年長から順にセイウンスカイ、ナリタトップロード、エアシャカールと3頭の菊花賞馬が揃った。これは恐らく春の天皇賞史上初のことだ。恐らくというのは、70年までは地道に調べて例年0〜2頭の出走しかないことが明らかになり、さらにそれ以前の古いことを調べても意味がないと考えてやめたからである。2000mから2400mで最強馬の座を争うのが世界標準なのはエミレーツ世界シリーズのラインナップからも明らかで、そのなかでも近年は2000mが最強戦になるケースが多い。そんな時代に3000m超級のレースが衰退の一途をたどっているのは否定のしようがない事実。“セントレジャー”型のレースでとりあえずG1の格を保っているのは本家イギリスのセントレジャーと菊花賞だけで、フランスやアイルランドは古馬に解放したことでG1の格をなんとかとどめているが、ドイツは実質G3レベルのG2、イタリアは95年に準重賞に降格され、2000年限りで競馬場ごとなくなってしまった。日本にしても去年から3歳一線級が時期的に戦いにくいような位置に置かれ、実際去年の菊花賞のレース自体のレベルは、それまでの菊花賞の水準、あるいはその年のほかのG1に比べても、相対的に低い水準になってしまったと思う。とまあ、そういう超長距離戦にとって厳しい状況にありながら、このレースがやはり上半期の最強戦といえるだけのメンバーが揃うのだから日本の長距離路線の層の厚さは世界でもトップレベルだ。 ステイゴールドは一種独特のキャラクターだけに単純に物差しにはできないとしても、あのドバイシーマクラシック(ちなみに当時差のある3着だったシルヴァノが香港のG1クイーンエリザベス2世Cを楽勝した)のレベルを基準にすると、テイエムオペラオーはヨーロッパの2400mのG1を狙い、エアシャカールが米国の芝G1を2つか3つ持って帰り、ナリタトップロードはメルボルンカップを圧勝するというくらいの可能性がありそうだ。でも、せっかくそれだけの才能を擁していながら、JRAは「海外遠征褒賞金」をカットしちゃったようである。ただでさえ売り上げが落ちて財源がないところに強い馬に海外に行かれて日本での売り上げが落ちてはダブルパンチだという論理も分からないではないが、それはあまりにもセコい。目先の損得だけで夢がない。そういうことをしているから官僚的といわれるのである。ドバイのモハメド殿下はドバイワールドCデーの番組をブリーダーズC以上のものにしようとしている。潤沢な賞金は石油に裏打ちされた経済力があるからできることだが、その石油も有限なのがはっきりしており、力のあるうちに競馬に投資して、観光資源として育てようという商売人の発想がある。たとえばオリンピックなら、普段ほとんどのひとが興味を示さないようなマイナースポーツでも注目されるし、サッカーも野球も世界レベルで楽しむ時代になって、それが生み出す経済効果は莫大なものになっている。たとえ馬券を売らずテラ銭が入らなくても、スポーツイベントとしてだけでやっていける力が競馬にはあるとモハメド殿下は量っているからだろう。それに対してJRAには競馬にそれだけの自信も愛情もないようだ。エルコンドルパサーがヨーロッパでどれだけ走ろうが、確かに馬券の売り上げには結びつかない。でも、もしエルコンドルパサーに余力があって有馬記念に出ていたら、空前の盛り上がりを示すのは必至だった。大事なのはそういう可能性ではないか。競馬場に行けば凄いものを見られる、目の前で走っているのは世界最強(かもしれない)馬、しかも、それに賭けられる。そういうのが日常的になればtotoなんて屁みたいなものだ。 テイエムオペラオーは国内戦に専念するようだが、去年すでに“パーフェクトゲーム”をやってしまって、もうそれ以上はない。凱旋門賞の初回登録は5月のはじめでまだ間に合うし、ブリーダーズCも今年は広いコースのベルモントパークなので、そっち方面に向かうなら頑張れという気にもなるが、去年のリピートではシラける。ま、前走でもデキひと息のところに1対3の変則タッグマッチで負けたようなものなので依然として国内最強なのは明らかだし、負けたぶん、コンマ数倍でもオッズが上がるだけに本命党にはおいしい状況といえるが、サドラーズウェルズ系のA級馬には、モンジューでもドリームウェルでもそうだが、ガーッと完全燃焼したあとの燃え尽き症候群とでもいえる尻すぼみの傾向が見られないこともない。大抵のサドラーズウェルズ系一流馬は、タイトルを手に入れると引退、種牡馬というルートが決まっているので、燃え尽きるまで走る例は少ないが、弱り目にたたり目というか、有馬記念で無理をひっくり返すような形で力を絞り切ったあとに、春の芝の高速決着というのは辛い部分があるかもしれない。エルコンドルパサーを破ったことで日本で一番有名な欧州最強馬となったモンジューの4歳後半戦にもそういうフシはあった。穴を狙うならここは思い切って、出てないものと考えましょう! といっても、基本的に春の天皇賞で穴狙いはよろしくない。が、たまにはモンテフアスト=ミサキネバアーとか、クシロキング=メジロトーマスの万馬券決着もある。そういうケースはホントのG1級が少ないメンバーで、今回にはあてはまらないし、テイエムオペラオーを負かせるだけのインパクトを実際に示した馬もいない。なら、エルコンドルパサー、スペシャルウィーク、グラスワンダーを擁した最強世代の95年生まれ、現6歳馬に逆転の期待をかけるのはどうか。セイウンスカイはその世代の2冠馬だが、今回は当時のような馬場のアドバンテージもないし、久々の今回は画像で見る限り、ひと昔前の種牡馬のような首になっててこれでは無理。そこで◎メジロランバート。明らかに無茶な狙いだが、一応、菊花賞ではエアシャカールより、ナリタトップロードより速い時計で走って、一応、スペシャルウィークを苦しめる走りを見せた。その後の成長を見込めば、一応、推定勝ちタイムでは走れそうである。父のメジロライアンは実際このレースの勝ち馬メジロブライトを出しているし、2400mが勝ち負けの分岐点だった父よりは伸びのあるフォームで、3200mは歓迎材料だ。母の父もひとつ下のシンボリルドルフには勝てなかったが、それでも同世代相手には滅茶苦茶なレースで菊花賞を制して三冠を達成しているし、母の父としてウイングアローやゴーイングスズカを出してそれなりの成果を挙げている。牝系はメジロイーグル、メジロラモーヌ、メジロアルダンを出したアマゾンウォリアーだから、ここ一番の底力にも不足はない。準オープンは勝てなくてもG1なら狙えるというのもヘンだが、まあね、“メジロ”は天皇賞には強いのである。 ○エアシャカールは努めて客観的に、タイトル通り“血統を”見て本命にしようと思った。でも、あんまりひかれるものがない。同世代ならアグネスフライトの方がキャラクターとしては魅力的だ。しかも、以前、努めて客観的に考えてお姉さんのエアデジャヴーを本命にしたら結果が芳しくなかったこともある。ただ、この馬あたりが世代交代をガーンを宣言するのもいいかなとは思う。 ▲ナリタトップロードはテイエムオペラオーから自由だとかくも強いかというところを見せた。でも、相手が弱かったのは確か。テイエムオペラオーと同じ土俵であれだけのびのび走れるかどうかだが、今のデキなら。 △にエリモブライアン。相手が強いほど持ち味の生きるブライアンズタイム産駒。一発があるならコレかな。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2001.4.27
© Keiba Book