2006エリザベス女王杯


甦る伝説の勇者

 今年のメルボルンCはサンデーサイレンスの直系の孫デルタブルースと娘の産駒ポップロックが地元馬を引き離してワンツーを決めた。最後の3歳クラシックは0勝に終わったが、天皇賞(秋)でも直仔が1、2着を占めたように、やはり底力がある。

 さて、今回はダンシングブレーヴの直系の孫であるカワカミプリンセスと、娘の子スイープトウショウの対決ムードとなった。ダンシングブレーヴは英仏米で2〜3歳時10戦8勝。その戦績は繰り返さないが、87年に引退して種牡馬入り。その年マリー病にかかり、恐らく生涯その影響からは逃れられなかったのだろう、現代の一流種牡馬の水準に比べれば少ない産駒しか残せなかった。88年生まれから2000年生まれまでの13クロップで、米ジョッキークラブ社の統計によると全部で435頭。そのうち種牡馬生活の後半を過ごした日本では263頭の産駒が血統登録された。1世代平均で30頭強の戦力だ。サンデーサイレンスと規模で比較すると3分の1程度で、重賞勝ち馬は20頭。舞台の違いは考慮に入れてもサンデーサイレンスの重賞勝ち産駒140頭弱に比べると分が悪いが、その20頭のうち9頭がG1勝ち馬で半分近い割合になる。G1勝ち馬が重賞勝ち馬のうち3分の1弱というサンデーサイレンス(これも凄い数字だが)に大物率という点では優っている。97年のこのレースでSS産駒ダンスパートナーを差し切ったエリモシックに象徴されるように、統計の値よりも個々の力の突出で勝負する血統ということはできるだろう。直仔は今はもう中央に10頭ほど残るのみで、孫の時代に入った。そこで、直仔と孫のG1勝ち馬を右表に示してみた。本来こうやって牡牝をごちゃ混ぜにしてしまうものではないが、ちょうど手頃で見やすい規模なので禁じ手を使ってみた。これで数えると直系に6頭、娘の子に9頭の計15頭。ちなみにサンデーサイレンスは直系に9頭で娘の子に3頭の計12頭。4年のアドバンテージがあるにしても、産駒の絶対数の違いを考えれば現状のサンデーサイレンス以上の優秀さといえるだろう。


ダンシングブレーヴUSA系の繁栄
直仔と孫のG1、JRAG1勝ち太字赤字は牝馬)

ダンシングブレーヴUSA
  Dance on the Stage(、89年生、不出走)
      ロベルティコ Robertico(牡、95、独ダービー)
  Jawaher(、89、英未勝利)
      ゾマラダー Zomaradah(、95、伊オークス)
  コマンダーインチーフGB(牡、90、英ダービー、愛ダービー)
      アインブライド(、95、阪神3歳牝馬S)
      マイネルコンバット(牡、97、ジャパンダートダービー)
      レギュラーメンバー
          (牡、97、JBCクラシック、川崎記念、ダービーグランプリ)
  ホワイトマズルGB(牡、90、伊ダービー)
      スマイルトゥモロー(、99、優駿牝馬)
      イングランディーレ(牡、99、天皇賞・春)
  ウィームズバイト Wemyss Bight(、90、愛オークス)
      ビートホロウ Beat Hollow(牡、97、パリ大賞典)
  イヴァンカ Ivanka(、90、フィリーズマイル)
  チェロキーローズII IRE(、91、スプリントC、モーリスドギース賞)
  Ballerina(、91、英1勝)
      ミレナリー Millenary(牡、97、セントレジャー)
  Hope(、91、仏未勝利)
      オアシスドリーム Oasis Dream
          (牡、00、ジュライC、ナンソープS、ミドルパークS)
      ゼンダ Zenda(、99、仏1000ギニー)
  Dorothea Brook(、92、英1勝)
      プリモヴァレンティノ Primo Valentino
          (牡、97、ミドルパークS)
  エリモシック(、93、エリザベス女王杯)
  タバサトウショウ(、93、1勝)
      スイープトウショウ
          (、01、宝塚記念、エリザベス女王杯、秋華賞)
  キョウエイマーチ(、94、桜花賞)
  キングヘイロー(牡、95、高松宮記念)
      カワカミプリンセス(、03、優駿牝馬、桜花賞)
  マイヴィヴィアン(、97、未勝利)
      メイショウサムソン(牡、03、東京優駿、皐月賞)
  テイエムオーシャン(、98、桜花賞、秋華賞、阪神3歳牝馬S)


