昨年のトゥザヴィクトリーの奮闘によって、このレースのドバイ前哨戦あるいは遠征壮行会としての性格はより強くなった。国内の頂点を目指すのと、ここをステップにするのとでは馬券における扱いも微妙に変化するのでややこしくなるのは確かだが、日本のトップクラスがそういうレベルに達してしまった以上、マスコミもファンもそれについていくより仕方ない。レース体系もまた、国内的な都合だけでなく世界の競馬の流れの中での位置まで視野に入れなければならなくなっていて、ならばフェブラリーSは、いっそのこと前哨戦として最大のレースを目指すというのはどうだろう。よほどの物好きでないと遠征するとは思えない阪神大賞典を「国際レース」にしておくよりも、ドバイ以外では上半期ダート世界最高賞金を誇るこちらを国際レースとして開放するのがより現実的だ。ドバイ遠征を控えた香港の一流馬がダートの練習がてら来てくれるかも知れないし、アメリカからも「残念ブリーダーズC組」クラスなら来てくれる可能性はあるし、ジャパンCダートとの連覇にボーナスを設定するという手もある。3月末のドバイワールドCは種牡馬入りへのプロモーションとして考えると中途半端な時期にあるので、持っていき方次第では前哨戦以上の存在に育てていけるのではないだろうか。 アグネスデジタルはダートで2歳チャンピオンになって、芝のマイルでレコード勝ち、ダートのマイルでもG1に勝つと、初めての芝2000mでテイエムオペラオーを破り、香港でも国内で重賞に勝つのと同じようにG1勝ちを果たしてしまった。オールラウンドということでは昨年急死したドバイミレニアムがいて、あれは搭載エンジンの違いでさまざまな条件をクリアしていたのでタイプが違うが、頂点を究めるには芝もダートも関係なしにマイルから2000mで走るという考え方はそのオーナーであるゴドルフィンによって持ち込まれたものだ。それまではマイラーはマイルで、2400mの馬は2400mで強ければ問題はなかったが、ゴドルフィンが2000ギニー勝ち馬も“キングジョージ”勝ち馬も2000m戦線に投入してダートのブリーダーズCクラシックにも挑戦させるようになると、欧州2大勢力のもう一方であるクールモアグループもそれに付き合わざるを得なくなるので、世界で戦うには芝ダート不問の2000mホースが求められるようになった。アグネスデジタルの登場もそういう時代の要請に添うものといえるのではないだろうか。昨年度の年度代表馬の投票結果で明らかなように、日本でチャンピオンと呼ばれるには芝2400mで強いのが絶対条件だが、それでも世界の趨勢というのはやがて日本にも及ぶわけで、アグネスデジタルはその先駆けといえるかも知れない。それにしても驚くのはクラフティプロスペクターからこういうタイプの産駒が出たことで、同じミスタープロスペクター系でもシーキングザゴールドからドバイミレニアムが出たり、ミスワキからマーベラスクラウンが出たりするぶんには一発長打型だけにさもありなんと思える部分もあるのだが、クラフティプロスペクターの特徴は仕上がりの早さとスピードと大物は出さないがステークス級をコンスタントに出す手堅さ。ミスタープロスペクター系の大ベテランが今になって方針を変更したのだろうか。と思ってこの世代のクラフティプロスペクター産駒を調べてみると、勝ち上がり率の高さは平年並みながら、水準以上なのはアメリカでステークスウイナーが1頭とエクアドルの2歳輸入馬チャンピオン(!?)というのが1頭出ているだけで、あとは日本に輸入されたのが稼いでいるだけ。年齢的にそろそろ衰えが来る時期だとはいえ、97年生世代のクラフティプロスペクターはアグネスデジタルが入魂の一発というか、そういう一点豪華主義だったのだ。81年生のノーザンダンサーとか83年生のニジンスキー、あるいはトニービンの98年生まれはビンテージクロップだとか、種牡馬成績の平均点が高ければ頂点も高いというのはこれまでもいってきたが、全体が低くても1頭だけ高くて平均すればそうレベルは落ちていないというケースもあるんですね。勉強になった。ドバイでは昨年の世界最強馬サキーが待っていて、これは去年のキャプテンスティーヴより相当強い馬で、インターナショナルクラシフィケーションによると6.5〜3.5馬身、日本馬の不当な抑圧(?)を解いた合同フリーハンデでも3.5〜2馬身の力差を認めなければならないが、こうやって力差を計算できるところまで来るということ自体、ライブリマウントのころには想像できなかった。昨春の不振が成長期における停滞(ってあるんじゃなかろうか)であり、抜け出すとすぐ気を抜くだけに香港Cも100%ではないと考えると、その差もある程度埋まるのではないか。左回りで今度もちゃんと手前を替えるか、検疫明けで重目は残らないかと不安はなくもないが、ともかく、ここで好勝負できないようではドバイ云々もないわけで期待的◎。 トゥザヴィクトリーは2000m以上では武豊マジックによるやりくりが必要だが、ウイングアローが必死になってダート第一人者の面目を施した昨年の結果が示す通り、1600mなら小細工なしに戦える。BCターフのシアトリカルや凱旋門賞のパントレセレブル、そして母の父としてジャングルポケットが示す通り、2400mまで融通性のあるヌレイエフの血もベストは1600m。目下のデキも惚れぼれとさせられるもので、○だが勝っちゃうとドバイでのマークがよりキツくなっちゃうかも。 トーホウエンペラーは2001年G1未勝利に終わるかに思えた父ブライアンズタイムを土壇場で救った切り札。近親にはバンブービギンの勝った菊花賞で2着のレインボーアンバーとか、快足障害王カルストンイーデンとか、内国産フェブラリーS勝ち馬にふさわしい(?)渋い存在が並ぶ。土着牝系に地味な欧州系種牡馬を配されたパターンでは有馬記念のシルクジャスティスを思わせるものがあるが、見た目には母の父から入るリュティエを思わせる。それだけに天才肌で、左回りではササッて自滅するのもそのせいなのかも知れないが、今回は直線1頭になってしまうシーンは想像し辛い。周りに馬がいればまっすぐ走るだろう。現時点での力ではアグネスデジタルに次ぐ存在で、東京の(やや)高速ダートにも合うタイプだと思う。▲。 ノボトゥルーは何と丸1年未勝利だが、その戦績をたどれば微妙なボタンの掛け違いが繰り返されただけで力の衰えはない。アメリカで今年最初の牡馬G1、ドンHを同い年のブロードブラッシュ産駒マングースが勝ち、同じ父のブロードアピールが8歳を迎えた今年も重賞勝ちを果たしていることも追い風といえるし、母も3、4、5歳と連続してG1に勝った息の長い名牝。ドバイには坂路がないので遠征しないのだろうが、その分ここに全力投球できる強みがある。△。 リージェントブラフの父はクラフティプロスペクターと同様、大レースより数で稼ぐタイプだったが、デピュティミニスターがそうであるように、この父系は晩年に大物を出す傾向もある。牝系はメジロマックイーンの出るアサマユリ系のステイヤー。勢いに乗るだけに怖い。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2002.2.15
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