2004天皇賞・秋


余勢を駆るSS系DD派

 凱旋門賞が終わって、今週末のブリーダーズCも終わると北半球の最強クラスの競馬は一段落し、その後は何頭かが賞金の厚い日本や香港に向かう。ここまででほとんど終了した2000mのG1勝ち馬を下表に並べてみた。残るのはBCクラシックと、国内的にはこの天皇賞と、あとは香港Cの3つ。表にある通り、複数のG1に勝ったのはドバイワールドCとパシフィッククラシックのプレザントリーパーフェクトだけ。それ以外は全レースで勝ち馬が変わった。欧州の場合はマイル路線に向かったり、2400mに挑んだりということがあるが、それにしても主役不在でシーズンを通して散漫な印象が残った。そのひとつの原因に、種牡馬にスーパースターがいなくなりつつあるということがあるのではないか。下表の父の欄を見ると、ランドが祖国ドイツとシンガポール、サドラーズウェルズが香港と本拠地アイルランドで複数の勝ち馬を出しただけ。ヨーロッパではカーリアン、デインヒルが世を去り、大御所サドラーズウェルズもそろそろお年を召してきて、アメリカの大種牡馬ストームキャットは大体において種牡馬となって初めて投資に見合う価値が生まれるという面もある。それだけにプレザントリーパーフェクト=プレザントコロニー父仔のホームランは目立つが、この系統はときどきそういうことがあって計算外というか、大事にはされるが主流を担う期待がかけられるわけでもない。次の主流血脈は何かを模索している欧米の血統マーケットの混迷が、チャンピオン戦の集中する2000m域にそのまま映し出されているようにも見える。

日付 レース名
 勝ち馬 父
3/6サンタアニタHサザンイミッジ(ヘイローズイミッジ)
3/27ドバイワールドCプレザントリー
パーフェクト
(プレザントコロニー)
4/25クイーン
エリザベス乱「C
リヴァーダンサー(サドラーズウェルズ)
5/2ガネー賞エクシキュート(スワーヴダンサー)
5/16シンガポール
航空国際C
エパロ(ランド)
5/23タタソールズ
ゴールドC
パワーズコート(サドラーズウェルズ)
5/26共和国大統領賞アルティエリ(セルカーク)
6/16プリンスオブ
ウェールズS
ラクティ(ポーリッシュプレシデント)
7/3エクリプスSリフューズトゥベンド(サドラーズウェルズ)
7/3サバーバンHピースルールズ(ジュールズ)
7/10ハリウッド
ゴールドC
トータルインパクト(シュトゥーカ)
8/1バイエリシェス
ツフトレネン
インテンダント(ランド)
8/17インターナショナルSスラマニ(エルナンド)
8/21パシフィック
クラシック
プレザントリー
パーフェクト
(プレザントコロニー)
9/11愛チャンピオンSアザムール(ナイトシフト)
10/2ジョッキークラブ
ゴールドC
ファニーサイド(ディストーティッドヒューマー)
10/16英チャンピオンSハーフド(アルハース)
10/30ブリーダーズC
クラシック
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 日本はどうかというと、実は似たようなもので、近年のこのレースの結果にはそれが特によく表れている。95年から99年はトニービン、ブライアンズタイム、サンデーサイレンスの3大種牡馬による寡占が続いたが、これをテイエムオペラオーが崩し、次にはそれも外国産馬によって崩されるという状況。“次の主流血統”渇望の度合いはより深刻だ。今年の3歳世代からも3頭のクラシック馬を出してサンデーサイレンス産駒の勢いに陰りはないように見えるが、多くの有力馬を送り込んだ秋華賞と菊花賞で続けて馬券に絡めなかった事実は、サンデーサイレンス産駒の頂点の高さが、徐々に下がってきていることを示しているのかもしれない(まあ、ずるずる下がる一方ってことはないでしょうが)。そんな中での希望の光は昨年シンボリクリスエスに1 1/2馬身差まで迫ったツルマルボーイ。ちょっと前後するが、ツルマルボーイの活躍をきっかけとして、ダンスインザダーク産駒はザッツザプレンティが菊花賞で父にとって初のG1勝ちを達成し、今年の春にはツルマルボーイが安田記念で国際G1(事後認定)勝ち、夏にはJRHAセレクトセールの最高価格馬を出し、秋を迎えて先週はデルタブルースが父にとって2年連続の菊花賞を得た。家貧しくして孝子あらわるというほどサンデーサイレンス家が困窮しているわけはないが、しっかりした後継者の登場は心強いもの。サンデーサイレンス直仔がこの秋G1未勝利でも、ダンスインザダークの仔が勝てばサンデーサイレンス家(そんなのはないんですが)としてはまあいいかという流れで進んでいるとするならばにするのが妥当なところだろう。タップダンスシチーがおらず、ヒシミラクルが本調子にないなら、力の比較だけでも最上位だ。ところで、母のツルマルガールは去る12日に世を去った。サッカーボーイらしい溌剌とした決め脚が記憶に残る名牝だった(合掌)。

 ダンスインザダークに追いつけ追い越せの最有力候補は今のところアドマイヤベガだが、マーベラスサンデーも晩成型の活躍馬を送って注目に値する存在。骨太で力強いヴァイスリーガルの血がサンデーサイレンスにない部分を補う場合もあるだろう。○シルクフェイマスは馬体も気性もカーリアンの影響が濃いように見えるが、カーリアンのニジンスキー血脈を生かしているのが、ニジンスキーと同じくカナダの天才E.P.テイラーの手になるヴァイスリーガルの血と考えることもできる。マルゼンスキーの出る牝系として知られるクイルの血統はニジンスキーが入ることによって一躍グレードアップする面があり、祖母の父ロベルト、父系のヘイローによって底力に富むヘイルトゥリーズン4×4。昨年から続く成長のカーブは、まだまだ上向きだと考えていい。

 前哨戦である毎日王冠と京都大賞典は、本番よりも先に国際グレードの認定を受けてしまって、ともに国際G2、天皇賞はG外ということになっている。20年前のJRAグレード制導入時から潜在しているこの矛盾を指摘していたのは山野浩一氏だけで、ほかはお上のいうことなので何の検証もなく受け入れてきた。でも、外国調教馬を受け入れるレースの比率を上げていけば、JRAの自称グレードはレースレベルの基準に達したものから国際グレードに置き換わっていきそうな雲行きだ。石の上にも3年(20年か)とはよくいったものですな。ともあれ、毎日王冠に2年遅れで追いついて仲良く同格の国際G2となった京都大賞典。その勝ち馬は奇遇にも同い年でトニービン×ノーザンテーストの同配合。この組み合わせからはサクラチトセオー、エアグルーヴと2頭の勝ち馬が生まれている。ナリタセンチュリーテレグノシス、甲乙は付けがたいので印は▲とを足して2で割って配分するが、テレグノシスの母が桜花賞馬シャダイソフィアを思わせるノーザンテースト×ボールドルーラー(系)で軽快、ナリタセンチュリーが欧州系ハイペリオンが効いて重厚という色分けはできる。

 ひょっとすればの大穴を2頭。シェルゲームは兄が01年の勝ち馬アグネスデジタル。父にキートゥザミント、母にはアレッジドというリボー系の大物の血が入るのも不気味。トーセンダンディは勝てばホワイトマズルの春秋天皇賞制覇という驚愕の快挙達成となる。母の父クリスタルパレスはプレクラスニーの父、祖母の父リイフォーはニッポーテイオーを送っている。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2004.10.31
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