004年から国際G1となり、今年からスプリンターズSもそこに加わっている。以上5つが厳密な意味での日本のG1レースだ。ではこれまでディープインパクトが勝ってきたのは何なのよということになるが、それら第三者機関の評価を受けていないJRAグレードはJRAのいわば社内基準のようなもので、国際的にはリステッドレース扱いなんですな。ただ、外から見ればあまり意味がないとしても、日本の競馬の特に上級レースがほぼJRAの独占状態であることと、もっぱら興行上の指標としての役割が大きいことを考えれば、JRAの自称グレードも実用には差し支えがない。ここのところのギャップが、実質的な日本最強馬が形式的にはG1未勝利馬であるという矛盾を生んでいる。それを解消するのが日本の「セリ名簿基準パートI」入りで、平たくいえば世界競馬で一人前の大人の国としての扱いを受けること。パートI入りには、当然大人の責任として外国調教馬への門戸開放だけでなく馬主をはじめ人的な開放も求められることになることは想像できるが、そういった制度の問題とは別に、日本の馬の強さを実際に示すことも重要になってくる。エルコンドルパサー当時よりもパートI入りが現実に近づいている今だからこそ、ディープインパクトには健闘を期待したい。ただ、今までのように大外を1頭だけ飛んでくるような競馬は大きな能力差があるからできることで、なんぼ斜陽の欧州2400m路線とはいえ、そんなには甘くない。そのときになればそれなりに力を発揮するものが現時点の仮想敵ハリケーンラン以外にも複数現れるはずだし、3歳に3.5Kg与えて59.5Kgを背負い、しかも馬場状態もどうなるか分かったものではない状況。逆境で燃えるサンデーサイレンス、妊娠して遠征したドイツでG1勝ちを果たした猛女ウインドインハーヘアという両親であれば、それらアウェーの不利も自分のエネルギーに変えてしまう可能性はあるが、そういった希望的観測型可能性をアテにするわけにもいかないので、今回でしっかりシミュレーションをしていってほしい。

 で、その凱旋門賞シミュレーションの隙を突いてというよこしまな狙いになるが、は5歳世代から選びたい。ディープインパクトの血統について93文字しか使わずにしかもにする無礼はお許し願いたいが、表に示した通り、01年生まれ=5歳世代の世界を股にかけた国際G1での強さは際立っている(下表参照)。延べ5勝は94年生世代と97年生世代のそれぞれ6勝に続くもので、まだ更新の余地がある。しかも国産比率100%という点は先行世代からの日本競馬の実力アップを示しているように思う。これらの挙げた5勝の過半数がサンデーサイレンス産駒によるものであること、そして今回までディープインパクトと未対戦であることの2点を取ってハットトリックに期待してみたい。ディープインパクトの2着した馬はこれまで、消耗が激しいためか新馬戦2着のコンゴウリキシオー以外は必ず次走で着順を落とし、また1回でもディープインパクトと対戦した経験があると姿を見た段階で「あかん、無理、勝てまへん」という気持ちになると想像できるからである。ハットトリックの母トリッキーコードは2歳時にG1オークリーフS3着からBCジュヴェナイルフィリーズに挑んで大敗、芝8FのミエスクSを勝って、3歳になるとG2サンタイネスBCSに勝った。これは7Fだが、その後8.5FのG3フェアグラウンズオークス2着がある。父がサンデーサイレンスなら距離に関してそう心配する必要はないし、母の父ロストコードはリボー直系でしかも米国異系血脈をたっぷり持っているので、この父との組み合わせならとてつもないパワーを発揮する可能性がある。

日本の国際G1勝ち馬
年度レース馬名生年
1992ジャパンCトウカイテイオー1988
1993ジャパンCレガシーワールド1989
1994ジャパンCマーベラスクラウン1990
1998モーリスドギース賞(仏)シーキングザパールUSA1994
ジャックルマロワ賞(仏)タイキシャトルUSA1994
ジャパンCエルコンドルパサーUSA1994
1999アベイドロンシャン賞(仏)アグネスワールドUSA1995
サンクルー大賞典(仏)エルコンドルパサーUSA1994
ジャパンCスペシャルウィーク1994
2000ジュライC(英)アグネスワールドUSA1995
ジャパンCテイエムオペラオー1995
2001宝塚記念メイショウドトウ1996
ジャパンCジャングルポケット1998
香港ヴァーズ(港)ステイゴールド1994
香港マイル(港)エイシンプレストンUSA1997
香港カップ(港)アグネスデジタルUSA1997
2002クイーンエリザベスII世C(港)エイシンプレストンUSA1997
宝塚記念ダンツフレーム1998
2003クイーンエリザベスII世C(港)エイシンプレストンUSA1997
宝塚記念ヒシミラクル1999
ジャパンCタップダンスシチーUSA1997
2004安田記念ツルマルボーイ1998
宝塚記念タップダンスシチーUSA1997
マイルチャンピオンシップデュランダル1999
ジャパンCゼンノロブロイ2000
2005安田記念アサクサデンエン1999
宝塚記念スイープトウショウ2001
アメリカンオークス(米)シーザリオ2002
マイルチャンピオンシップハットトリック2001
香港マイル(港)ハットトリック2001
2006ドバイシーマクラシック(首)ハーツクライ2001
シンガポール航空国際C(星)コスモバルク2001

 ▲トウカイカムカムは、はっきり差のついた5着とはいえ、天皇賞(春)が初めての一線級相手としては評価できる内容。父の産駒のA級馬はマイルチャンピオンシップのトウカイポイント、かしわ記念のストロングブラッド、阪神ジュヴェナイルFのヤマニンシュクルといずれも1600mで金星を挙げるというパターンだが、母の父に回ってのサンデーサイレンスの有能さを考えると、従来のテリトリーから踏み出した活躍を期待していいだろう。牝系はアストニシメント系エベレストの分枝で、ここからは87年の勝ち馬スズパレードが出ている。春の2冠を制したガーネット系のメイショウサムソンが呼び水となって在来牝系の反攻が活発化するのかもしれない。

 ナリタセンチュリーはディープインパクトどうこうという以前の大敗なので、むしろ精神的ダメージは少ないかもしれない。7歳で天皇賞(秋)に勝ったオフサイドトラップのように、高齢で再上昇を迎えるケースのあるトニービン産駒で、母はノーザンテースト×ヴェイグリーノーブルの配合。ハイペリオン4×5×5を生じるこの母ならトニービンの持つハイペリオン血脈と呼応して、晩成の傾向は更に強まるはずだ。5代母アーシャリムから4代下って今年の英ダービー馬サーパーシーが出ている牝系もタイムリー。

 「ワールドCイヤーなのでサッカーボーイ」というベタなネタは書きたくなかったのだが、前回の02年にはツルマルボーイ(母の父)、前々回98年にはステイゴールド(母の全兄)と関連血脈が2着に入って穴を開けている。今回はアイポッパーバランスオブゲームですが……。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2006.6.25
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