今年の日程の4分の3が終了した時点でサンデーサイレンス産駒のJRA平地の勝ち鞍は227勝。昨年8月に世を去ってからの勢いは、これまでで最高のペースで、この後も順調に勝ち鞍を積み上げるとすると、季節的偏差を加味した推定で今年は304勝程度まで伸びるという計算になった。下のグラフに示した通り、その上昇の原動力となっているのは第一に芝の短距離、そしてダートという、これまでのサンデーサイレンス産駒にとっては未開発の領域が開拓されたことが大きい。 ![]() 特に芝の1200mはこのように数字で示す以上に、毎週の結果を追うだけでサンデーサイレンス産駒の大活躍は印象に残った。1200mの特別勝ちはここまで16。それもテイエムサンデーのシルクロードSとUHB杯、ビリーヴの高松宮記念と函館スプリントS、ハッピーパスの札幌日刊スポーツ杯、マンデームスメの北九州短距離Sといった上のレベルでの活躍が目立つ。夏場などメインレースが1200mなら毎回勝っているような印象すらあった。こうなると「サンデーサイレンスはスプリンターを出さない」という、これまで繰り返していた説は撤回せんといかんなあ。確かに転入組も生え抜き組も、いわゆるスプリンターの体形や走法を備えたものはほとんどいないが、それでも実際1200mで勝てばスプリンターと呼ぶよりほかない。ジワッと行ってズバッと切れる、サンデーサイレンス・タイプのスプリンターという捉え方が必要になる。で、この流れで行くと今回も、過去最高の布陣で臨むサンデーサイレンス軍団の手に落ちる可能性が高いとは思う。ただ、ちょっと気になるのが古馬オープンの中山1200mを勝ったのはチアズサイレンスの97年オーシャンSひとつだけという点。そして、今年の重賞・オープン勝ちが全て直線平坦コースに限られること。ちょうどサンデーサイレンスの短距離への流入が本格化した時期の去年のスプリンターズSが新潟で行われた巡り合わせの問題であるかもしれないし、実際にこれまでビリーヴは平気で阪神で勝っているのだから、論拠としては非常に脆弱といわざるをえないが、直線の坂はともかくとして、前半の下り坂を速いペースで急がせられる中山1200mは一般的サンデーサイレンスの脚質に合わないと思える部分もある(後ろから行くにしても普段よりは速いだろう)。 そこで大勢逆転の期待を◎レディブロンドに。父はダンチヒやストームキャットと並ぶ米国の最高級種牡馬の1頭で、特に短距離向きというわけでもないが、マイネルラヴ、シーキングザパールといった我が国での代表産駒が98年のこのレースでタイキシャトルを押さえて1、2着を占めたことは記憶に新しい。母は2歳時こそ未勝利に終わったが、3歳を迎えるとクラシックへのトライアルレースを2つ勝って英オークスに臨む。ここにはしかし、歴史的名牝というべきバランシーンがいたものだから2着止まり。その後も日本流にいえば掲示板を外さないものの勝ち切ることもできず、繁殖入りして翌春アラジが種付けされた。と、5月には受胎したまま現役復帰して、何と8月にドイツへ遠征するとアラルポカルでG1勝ちを果たすのである。こういう例は他にないわけではないが、やはりこういう常識破りのことを平気でできてしまうあたりは、この母にしてこの娘ありと2頭の成績には何の類似性もないが思ってしまう。アラルポカルは2400mで、祖母バーグクレアも英女王陛下の生産による英国的ステイヤーの典型ともいえる血統だが、そのバーグクレアの孫がこの春NHKマイルCに勝ったウインクリューガー。シーキングザゴールド×リファール系牝馬という捉え方をすれば、マイネルラヴと同じ様式の欧州バージョンと見ることができる。もともとスプリント部門は条件級からの急上昇で頂点まで極めてしまう例が少なくないし、サンデーサイレンス産駒の大挙流入を許している現状のレベルなら、それもなおさらであろうと思う。 ○はビリーヴ。ヘイローがブルーラークスパーの4×4を持つので、母にもブルーラークスパー血脈が入っているサンデーサイレンス産駒は大物に育つ可能性が高いということは大前辰男氏がかなり前に指摘していて、そのブルーラークスパーをさらに遡って米国スピード血脈の象徴的存在である“黒いつむじ風”ドミノまで範囲を広げてその効果を謳う説もある。ブルーラークスパーとそれ以外のドミノ血脈を併せ持っていたサイレンススズカはその精華であるというわけだ。ビリーヴの場合、まずダンチヒが、その母の父アドミラルズヴォイッジから7本のドミノ血脈を受ける。ノーザンダンサーにもネイティヴダンサーを通じて入っている。祖母の父アイスカペードや4代母の父オリンピアからも相当量のドミノ血脈の注入があり、10代ほどの広大な血統表を用意してドミノ血脈を色分けすれば、その影響力はよくわかると思う(天地1024行にも及ぶので載せられないのが残念!?)。 ▲アグネスソニックは、あれ、まだ3勝しかしてないの?と思うくらい勝負弱いが、その血統には大レース向きのアイテムが満載。名門ヒルブルック系にリボー系の名ブルードメアサイアー・キートゥザミント、大種牡馬ヌレイエフ、そしてミスタープロスペクター系でも最も底力に優れたファピアノ〜アンブライドルドの嫡流である父と並べば、世界のどこでG1に勝っていても驚けない。ただ、父母ともにナスルーラを持つものの、日本の競馬には重苦しい部分が残るのも否めない。 △デュランダルは準オープンとはいえ中山1200mで勝った実績がある。ノーザンテーストは母の父としてサクラバクシンオー、フラワーパーク、昨年2着のアドマイヤコジーンを出しており、このレースの隠れた支配血脈(?)。また、自身スプリンターだったこの母は、産駒がサンデーサイレンス産駒スプリンターの草分けサイキョウサンデー(中スポ4歳S)を筆頭にどれもスプリント戦だけで活躍している。典型的な“スプリンター血脈”と呼べる存在がほとんど姿を消した昨今、この頑ななまでの適性の幅の狭さは逆に貴重。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2003.10.5
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