ダービー馬がいない菊花賞はマチカネフクキタルが勝った97年以来。トライアルの勝ち馬がいないのは一昨年と同じだが、ダービー馬がいなくて、しかもトライアル勝ち馬もいないという例は、トライアルが設定されて以来ない。これをもって菊花賞衰退の予兆という見方もあるが、それはそうだろう。英国以外、欧州の各国セントレジャーは古馬に開放して生きながらえている状況だし、本家でも一部の勝ち馬がその後の古馬G1戦線でも何とかやっていけるという程度。米国のベルモントSはちょっと性格が違うが、これも三冠達成のかかった2冠馬が出てこなければレベルも盛り上がりも低い。3歳の一流馬は秋を迎えれば古馬と戦うものだという考え方はジェニュインやバブルガムフェローが先鞭をつけ、去年のクロフネや今年のシンボリクリスエスでますます強まってきた。そんな流れの中で菊花賞はよくやってきたと思う。今年も皐賞馬は出るからね。まだまだタイトルの重みとしては“クラシック”といえるだけのものがある。 ただ、タイトルと実力のギャップがこれ以上広がると問題だろう。例えば英ダービーあたりは世界のクラシックの最高峰と捉えられる割に実力的なレベルでは大したことがない年が多かった。最近はシンダールやガリレオやハイシャパラル、負けた組からもサキーあたりが出ていてそう目立たないが、これも安泰なのはサドラーズウェルズが元気なうちだけという恐れもある。世界のチャンピオンシップが2400mから2000mに移行してきたのは、マイラーもステイヤーもこなせるそのカテゴリーが最も資源が豊富で競争が激しく、そこで勝ち抜いたものは種牡馬(あるいは繁殖牝馬)としての能力の信頼性も高いから。競馬を競走と生産のサイクルとして考えると、(そう考えなくても香港のように競馬は成り立つのだが)、3000mはやはりむやみに長い。菊花賞だけで好走した馬のその後が芳しくない例も多く、春の天皇賞と比べても実力通りといえない面もある。北海道シリーズの2600m戦で力をつけてここに臨んだ成功例は去年のマンハッタンカフェがあるが、今年はそういったタイプは抽せんで出走できるかどうかという状況だけに、晩成型のいわゆるステイヤーには時期が早いのが問題。 じゃ、どうすればいいかというと、考え方を変えて、レース体系とか格付けからちょっと離れたお祭り割り切ってしまえばどうか。オーストラリアのメルボルンCはその線に徹することで人気を保ち、北半球からも毎年専門的ステイヤーが挑戦する。名誉先行の英ダービーにもそんな感じはある。高い賞金額さえ維持できれば、伝統に名誉を見いだすものは挑戦し続けるだろうし、ハイレベルな戦いに価値を目指すものは古馬に挑むという棲み分けができ、夏からの上昇馬の食い込む余地もできる。結果、レースのレベルが下がることはあっても、それはそれで仕方ないことだ。 そういう流れは出走馬の血統にも現れていて、今回は、3000mならこれ!というタイプがいよいよいなくなった。折り合いさえつけばあとは瞬発力の勝負でマイラーでもこなせるという見方もあるが、実際に3000mを走る以上はそういうものでもないだろうし、かといって古いタイプのステイヤー(いないけど)ではスピード不足。ならば、下手に考えるより実際に近い年の菊花賞を勝った実績があるのが良かろうということでマヤノトップガンの仔バンブーユベントスを◎にしてみた。マヤノトップガンは菊花賞馬で97年春の天皇賞がベストパフォーマンスといえるが、種牡馬としてはむしろ前年に宝塚記念に勝ち、秋の天皇賞で2着しているのが売りだ。長距離のタイトルとスピード感のない顔の白徴で損をしている部分があるが、他の産駒を見ても種牡馬としてスピード不足ということはない。ステイヤーというより上質のクラシック血統と見るべき。バンブーユベントスは(位置は違うが)三白栗毛に顔の白徴、そして箱形(?)の体形まで、どこから見てもマヤノトップガンの仔であることがよく分かる。外観が似ていることが全てとはいわないが、走った親に似た仔は走るし、そういう仔を出す種牡馬が有能だということはおおむね間違っていないだろう。母のスプリングバンブーは重賞デビューが5歳春、その年の夏に初重賞を制して、ベストパフォーマンスは引退戦となった6歳時のエリザベス女王杯5着(ダンスパートナーから0秒1差)という晩成型で、2000mを超える距離にはめったに出走しなかったが、エリザベス女王杯の内容からはワッスルタッチ産駒らしいステイヤーとしての本質が窺い知れる。牝祖は安田記念のバンブーメモリーと同じ種正で、下総御料牧場によって輸入されてから100年近くを経たこの系統からは、トクマサ、ボストニアン、ヒカルタカイ、そしてバンブーメモリーと同時期のイナリワンと15〜20年周期でポツリポツリと名馬が出る。量産はしないが途切れることもない牝系で、最近では帝王賞2着のミラクルオペラがいて、そろそろ近いな、来るなという印象もある。この配合では父の持たなかったノーザンダンサーの血が母から入るし、リボーのインブリード(4×5)とグレイソヴリンの血を持つブライアンズタイム系ということではダービー馬タニノギムレットに通じる部分もある。ただ、調教を見る限りは成長を窺わせながら結果がともなわない秋の内容と、母が晩成型だったことを考えると、歯車が噛み合って本格化するのはもうちょっと先かと思えなくもない。 ○バランスオブゲームは祖母がサッカーボーイの全妹。ステイゴールドも近親だし、サッカーボーイ直仔のナリタトップロードは6歳でますます意気盛ん、2歳からも将来有望なブルーイレヴンが出て、サッカーボーイファンはいつまででも楽しめますね、ホント。そこへアレミロード、フサイチコンコルドと2400mのG1勝ち馬を配合。3代目に並ぶ種牡馬はニジンスキー、サドラーズウェルズ、トムロルフ、ディクタスだから、ステイヤーらしさという点ではこれが一番。しかも父の祖母サンプリンセスは斜陽とはいえ本家のセントレジャーで牡馬を一蹴している。これだけ“濃い”メンツを揃えながらバランスが取れているのは、アメリカ血脈の母の父を欧州血脈で包んだ配合の妙。 ▲はダービーで本命にしたメガスターダム。ニホンピロウイナーの仔がダービーに勝てば痛快だと思った。内容も悪くなかった。でも、常識的に考えて3000mはどうでしょう。凱旋門賞の日のカドラン賞(G1、4000m)はウォーニングの仔が勝ったが、あの父系は以前からそういうところがあり、ハビタット系をそれと同じには扱えない。勝つとしたら、父が最も得意とした京都(7戦無敗)ということやったりして。 △ノーリーズンは菊花賞2勝のブライアンズタイム産駒で、母の父がMr.プロスペクターの配合はオークス馬チョウカイキャロルと同じ。しかし、チョウカイキャロルにはヴェイグリーノーブルとか入ってたのに対し、この母は完全なアメリカ血統。短距離血統というわけではないので、イメージがピンとこないというだけだが、そういう微妙な部分が結果を左右することは少なくない。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2002.10.18
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