2006高松宮記念


華麗なる一族の残照

 前哨戦の勝ち馬はオーシャンSがネイティヴハート8歳、阪急杯ブルーショットガン7歳、シルクロードSタマモホットプレイ5歳はともかく、淀短距離Sギャラントアロー6歳、ダートの根岸SとガーネットSはリミットレスビッド7歳と平均年齢の高さが目をひく。昨年のCBC賞まで範囲を広げてようやく現4歳シンボリグランの名前が出てくる。重賞での高齢馬の活躍は短距離に限ったことではないが、この分野ではニホンピロウイナー、サクラバクシンオーに続く専門的短距離血統が成長途上であることと、輸入競走馬の質が相対的に低下していることが背景にあり、しかもそれと別にこのカテゴリーを99年生まれがほぼ独占してきたという事情も見逃せない。デュランダル、サニングデール、アドマイヤマックスの3頭をはじめ、過去3年のこのレースとスプリンターズSの3着以内を占めたのは、99年生まれが延べ13回。18分の13という圧倒的な占有率である。

 これら両レースでは過去7歳馬が勝った例はない(旧年齢表記ならあるが)。しかし、ブリーダーズCスプリントでは93年のカードマニア、97年のエルムハーストと7歳馬が2度優勝している。世界の最高峰で起こることなら、日本で起こってもこれは驚けない。そこでには7歳代表のブルーショットガンを抜擢してみた。父のサクラバクシンオーはスプリンターズSが現在の地位を与えられてから連覇を果たした唯一の存在で、産駒ショウナンカンプは02年のこのレースに勝った。テスコボーイのメールラインを伝える貴重な存在であると同時に、常時種牡馬ランキングの上位を占める実力派でもある。母の父スーパークリークは菊花賞のほか天皇賞春秋連覇を果たした名ステイヤーだが、種牡馬としては失敗。しかし、ショウナンカンプの母の父がマルゼンスキーだったように、サクラバクシンオーに相性の良いニジンスキーの血を伝えるほか、英仏独伊のさまざまな欧州血脈を持っていた点が7歳になって初めて重賞に勝つような一種の奥行きを与えていたともいえるだろう。だいたい名スプリンターというのは血統表のどこかに謎を抱えていることが多く、この場合はスーパークリークがその役割を担っていると考えられる。牝系は下に示したように、マイリーに発するいわゆる“華麗なる一族”。4代母のイットーをはじめ、ハギノトップレディ、ハギノカムイオーと2代3頭が高松宮杯に勝っている。当時は2000mの準G1ともいうべき性格のレースで、名前と競馬場以外に共通点はないように思えるが、旧8大競走には少し足りない(とか向いていない)才能をすくい上げてそれ相応のタイトルを授けるという点では今も昔も変わりがない。ダイイチルビーの大活躍を最後に大レースからは遠ざかっていたこの一族も、マイネルセレクトの出現で息を吹き返し、同時に活躍の場を短距離に移した。ここを勝てば名門ファミリーの完全復活となる。

マイリーGB(牝、1953年生) ……1957年輸入
  キューピット(牝、1957) ……阪神牝馬特別
  ヤマピット(牝、1964) ……優駿牝馬、デイリー杯3歳S、
  阪神4歳牝特、大阪杯
  ミスマルミチ(牝、1965)  
  イットー(牝、1971) ……高松宮杯、スワンS
  ハギノトップレディ(牝、1977) ……桜花賞、エリザベス女王
    杯、高松宮杯、京都牝馬特別
  ダイイチルビー(牝、1987) ……安田記念-G1、スプ
    リンターズS-G1、京王
    杯スプリングC-G2、京
    都牝馬特別-G3
  ウメノアスコット(牝、1989)  
    マイネルセレクト(牡、1999) ……JBCスプリン
    ト-G1、東京盃-G2、シリ
    ウスS-G3、ガーネット
    S-G3
  ハギノカムイオー(牡、1979) ……宝塚記念、高松宮杯、ス
    プリングS、京都新聞杯、ス
    ワンS、神戸新聞杯
  アイランドオリーブ(牝、1984)  
  オギトゥインクル(牝、1988)  
  オギブルービーナス(牝、1993)  
  ブルーショットガン(牡、1999) ……阪急杯-G3
  ニッポーキング(牡、1973) ……セントライト記念、クモハタ
  記念、京王杯スプリングH、安田
  記念
  シルクテンザンオー(牡、1979) ……シンザン記念

 リミットレスビッドはデュランダルやアドマイヤマックスと同じ99年生まれのサンデーサイレンス×ノーザンテースト。SS短距離仕様の先駆けとして00年のこのレースで2着したディヴァインライトも同じくSS×NTで、母の父としてのノーザンテーストはほかにもフラワーパークや02年2着のアドマイヤコジーンを出した実績があり、特にこのレースで信頼性が高い配合といっていい。全兄のフサイチゼノンやアグネスゴールドが早い時期から活躍してクラシック路線に乗ったのとは対照的な軌跡を辿っているが、そういった違いがあるからこそ、全兄の手が届かなかった大レース勝ちに至る可能性も残されているのではないか。牝系はなかなかの名門で、3代母の孫にケンタッキーオークスなどG13勝のキーパーヒル、4代母の子に名種牡馬ファピアノ、孫にベルモントSのコメンダブルがいて、底力も十分備えている。

 ▲コパノフウジンはストームキャット系の隠れた特徴である惜敗癖に悩まされているが、今年のスプリント戦線で最も安定して強い内容を示してもいる。01年に日本で単年度供用された父はダートでもサンライズバッカスを出していて、ストームキャット系が根付きにくい日本では健闘の部類。英オークス馬シンティレートにブラッシンググルーム、スキャンと配合された母も良血で、父ヘネシー×母の父ミスタープロスペクター直仔の組み合わせでは父の代表産駒の一頭でもあるハーモニーロッジ(G1バレリーナH)が出ており、昨年の仏2冠馬シャマーダルをはじめ、ストームキャット系とミスタープロスペクター系の組み合わせによる成功例は多い。勝てば世界の主流であるストームキャット直系の日本初のG1勝ちとなる。

 ラインクラフトは祖母がダイナシュート、プリサイスマシーンはグローバルダイナと祖母の代に80年代のノーザンテーストの名牝が隠れているのが今回の特徴のひとつだが、オレハマッテルゼは祖母がダイナカール。実績のあるサンデーサイレンス×ノーザンテーストの配合だけでなく、ここはノーザンテーストが一世代退いたバリエーションにも注意を払っておきたい。オークス馬ダイナカールの子孫はエアグルーヴ〜アドマイヤグルーヴ母娘が有名だが、こちらも全姉エガオヲミセテがマイラーズCなど重賞2勝を挙げエリザベス女王杯もあわやの3着。それに続く位置にいるのは確か。

 逆にサンデーサイレンスが祖父の代にあるのがタマモホットプレイ。3代母の孫にサッカーボーイがいるロイヤルサッシュ系で、ノーザンテースト×ディクタスの母はサッカーボーイをさかさまにしたパターン。父フジキセキの産駒は1月末から4週連続重賞勝ちを果たしており、その好調の集大成がカネヒキリのドバイワールドC挑戦。吉報が届くようなら、こちらも迷わず買いだ。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2006.3.26
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