2004高松宮記念


よみがえるトウショウボーイ

 別路線からの参入や新鋭の台頭でめまぐるしく勢力図が書き替えられるマイル路線に対して、比較的落ち着いているのがスプリント戦線で、強い馬が1年ちょっとは主役の座を占め、それがピークを過ぎると次世代に平和的に王座を譲るという形が続いている。これはやっぱり最も短い距離カテゴリーで、マイルや2000mのようにつねに隣接分野からの侵攻にさらされているわけではないからということがひとつ。また、条件級では芝1200mは最大の激戦区となっても、オープンにまで上がる能力があるなら、マイルやあるいはそれ以上の距離で可能性を試されるケースが多いので、オープンでスプリント専門に固定されるのは中長距離馬がその路線に定着するのよりどうしても遅い時期になるせいもある。試しに昨年のJPNクラシフィケーションを見てみると、古馬のS(スプリント)コラムのトップはデュランダルの117で、以下ビリーヴ、ショウナンカンプ、サニングデールと続いて大きな切れ目もないが、3歳馬はシーイズトウショウが106(セックスアローワンスの4ポイントを加えると110)がトップで、ギャラントアロー、ワンダフルデイズが106で続く。古馬に比べると層の薄さが目立つというより、まだ“層”そのものが形成されていない状態といえる。中長距離では、すでに古馬に対抗し得る戦力が揃っているのに……。そう考えるとスプリント戦線は案外競争の緩い分野であって、早熟なスプリンターというイメージと裏腹に、ベテランがゆっくり序列を築いてのんびりそれを維持していると捉えることもできる。過去の例を見ても、異分野からのナリタブライアンの挑戦を跳ね返す程度には堅固だが、同じ路線で下から急上昇してきたフラワーパークや突如大駆けしてみせたダイタクヤマトなどのケースでは機敏に対応できていない。

 そういうわけで、スプリントG1常連の既成勢力を土台に、それに食い込む可能性を秘めた新鋭を探すという(至極まっとうな)戦術が有効だ。スプリンターズSも含めた過去の例を振り返る。可能性1)若いこと……フラワーパーク、タイキシャトル、マイネルラヴ、ショウナンカンプ。可能性2)日本的血統……フラワーパーク、ダイタクヤマト、ショウナンカンプ。どうも曖昧で恣意的な基準で申し訳ないが、これにピッタリ収まるのがシーイズトウショウ。若くて、血統が日本的ということではメンバー中随一。父はスプリンターズS連覇の名馬で、その母は有馬記念のアンバーシャダイの全妹だが、サクラユタカオー×ノーザンテーストの配合がどれもマイラーとして成功しているだけに、クリアアンバーの持つブルリー3×3やギャラントマン血脈がよりスピード強化に働いたと見ることもできる。そのスプリント能力がスプリンターにしばしば見られるようなチャンスブレッド的で偶発的なものでなかったことは、産駒ショウナンカンプが一昨年のこのレースに勝って内国産最良のスプリンター種牡馬の地位を占めるようになったことでも分かる。母は桜花賞馬シスタートウショウの半妹で、ダンディルート2×3の強いインブリードを持つ。母の父トウショウフリートはパラダイスSに勝った活躍馬で、中山記念勝ち馬トウショウペガサスの血を伝える貴重な存在であり、それ以上に名牝ソシアルバターフライ3×3という特異なインブリードが種牡馬となった意義だったろう。サクラバクシンオーの父系はいうまでもなくテスコボーイ。ソシアルバターフライとテスコボーイが結び付くことで浮かび上がってくるのはトウショウボーイだ。テスコボーイのメールラインを伝える役割は今やもうトウショウボーイ系には望むべくもないが、替わってサクラユタカオーの活力を借りることによってトウショウボーイの再現を成功させたということになる。さらにトウショウボーイが再現できたことで、トウショウボーイの娘である伯母のシスタートウショウ像を見いだすこともできるし、トウショウボーイ×ダンディルートというお馴染みのトウショウ牧場配合にはエプソムCに勝ったサマンサトウショウもいて、こちらはその孫に今年の桜花賞候補スイープトウショウが現れている。実験的ともいえる強いインブリードを繰り返した母に、これも強いインブリードをまとめた父のスピードが乗ったこの配合には、やはり爆発的なスプリントによって得られるタイトルが一番似合うと思う。ちなみに、トウショウボーイではないが、ダイタクヤマトはテスコボーイ牝馬にダンディルートの孫のダイタクヘリオスという配合だった。

 同じ父のサクラタイリンは、母の父がサガスで、これはリュティエ直仔の凱旋門賞馬。凱旋門賞実質2連覇を果たしているが、2度目はレインボークエストを妨害したとされて2着に降着となった。種牡馬としてはBCクラシック大穴勝ちのアルカングを出しただけの一発屋といっていいが、それだけの底力を秘めた世界的スケールの一発屋であることも確か。本命馬と父が同じで母系からリュティエ(ダンディルートの父)も入っているという血統的行きがかり上の抜擢であって、サンデーサイレンスじゃあるまいし、そううまく上位独占などないと正直思うが、ショウナンカンプでも似たようなプロセスを経てきて突き抜けた。祖母はデビュー戦からステークス、G1スピナウェイS、G2アスタリタS、G1メートロンSと5連勝して牡馬相手のG1シャンペンSでも2着に食い込んだ米2歳女王。3歳春の実績もあるわけだし、勢いに乗れば手が付けられない強さを示す下地を父母両系から受け継いではいる。

 デュランダルは大外から追い込んでスプリンターズSをハナ差、マイルチャンピオンシップを3/4馬身差というギリギリの着差で勝ったので、中京コースが懸念されるのも分からなくはないが、ビリーヴ、ファインモーションという名牝を除いて考えれば、それぞれ短距離の追い込みとしてはまれに見る圧勝だった。今回はビリーヴ、ファインモーション級もいないし。しかも、全兄サイキョウサンデーは中日スポーツ賞4歳Sに勝っていて、全姉マルカサワヤカは中京芝1200mで〔1.2.1.1〕、全妹プリティプリンセスは中京芝1200mで新馬勝ちしている。母も芝での唯一の勝ち鞍が中京芝1200m。これで凡走しては親きょうだいに合わせる顔がないでしょう。

 サニングデールはイギリスでナンソープSやスプリントCあたりに勝っていても違和感のない血統。母がダルシャーン×ブラッシンググルームで、英・愛ダービー馬カヤージや英セントレジャーのミランが出る牝系なら底力や成長力も十分備えている。ウォーニング産駒には生涯のピークに一度だけG1を勝つか、コンスタントに走ってG3をコレクションするかという傾向があるので、すでにG3を3つ、G2ひとつ勝っていると微妙な部分もあるが、昨年秋のこの馬には珍しい深刻な不振はここで大きく飛躍するための助走だったのかもしれない。

 リキアイタイカンは冬場のとても走れそうにないという体つきを脱して、かなり良くなってきた。ひとつ年長のアフリート産駒スターリングローズでも、フェブラリーSであわや勝つかのシーン。まだ老け込むには早いし、大穴ならこれ。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2004.3.28
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