2003フェブラリーS


砂塵と風雪の20年

 1頭だけきれいなアスコットエイトを追って16頭の泥んこの馬群から伸びてきたロバリアアモンが差し切ったのが第1回のフェブラリーH。これが20年前。フリーハンデで振り返ると、それから数年はダートの強豪といえば地方でずば抜けた成績を収めるものが突出していて、JRAのダート馬は、弱かったというよりも、重いハンデに脚を引っ張られたり、不本意ながら芝に向かって凡走したりで才能を遺憾なく発揮する場に恵まれていなかった。カリブソングあたりからぼちぼちと交流重賞が一般化し、その後のライブリマウント、ホクトベガといった名馬が本当の意味での全国チャンピオンの始まりだろう。ひょろひょろっと背が高いだけだったダート競馬の樹が、20年の風雪に鍛えられてしっかりした幹と繁った枝葉を備えたというのが下の表からも見てとれる(と思うのだがどうでしょう)。昨年の3歳世代はアドマイヤドンが122でゴールドアリュールが121。直接対決のないアグネスデジタル(120)と実際にどちらが強いかという点については議論の余地もあるだろうが、3歳がこれだけのハイレベルで頂点を占めたのは始めて。それだけ早い時期から高い素質が示されるようになったのも、ダート界の成長を示す一例だといえよう。

フリーハンデに見るフェブラリーSの成長
年度 フェブラリー 性齢 最終
レート
ダート最上位馬 性齢 最終
レート
1984 ロバリアアモン 牡5 100 サンオーイ 牡4 109
1985 アンドレアモン 牡6 105 カウンテスアップ 牡4 109
        テツノカチドキ 牡5 109
1986 ハツノアモイ 牡5 99 カウンテスアップ 牡5 112
1987 リキサンパワー 牡6 100 テツノカチドキ 牡7 110
1988 ローマンプリンス 牡7 96 フェートノーザン 牡5 106
1989 ベルベットグローブ 牡6 98 フェートノーザン 牡6 114
1990 カリブソング 牡4 100 ロジータ 牝4 112
1991 ナリタハヤブサ 牡4 99 スイフトセイダイ 牡5 106
1992 ラシアンゴールド 牡4 103 トミシノポルンガ 牡3 107
1993 メイショウホムラ 牡5 103 トウケイニセイ 牡6 109
1994 チアズアトム 牡5 105 トウケイニセイ 牡7 112
1995 ライブリマウント 牡4 113 ライブリマウント 牡4 113
1996 ホクトベガ 牝6 115 ホクトベガ 牝6 115
1997 シンコウウインディ 牡4 108 ホクトベガ 牝7 116
1998 グルメフロンティア 牡6 113 アブクマポーロ 牡6 117
1999 メイセオペラ 牡5 118 メイセオペラ 牡5 118
2000 ウイングアロー 牡5 116 ウイングアロー 牡5 116
2001 ノボトゥルー 牡5 117 クロフネ 牡3 130
2002 アグネスデジタル 牡5 120 アドマイヤドン 牡3 122
1984〜93年:フェブラリーH 98年より統一G1
フリーハンデは当該馬のダートにおける年度末最高値

