2005宝塚記念


タフガイは踊る

 いきなり手前味噌で恐縮だが、合同フリーハンデの特別企画として、1970年から昨年までのレーティング上位馬約200頭をズラッと並べた「オールタイムベスト」をホームページ上で近日中に公開することになった(こちらにアップしてあります)。厳密にいうと1970〜1985年度は山野浩一氏の個人ハンデ、1986年度以降、そこにサラブレッド血統センターとケイバブックが加わって「合同」フリーハンデとなる。時代の流れや国際化の大波を浴びた競馬そのものの変容を受けて、レーティングの基準も手法も変化を遂げているので、勢い大部分を近い年の活躍馬が占めることになり、いわゆる最強馬ランキングとは感覚的に大きな隔たりがあるかもしれない。しかし、できればそのあたりのギャップも楽しんでいただければと思っております。

 さて、そこで堂々トップタイにランクされたのがタップダンスシチーで、これは一昨年のジャパンCの大差勝ちが効いている。フリーハンデのレーティングはその馬の最大瞬間風速を記録するようなものなので、それだけのパフォーマンスをつねに期待するわけにもいかないが、その翌年に宝塚記念を楽勝し、逆境の有馬記念でも2着に踏ん張った事実は、ジャパンCで得た非現実的とさえいえるレーティングにリアリティを与えている。およそリボー系の大物には、そういった火事場の馬鹿力的なパフォーマンスを発揮する特異な能力が備わっている場合が多く、同時にそれがいつ発揮できるか分からないムラな面もある。02年の有馬記念で2着したあたりまでは、そういったリボー系の穴馬らしい性格を見せていたが、今から考えるとあれもその後に続く快進撃の予兆に過ぎなかったわけだ。
 父のプレザントタップは、3歳時、重賞未勝利でケンタッキーダービーに挑んで人気薄ながらアンブライドルドの3着に入り、BCターフで惨敗して、暮れのマリブSで重賞初勝利。4歳時はBCスプリントでだけ2着と好走し、最も充実していた5歳時はG1・2勝、G3・2勝を挙げて米古馬チャンピオンに選ばれた。それはそれでめでたしめでたしというべきだが、最後の大一番、BCクラシックでは僅差で1番人気を譲ったエーピーインディを捉え切れないでいる。それが32戦目だった。息子は32戦目があのジャパンCだから、ひょっとすると父もその後にとてつもなく強くなったのかもしれないと不毛の想像をしてみたりする。
 母はケンタッキーダービーを逃げ切った名牝ウィニングカラーズの半姉で、その父はノーザンダンサー。三冠牝馬クリスエヴァートや名馬チーフズクラウンの出る名門牝系だ。現役時はフランスで1勝し、後に米国に渡ってステークス2着がある。その程度の成績でも繁殖馬としての期待が大きくて当然の良血だけに、当初からずっとトップクラスの種牡馬が配合されたが、産駒はどれも走らない。カロの娘のカレッツァがやっとG3・2着まで行ったが、重賞勝ち馬は19歳の時の産駒タップダンスシチーが初めてだった。どうもこの牝系にはそういう当たり外れの落差が大きい面があるようで、祖母のオールレインボーズも14頭の産駒のうち重賞勝ちはウィニングカラーズだけで、前述のオールダンスと英G3・2着のシャリークがいるほかはどれも極めて凡庸な成績に終わっている。そういったエネルギーがタップダンスシチーに凝縮されているとはいわないにしても、母の最大瞬間風速を切り取って名門牝系の名血の威力を現実のものとして示したのは事実。
 8歳でのG1勝ちは、安田記念のトロットサンダー、ブラックホーク、川崎記念のアブクマポーロ、香港ヴァーズのステイゴールド、天皇賞(秋)のオフサイドトラップ、JBCスプリントのサウスヴィグラスらの7歳を超える日本記録で、同じ父系のセテワヨは8歳でG1ガルフストリームパークBCHに勝ち、父がリボー血脈を持ち母がノーザンダンサー系のジョンズコールは9歳でG1に2勝した。ほかにも欧州ではバハミアンパイラット(9歳でG1ナンソープS)、ヤヴァナズペース(10歳でG1クレディスイスPBポカル)の例があり……、あ、一番の大物がいた、81年に6歳で米年度代表馬、翌年のジャパンCに招かれて惨敗したときにはそのまま萎んでいくのかと思われながら、9歳で大復活を遂げG1・4勝、賞金も生涯最高額を稼いで年度代表馬に返り咲いた偉大なジョンヘンリーですな。ジョンヘンリーになくてタップダンスシチーにあるのが金玉で、そのあたり微妙に諸般の事情は違ってくるが、ここはジョンヘンリーを超えろと声援を送っておきたい。

 この春の天皇賞は1、2、4着がミスタープロスペクターの血を引いていた。米国ではアフリートの孫アフリートアレックスがプリークネスSとベルモントSを圧勝。第一関門のケンタッキーダービーもうまく乗っていれば27年ぶりの三冠馬誕生となっていた。英ダービー馬モティヴェーターの母の父はゴーンウェストで、仏2冠馬シャマーダルはマキアヴェリアンの娘の子、仏2冠牝馬ディヴァインプロポーションズはキングマンボ産駒。これほどミスタープロスペクター血脈が長距離戦に進出したケースは過去に例を見ない。仏ダービーは今年から距離を2100mに短縮しているので、クラシックの方からミスタープロスペクターに近寄ってきているという見方もできるが、その勢力はもう短距離の領域に閉じ込めておけないものになった。スイープトウショウの父エンドスウィープにもそういったミスタープロスペクター系の開拓力といったものが感じられる。祖母の父トウショウボーイは77年のこのレースの勝ち馬で、母の父の産駒ダンシングサーパスは94年に3着。何より破壊力を感じさせる血統だ。ちなみにミスタープロスペクター系×ノーザンダンサー系×ナスルーラ系という配合の骨組みは、ディヴァインプロポーションズと共通している。

 ここ数年のこのレースでは、なぜかサンデーサイレンス直仔の不振が続いているので、もう少し非SS系で攻めてみたい。▲ビッグゴールドはオークス馬チョウカイキャロルと同じブライアンズタイム×ミスタープロスペクター。ロベルトの血はミスタープロスペクターの適応距離伸張、底力増強といった点で極めて有効で、現にアフリートアレックスもこのパターンに当てはまる。3月から始まった快進撃は、まだ落ち込む兆候を示していない。こういうときのブライアンズタイムは買い。

 ゼンノロブロイも母の父からミスタープロスペクターが入る。マイニングはミスタープロスペクター×バックパサーで、これはミスワキと同じ。ということはサイレンススズカと血統表の16分の11が同じ。その残りも全部が米国血脈で、欧州色の強い牝馬との組み合わせが多いSS後継種牡馬群とは一線を画す異色の配合。種牡馬となってからが面白い存在だと思うが、その前に欧州遠征という大仕事が控えているな。

 トウショウナイトは父がミスタープロスペクター系で、母の父がリボー系。距離が長ければ長いほど良いというわけではない反面、重い良血ばかりを集めているだけに機動力に欠ける。そこが最後の詰めに出ているような気がするが、まだ成長の余地が大きい4歳馬。道悪になれば、より可能性は高まる。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2005.6.26
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