昨年の2歳新種牡馬ランキングは順当にフレンチデピュティがトップを占めたが、それ以上に目をひいたのは、2位マイネルラヴ、5位キングヘイロー、6位アグネスワールドといった90年代末から00年にかけてのスプリント路線組の健闘だった。マイネルラヴは98年スプリンターズS、キングヘイローは99年のスプリンターズSで3着し00年の高松宮記念を勝った。アグネスワールドは99年、00年のスプリンターズSでいずれも3着止まりだが、こちらは99年の仏G1アベイドロンシャン賞、00年の英G1ジュライCと国際級の勲章を持っている。時期の変更はあったにせよ、高松宮記念とスプリンターズSというチャンピオン戦が春秋で一対となって今回で10年目。歴史の浅いこの路線でも、早くも競走→生産→競走というサイクルの一翼を担って機能し始めたのは、短距離戦の種牡馬選定レースとしての信頼性の高さを示すものだとはいえる。
これら昨年のスプリント組新種牡馬群よりひと足先に、タイキシャトルは97年のスプリンターズSに勝った。どのレースでも強かったタイキシャトルがとりわけ怪物じみた強さを見せたのがそのレースで、走法的にはいわゆる典型的なスプリンターの類型には収まらないが、力とスピードが違えば押し切ってしまえるという競馬の「陸上競技」としてのエッセンスを示す内容だったと思う。考えてみれば、ダンチヒ、レイズアネイティヴ、ミスタープロスペクター、ストームキャットといった現代の主流血脈の存在意義はどれもそういった短距離走者としての高い身体能力を伝えることを核としており、距離への対応や成長力といった味付けを他の血脈に頼る構図になっている。いい方を変えれば、強力なエンジン製造者としての独占的な力が、それらを世界の主流の位置にとどめているということになる。しかも、それらはノーザンダンサーやネイティヴダンサーという大きな流れの上に現れながら、その流れに沿った方向性を持っているわけでもない。いわば、突然変異的で鬼っ子的に現れていて、タイキシャトルの場合も、驚異の2歳王者デヴィルズバッグとは別の個性を持ち、しかもほかのデヴィルズバッグ産駒からは突出した能力を得た。まだ日本国内での中規模な成功に限られるとはいえ、タイキシャトルの種牡馬としての可能性はあのスプリンターズSのパフォーマンスに凝縮されていたのかもしれない。◎メイショウボーラーは父とまた少し違う資質を感じさせる。それも父の器の大きさといえるかもしれないが、こちらは母の父としてストームキャットの血を抱えている点が大きい。この馬の走法が何かにそっくりだと思っていたのだが、フェブラリーSを逃げ切ったのを見てやっと思い出した。ストームキャットそのものだ。ストームキャットの映像はインターネットで全米サラブレッド競馬協会=NTRAのウエブサイト(http://www.ntra.com)から、「ブリーダーズC」→「タイムカプセル」とリンクをたどって「85年」のページで「ジュヴェナイル」まで行けば見ることができるので、興味のある方は試して下さい。2着に負けたレースですけどね。で、タイキシャトルがヘイルトゥリーズン系特有の奥ゆかしさを発揮してストームキャットという強力エンジンを立てたことがこの配合の成功の第一の理由。ここではノーザンダンサーの軽い近交が生じるのと、父の持つニジンスキーとストームキャットの祖母であるクリムゾンセイントの組み合わせで名マイラー・ロイヤルアカデミーが生まれているというそれぞれの血脈の和合性の高さも効果を上げている。祖母がスタミナ豊富な異系のアルゼンチン血統である点は、タイキシャトルが持つアルゼンチンの偉大なフォルリの血に呼応しつつ、全体に濃い北米血脈を活性化しているように思える。スプリンターズS勝ち馬の産駒がこのレースに勝てば、サクラバクシンオー〜ショウナンカンプ以来2例目となる。 タイキシャトルのストームキャット化がメイショウボーラーなら、欧州型にしたのが○ウインクリューガーとなる。この馬も母の父がノーザンダンサー系ビーマイゲストで、タイキシャトル産駒は、ここに出てきた3頭の全て、そして重賞勝ち馬の全てがノーザンダンサーのインブリードを持っている。ヘイロー的な繊細さに流れるのをノーザンダンサー的なマッチョに引き戻すことで成功するということなのかもしれない。それはさておき、こちらは豪華な名門牝系の底力が魅力。曾祖母は英女王陛下の服色で英1000ギニー、仏オークスに勝った名牝で、このファミリーからは名馬ナシュワンから今年のクラシックの主役ディープインパクトまで途切れることなく大物が出る。ステイヤー色の強い母だけにスピードだけの争いでは分が悪いが、パワーと底力を要求される大レースならばこそ、台頭の目がある。 ▲キーンランドスワンは英G1サセックスS勝ちのマイラー・ディスタントヴュー産駒で、大レース向きとして定評のあるMr.プロスペクター×ロベルトの組み合わせ。この配合はナシュアのインブリードが生じるので、Mr.プロスペクター血脈に欠けがちな柔軟性を補う効果がある。しかもディスタントヴュー×ロベルトからは当時無敵のジャイアンツコーズウェイを英G1クイーンエリザベス2世Sで負かしたオブザーヴァトリーが出ていて、大物喰いの資格は十分。祖母は米G1サンタバーバラHに勝った芝の名牝で、牝系の質でも見劣りしない。 昨年の後半から母の父サンデーサイレンスの重賞勝ち馬が凄い勢いで増えてきていて、中山牝馬Sをウイングレット、フィリーズレビューをラインクラフトが立て続けに勝ったと思ったら、先週は大ベテラン・マイソールサウンドが阪神大賞典で2つ目の国際G2勝ちを果たした。この流れが今週も途切れないとすれば△プレシャスカフェが最も怖い。自身の適性にかなった舞台でのヌレイエフ系の強さも定評のあるところ。 カルストンライトオは「ウォーニング生涯1G1勝ち」の説によれば、もう1回勝っちゃったので今回はどうかということになるが、母系からブラッシンググルームが入っている大物は大抵息の長い活躍ができるので、軽視もできない。 キョウワハピネスの母は米年度代表馬レディーズシークレットにMr.プロスペクターが配合された米国版夢の配合。今なら日本人が70万ドルで買うなんてとても無理だったろう。父も英ダービー馬。大穴なら。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2005.3.27
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