 さて、しかし、レベルが高いからといって明け4歳2強に全幅の信頼を置いていいものかどうか。ジャパンCダートは第3の馬どころか第5の馬イーグルカフェと第13の馬リージェントブラフで決まっている。通常中山で行われる唯一の重賞マーチSがほとんど堅く収まらない例から考えても、人気馬がスンナリ運んだら運んだでゴール前の逆転があると見ていいかもしれない。そこで、ハイレベルになればなるほど威力を発揮するブライアンズタイムの一発に期待。マイネルブライアンは97年生まれ。中山金杯で復活を遂げたトーホウシデンと同い年のブライアンズタイム産駒で、この世代は弱いといわれながらも、エイシンプレストン、アグネスデジタル、イーグルカフェ、タップダンスシチーと外国産馬は近年屈指のタレント揃いだし、内国産からも遅ればせながらカネツフルーヴやスターリングローズといったG1ウイナーが現れている。父の破壊力については芝ではいうまでもないし、ダートでもトーホウエンペラーが東京大賞典と南部杯に勝っている。母の父トウショウボーイもこのレースがハンデから別定へグレードアップしたときの勝ち馬チアズアトムを出している。テスコボーイやトウショウボーイは芝での快足のイメージに似ず、ハイペリオンの影響も強いので、特に母系に入ると実際にはオールマイティの効果を示すケースが多い。アリバイの軽いインブリードが生じるこの配合も、ブライアンズタイムの良さを生かせそうだ。牝系もコンスタントに活躍馬を出すという点では名門フロリースカップ系でも随一のサンキスト系で、先日小倉大賞典を制したマイネルブラウは叔父にあたり、ファミリーの勢いでも上昇ムードに満ちている。ただねえ、母自身フラワーC2着で、半兄マイネルモンスターはアンタレスS2着、半妹マイネヴィータはフラワーC2着、伯父ヤマノスキーは阪神3歳S2着と書き出すとキリがないくらいで、正確に統計を取ったわけではないが(取りようもないが)、惜しくも逃した重賞のタイトルの数は、恐らくこのファミリーが日本一多いだろう。そういう積年の鬱屈がここ一番で後押しする可能性がないでもないが、狙いとしては馬連、あるいは馬単2着流しで慎ましく行った方が賢明であろうと思われる。

 ゴールドアリュールはサンデーサイレンス×ヌレイエフで、これは同じ配合のトゥザヴィクトリーをダートに起用するというアイデアの大きな成果だろう。普通は芝でこそと思うもんね。母はフランスで3勝しただけで繁殖入りしたが、祖母はG1ビヴァリーヒルズH勝ちの名牝で、これはホスティージ×ヴェイグリーノーブルという血統のせいか2歳時不出走、3歳でステークスに勝って4歳でG1勝ちを果たした晩成型(まあ、アメリカで芝の牝馬路線というとこういうタイプが多いが)。母の父がヌレイエフならステイヤーともいえないが、このように母系の重厚なタイプのサンデーサイレンス産駒は古馬になるともうひと回り成長する。まだ手前もちゃんと換えないし、自分の型に持ち込まないと案外脆い部分も残しているが、それだけまだ成長する余地があるということはいえる。

 アドマイヤドンはスワップスやネイティヴダンサー、トムフールといった米国血脈のインブリードを持っていて、サンデーサイレンス×ベガの兄たちよりパワフルで骨太な印象がある。それでいて他のこの父の産駒にない決め手を持っているあたりはベガならではいえるだろう。名牝フォールアスペンの血を求めるモハメド殿下に請われてドバイにも渡った父の産駒だけに、真価発揮はドバイかという気がしないでもないが、少なくともJCダートの轍は踏まないだろう。

 ビワシンセイキはユートピアの全日本2歳優駿勝ちを筆頭に、この冬の活躍がひときわ目立つフォーティナイナー産駒(先週も4勝)。輸入後の産駒がデビューした99年以降の勝ち鞍はJRAだけで99年10、00年38、01年61、02年74と伸びている。これはもちろん戦力の量的な増加が大きいが、ユートピア、サンデーブレーク、クーリンガーなどの重賞勝ち馬が出て質的にも急速に上向いている。米国でトップなのだから遅まきながらその片鱗を示してきたというわけだが、フォーティナイナーの配合のセオリーや産駒の扱い方が日本でも手の内に入ってきたともいえそうだ。貴重なノーザンダンサー直仔の母で、祖母はカナダの名牝という底力のある血統でもあり、初重賞がG1でも驚けない。

 △ディーエスサンダーはタヤスツヨシ×マルゼンスキーでバックパサー4×4。バックパサーのインブリードはそう成功率の高いものではないが、そのぶん当たれば大きい(?)し、この馬の場合はサンデーサイレンス、カロ、ラディガと周辺も個性の強い血脈で固められているので、かえっていいかもしれない。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2003.2.21
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