2005秋華賞


日本でも金鉱を掘り当てた49er

 去る10日に盛岡競馬場で行われた南部杯は逃げたユートピアがシーキングザダイヤの追撃を寄せ付けずに1¼馬身差で快勝した。2歳、3歳、4歳、5歳と毎年連続してのG1勝ちはメジロドーベル、アドマイヤドンに続く史上3頭目の快挙となる。これは基本的にずば抜けた能力を備えていると同時に、早熟で、成長力があり、健康でタフで、好機を逃さぬ勝負強さ、そしてときどきは無理せず手を抜く賢さといった多様な資質が要求されるわけで、容易に達成され得る記録ではない。だって、ディープインパクトが今からどれだけ頑張ってもさすがにこれは真似できないのである。それはさておき、アドマイヤドンはティンバーカントリー産駒、ユートピアはフォーティナイナー産駒で、ともにミスタープロスペクター系。早熟さと力任せのスピードを武器としたこの系統は、当初は繊細な日本の競馬には合わないといわれたものだが、そこは世界のメジャー血統、日本市場開拓のためにあの手この手を尽くした結果…というより日本の競馬の方が力の競馬にシフトしてきてミスタープロスペクター系を受け入れるようになったと見る方が妥当かもしれない。特に今年のG1戦線では、このミスタープロスペクター系のあらゆる分野への進出がはっきりとし始めた。これまでのG1勝ち馬13頭を父系で分けると、サンデーサイレンス(5頭)、ブライアンズタイム(1)、タイキシャトル(1)のヘイルトゥリーズン系が7頭、そして、フォーティナイナー(1)、その直仔エンドスウィープ(2)、エルモキシー(1)でミスタープロスペクター系が4頭、ノーザンダンサー系1頭、その他が1頭だった。母の父を見ると、豪州血統のサイレントウィットネスを別にすると、ノーザンダンサー系(8)、ミスタープロスペクター系(3)、サンデーサイレンス(1)となる。単純にいってこの3大血脈の順列組み合わせでやりくりされるようになり、中でも天皇賞馬スズカマンボ(母の父キングマンボ)、安田記念のアサクサデンエン(母の父マキアヴェリアン)、宝塚記念のスイープトウショウ(父エンドスウィープ)といった古馬チャンピオン戦のカテゴリーへのミスタープロスペクター系の勢力拡大が目をひく。

 3歳戦でこの勢いを担うのがラインクラフトなのはいうまでもない。父のエンドスウィープは、自身のベストパフォーマンスが6FのカナダローカルG1ハイランダーSの同着優勝で最長勝ち距離も7Fのスプリンター。代表産駒もスウェプトオーヴァーボード、トリッピ、サウスヴィグラスと短距離馬ばかりだった。レイズアネイティヴに先祖帰りしたかと思える馬体からも当然といえば当然なのだが、しかし、日本に輸入されてからの産駒は、スイープトウショウが口火を切って、いい意味でその先入観を裏切る成功を示している。この変貌はもちろん、米国フロリダ供用時と日本に来てからの配合牝馬の質の違いが最大の理由だろうが、それ以上にフォーティナイナー系全体の勢いがエンドスウィープの新展開を後押ししている印象も強い。種牡馬としてのフォーティナイナー産駒は、最強クラスといえるコロナドズクエストやエディターズノートを上回る勢いで、ディストーティッドヒューモアやローアといったG3〜G2級が大成功している。フォーティナイナーの、競走馬の父として以上に種牡馬の父として成功するパワーはかつてのノーザンダンサー、今のストームキャットやデインヒル、日本でいえばサンデーサイレンスに匹敵する特別な才能といえる。エンドスウィープは日本に3世代の産駒を残しただけで世を去ったが、その3世代だけでも、まだまだ活躍の場を広げていきそうだ。一方、母はサンデーサイレンス×ノーザンテーストの配合。G1に限ると出脚の鈍かったこの配合も、ここにきてデュランダル、ダイワメジャー、アドマイヤマックスとそれまでの壁を越えるものが出てきた。ファンシミンに遡る牝系も、どうしても破れなかったG1の壁を今年になってこの馬とその母の全弟アドマイヤマックスが突破した。今が旬の活力ともいうべきものが凝縮されている。

 エアメサイアは本命馬の母と同じサンデーサイレンス×ノーザンテーストの配合。桜花賞3着、オークス2着の母は、7年前のこのレースで1番人気で3着に敗れたが、ファンシミン系に悲願のG1をもたらしたサンデーサイレンスの力があれば、こちらもあとひと押しが利くようになって不思議ない。実際、母の半弟エアシャカールはサンデーサイレンス産駒であり、皐月賞と菊花賞に勝った。ただ、この系統に共通の育ちの良さというのか、どうもがむしゃらに勝つことを求めていないのではないかという面も否定できない。母はG1に勝たなくても名牝と呼ばれている。それを娘も知っているとすると、あえて針がレッドゾーンまで振り切れるような危険は冒さない可能性も残るわけだ。

 ▲モンローブロンドはサンデーサイレンス、ミスタープロスペクター、ノーザンダンサーの組み合わせによるバリエーションの中でも高級感ということでは最右翼。2頭の祖母は2冠牝馬ベガと、ヌレエフ全盛期のマイルの名牝ソニックレディ。母の父マキアヴェリアンはミスタープロスペクター系でも最も融通性に富んだ大種牡馬で、母の父としては今年、安田記念のアサクサデンエン、仏2冠馬シャマーダルを出した。アドマイヤベガの優れた決め手に貢献したトニービンの血は、ヌレエフとの組み合わせでダービー馬ジャングルポケットを送った。ヘイロー3×4、ノーザンダンサー4×4、ナタルマ5×5×5の凝った配合で、繁殖牝馬としてより大きなポテンシャルを持っているのだろうが、その豪華絢爛たる血には大駆けの魅力あり。

 コスモマーベラスはカネヒキリの出現でめでたくG1サイアーとなったフジキセキの産駒。フジキセキは曾祖母の父にインリアリティが入っていて、カネヒキリの場合は母系のミスタープロスペクターがそれと結び付くことでG1レベルの底力を得ることができたと見ることができるが、もともとフジキセキは牝馬のアベレージが高い種牡馬でもある。母の父ニジンスキーのサンデーサイレンス血脈との相性の良さは定評のあるところだし、祖母のシングルブレードは米G1ガゼルH勝ちの名牝。父の母の父がルファビュルー、曾祖母の父がステージドアジョニーと、今どき珍しくセントサイモン系のスタミナ血脈が2本入っているだけに、秋を迎えての成長度は大きい。前走よりもう一段階上のパフォーマンスを期待してもいいだろう。

 G17勝のテイエムオペラオーを筆頭に、南部杯のニホンピロジュピタ、目黒記念のオペラシチー、ジャパンダートダービー2着のオペラハットなど、オペラハウス産駒の活躍馬には母系に軽快なナスルーラ血脈が入っていたという共通項がある。エリモファイナルはその鉄則からは外れるが、母は京都金杯2着の活躍馬。その父ドクターデヴィアスは今年、愛セントレジャーのコーリアーヒル、オペラ賞のキネアドと2頭のG1勝ち馬を送り、種牡馬としてようやく英ダービー馬らしい実績を上げたが、母の父としてはそれより前にオークス馬ダイワエルシエーロを出して成功している。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2005.10.16
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