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安田記念がG1になって秋にマイルチャンピオンシップが出来た84年からのハッピープログレス、ニホンピロウイナー時代。安田記念へのステップレースでしかなかったスプリンターズSが暮れに移動してG1となったバンブーメモリー〜サクラバクシンオー時代。高松宮杯が1200のG1に生まれ変わった96年のフラワーパーク時代を経て、タイキシャトル、シーキングザパールの欧州G1制覇に至って日本の短距離戦線はピークを迎えた。スプリント路線のこのところのジリ貧傾向を踏まえて、これまでの短い日本の短距離史を振り返ると、短距離戦というのは折々に人工的なカンフル剤を注入してやらないと活力を維持できないものなのかも知れないと思う。“なった”とか“出来た”とか自然のことのように書いたが、実際にはJRAが“した”あるいは“作った”もので、ある程度の無理を押しての力ずくの産物が短距離路線だ。誤解を恐れずにいえば、やはり短距離戦というのは一種の敗者復活戦で、北米でも欧州でも、2400〜マイルのエリート路線からこぼれたものの争いとなることが多く、3歳の早い時期にスプリントに専念したデイジュールやエクストラヒート、あるいはカルストンライトオなどは珍しいエリートスプリンターで、多くはクラシック脱落組や古馬になってからの条件戦からの叩き上げ組で、層が厚いといえば厚く、薄いといえば薄いようなゴチャゴチャになるのは避けられない。レース自体も枠順やスタートのタイミングが大きく結果を左右することが多い1200m、しかも、このところのG1は着差が小さくて、アッという間に大量にゴールになだれ込む。で、実際、アッという間にどれくらいの馬がゴールしているかを過去のこのレースに当てはめてみた。私の場合「アッ」はストップウォッチの実測によると0秒3だったので、昨年の場合は2着まで、一昨年は8着(!)、99年は4着、98年は5着、97年は3着、96年だけが1、2着の差が0秒4。馬の一完歩はおよそ0秒4ちょっとだから、G1馬になるかならないかはホントにアッという間、一完歩の差よりも小さい。どうも競馬の本質から離れてきた気がしないでもないが、要するにスプリント戦におけるタイトルホースと条件上がりとの差は数字に見る限りはそれほど大きくないということだ。 ◎ショウナンカンプは前々走で準オープンを勝ち上がったばかりだが、負かしてきたメンバーのレベル、そしてその一方的な内容は立派なもの。しかも芝に転じて2戦2勝。底を見せていない魅力という点ではこれが一番で、たとえ人気先行といえる面があっても、乗ってみたい勢いがある。父のサクラバクシンオーは、これまで産駒に大物は出ていないのに、種牡馬ランキングでは意外なほど上位にいた。産駒がオープンの手前までで堅実に稼いできた結果だが、昨年は園田のロードバクシン、今年はメジロマイヤーといった大物も出して、人気に見合う実績も上げつつある。サクラバクシンオーも欧米の名スプリンターに多い古馬になってゆっくり本格化したタイプで、種牡馬としてもいきなりガンガン飛ばさなかったということで、このあたりは内国産種牡馬らしい奥ゆかしさと渋太さの兼備と捉えられるだろう。アンバーシャダイの全妹にサクラユタカオーの配合なので、種牡馬としてはスプリントだけというより、メジロマイヤーに見られるように中距離への適性が予想されたが、父の快足をよく受け継いだスプリンターが出れば、それはそれで種牡馬としての能力の高さを示すものでもある。牝系はメジロデュレン、メジロマックイーンの兄弟でお馴染みのアサマユリを経てアストニシメントに遡るファミリー。そこへネヴァービート、ベンマーシャル、タケシバオーと古めの血脈をたっぷりと蓄積し、ニジンスキーのスピード血脈として成功したラッキーソブリン(現役時はステイヤーだったが)を挟んで、仕上げにニホンピロウイナー以来の内国産スプリンター・サクラバクシンオー。ノーザンテーストとチャイナロックに由来するハイペリオン血脈、そして4×5で持つネヴァービート血脈が裏から支えるこの配合は、スピードだけのスプリンターとは一線を画すもの。 ブリーダーズCスプリントでは高齢馬の活躍例は少なくないが、高齢の一時期にピークに達して、それでBCまで制してしまうというのがパターンで、スプリンターにとって長期政権というのは案外難しい。オーストラリアにはマニカトとかスキラッチという息の長い歴史的スプリンターがいたが、たいていは丸1年トップを突っ走れば上等で、普通はサクラバクシンオーのスプリンターズS2連覇が精一杯のところ。○トロットスターもずっと最前線で頑張った去年がピークだという気もしないではない。それでも、前走は6着といっても59.5Kを背負ってアッという間の0秒3差、母系からアレッジド、ディクタス、シンザンといった渋太い血脈が入っていること、そしてこれまでも、いやーあきまへんわといいながら勝ってきたことを考えると、ここ一番で頑張って、少なくとも今年いっぱいくらいは短距離王の座を守るのかも。 ▲スティンガーはメジロダーリング、そしてナリタトップロードと同じアファームド牝馬の仔。メイショウドトウもアファームド牝馬の仔だった。牡馬と牝馬の違いはあるが、結構ピークの能力が長持ちして、そのおかげで巡ってくるチャンスをしっかりモノにできる。一般的にトモの甘いサンデーサイレンス産駒はじんわりアクセルを開ける中距離以上に向いていて、テンから全開で行くとフォームが乱れて末脚不発となる。スプリンターとして実績を残しているのはノーザンテースト牝馬との間に生まれたディヴァインライトやサイキョウサンデーといったわずかな例しかないし、この馬はそういうタイプでもないが、ジワッとトモがついてくるのを待ちながら射程圏内で追走できて、直線一気に末脚爆発という展開になれば届く可能性はある。先週までは前が残っていたが、そろそろ内も荒れてきているのでひょっとしたら一発あるかも。 △メジロダーリングは母が愛1000ギニートライアルの勝ち馬で兄は3歳時にG1パリ大賞典勝ち。3歳までで実績を築くファミリーで、母の父がアファームドだとはいっても、この父なら加齢とともに成長するタイプとも思えないが、ここ2走は、重い大井の砂、海外遠征と情状酌量の余地もまた大きい。新潟レコード勝ちなどあるが、4年前の実質重〜不良のこのレースを勝ったシンコウフォレストと同じグリーンデザートの産駒。ちょっと渋れば有利。 サイキョウサンデーは3歳時にトロットサンダーを完封。今や追う立場になったが、母のスプリンターとしての遺伝力は強力で、全きょうだいだけでなく、キャロルハウスとの配合でさえスプリンターを出した(リフレシングムード。まあ、キャロルハウス自身、そう強い個性を伝えないタイプだったが……)。ディヴァインライトもノーザンテースト牝馬の仔で、こちらはサンデーサイレンス産駒唯一のスプリントG1連対実績を持っている。こちらもカッティングエッジ(クイーンC)やダイナコスモス(皐月賞)の出る切れ者ナイトアンドデイの牝系。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2002.3.22
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