 体調に左右される面が大きかったと思えるダンシングブレーヴ直仔の優れた産駒は90年生まれに集中している。それを踏襲したのでもないだろうが、コマンダーインチーフは97年生まれから2頭のG1勝ち馬を出し、ホワイトマズル産駒のG1勝ち馬2頭は活躍時期に大きなズレはあるものの、ともに99年生まれ。稼げるときに稼げるだけ稼いでしまおうというのがダンシングブレーヴ系の流儀のようで、キングヘイローはカワカミプリンセスのほかにこの世代からシンザン記念のゴウゴウキリシマを出した。メイショウサムソンが同い年なのも……、ま、これは偶然かもしれない。大レースで健闘と惜敗を重ねた父のじれったさとは無縁の娘は、連勝が止まるまでは狙い続けるのが正解だろう。母はシアトルスルー×セクレタリアトの米三冠馬配合。これはデビューからベルモントSまで(休みがちながら)7連勝した92年の米年度代表馬エーピーインディと同じ配合。血統表2代目の並びは米G3に2勝している祖母を含め、4頭合計でG1・19勝、その他重賞8勝という豪華なもの。ヘイルトゥリーズン4×5のインブリードを持ち、曾祖母の父キートゥザミントからリボー血脈を取り込む配合も底力に溢れている。

 表には収め切れなかったが、ダンシングブレーヴ牝馬はさまざまな系統の種牡馬との配合を成功させていることも特長のひとつ。ミスタープロスペクター系との組み合わせでは、仏1000ギニーのゼンダ(ゴーンウエスト系ザミンダーが父)とスイープトウショウがいる。前走で1番人気を裏切ったこともあって今回は若い力に押され気味だが、天皇賞(秋)は全くの平均ペースでなし崩しに脚を使ってしまった。父のエンドスウィープはフォーティナイナー系なので、ときどきわけの分からない負け方をするのもあり得ることだ。祖母のサマンサトウショウは5歳の6月に初めて重賞に勝ち、そして秋にはマイルチャンピオンシップで3着に追い込む健闘を見せた晩成型。そう簡単に底が割れる牝系でもない。

 こうやって他の血脈に気を取られていると、それをあざ笑うかのように快走するサンデーサイレンス。天皇賞(秋)もそうでしたね。十分に注意は払っておきたい。そうはいっても、今回も直仔が4頭、孫は父系母系合わせて6頭もいる。どれをとるかが難しい。挙げるとすれば牝系の質で▲フサイチパンドラ。母は去る10月18日に世を去った名馬エルグランセニョールの半妹。他にも仏の天才2歳馬ザールからBCマイルのドームドライヴァーまで名馬を続々と送り出す名門牝系だ。サンデーサイレンス×ヌレエフの配合は01年の勝ち馬トゥザヴィクトリーと同じ。祖母の父バックパサーも、SSとの配合で効果を上るケースが多い。

 人気で勝つのはSS、穴を開けるのもSSという傾向の特に強いレースだが、時々それに反発を見せているのが欧州系ノーザンダンサー血統。デインヒル産駒のファインモーションやフサイチコンコルド産駒のオースミハルカがそれに該当する。ヤマトマリオンは今年メイショウサムソンを送って大復活を遂げたオペラハウス産駒。母の父は98、99年連覇のメジロドーベルの父系祖父。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2006.11.12
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