これによって大まかな現在の世界競馬の勢力分布が見て取れる。トップはお約束のフランス競馬最後の砦である凱旋門賞勝ち馬ハリケーンラン。3歳ではそのハリケーンランが突出したが、それと、英/UAEのシャマーダル、米国のアフリートアレックス、そしてわがディープインパクトの3頭との間に、そう大きな隔たりがあるとも思えない。そして、2位のゴーストザッパーなど上位にシーズンを全うしなかった引退馬が目立ち、その影響もあってブリーダーズC勝ち馬はクラシックもターフも例年に比べれば落ち着いたレーティングとなった。この2点が今年の特徴。レーティングというのは、たとえていえばクロスワードパズルのように、相手関係、着差、斤量差といったタテのカギと、レースが並んだ時系列の流れというヨコのカギを合わせることによって導かれるもので、1頭に恣意的に高いレートをつけることはできない。したがって、個々の馬の数値に高い低いと文句を付けても仕方がないが、国際間で数字の摺り合わせをする以上はある程度の無理や矛盾の生じる余地が残っているのも否定できないので、ディープインパクトはもっと上だろうとか、バゴは本来の力を取り戻せばハリケーンランよりは強いかもしれないと考えることは自由なのである。
〈ジャパンC〉
ちなみにバゴの昨年のレーティングは凱旋門賞勝ちで126。それが今年のハリケーンランと比較してどうかはともかく、バゴ自身はまだ昨年並みの能力を示しておらず、4歳なら上昇の余地があると見ることはできる。スパッと切れる瞬発力のないナシュワン産駒らしい大味な競馬をするケースが多いが、牝系はマキアヴェリアンやイグジットトゥノーウェアなど、この勝負服の多くの名馬を送った名門クドフォリー。母の父は現役時バゴと同じ服色で走って大種牡馬となり、母の父としても大成功してこのレースでは娘の仔ジャングルポケットが勝った。シングスピールやエルコンドルパサーに通じる豪華で隙のない配合の良血は侮るべからずで、速過ぎず遅すぎずの緩みのないペースで伸びのびと走れれば上位争いできそうだ。○。
国際ランキングと同じ基準のJPNサラブレッドランキングのレーティングでいうと、◎スズカマンボは天皇賞勝ちでE113。ここに入ると明らかに見劣りする数字だが、スズカマンボがEよりL、3200mより2400mにより適性が高いとすればどうだろう。上位も手の届く範囲に入ってくる。父のサンデーサイレンスはこのレースこそスペシャルウィークとゼンノロブロイの2勝だが、ダービー、オークスを加えた東京2400mの大レースでの勝ち鞍は11を数える。母は名門ネイティヴパートナー系にノーザンダンサー3×4、レイズアネイティヴ3×4という現代的なデザインが施された中距離配合。リボー系グロースタークのインブリード(4×5)はダービー馬タニノギムレットにも通じる。
▲には同じ父の産駒ゼンノロブロイ。そして他では、シングスピール、テイエムオペラオーとサドラーズウェルズ系にとって日本では特異な得意レースといえる面もあるので(エリシオやファルブラヴの父フェアリーキングはサドラーズウェルズの全弟)、その血をひく△キングスドラマ、ヘヴンリーロマンスには注意を払っておきたい。
〈JCダート〉
昨年のワールド・サラブレッド・レースホース・ランキング(WTRR)では、BCクラシックのゴーストザッパーが130でJCダートのタイムパラドックスが115。差は大きいが、昨年は同じ115のアドマイヤドンとの2頭がWTRRに掲載されていて、115以上のレートが必要な狭き門を安定して複数がくぐれるようになったのは、日本のダート競馬が一人前に近づいたことを示す。また、世界に近づきながら手が届かないのはドバイワールドCの毎年の結果で痛感させられる事実でもある。G1に手が届きそうで前走それに失敗した◎サカラートは、今回G1請負人デットーリが鞍上。今年の恐らく実質的な世界最強3歳馬はプリークネスSとベルモントSを制した米2冠馬アフリートアレックスで、これがアフリートの孫。その出現は従来のアフリート系のスケールの枠を突き崩した。そしてラインクラフトはサンデーサイレンス牝馬にミスタープロスペクター系種牡馬の配合。復活した皐月賞馬ダイワメジャーと同じ“スカーレット”一族でもあり、今年のトピックスを詰め込んだ血統といえよう。
○にヒシアトラス。G3もめったに勝てない馬だが、ティンバーカントリー×アリダーの配合には三年寝太郎型の破壊力が感じられてならない。▲は前走が負けて強しのカネヒキリ。寸の詰まったフジキセキのマイラー体形に出ていないので、この距離でも大丈夫だろう。△には本年度最優秀母の父が確定的なアルザオの血をひくタイムパラドックス。
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