95年に始まったダート交流重賞はライブリマウント、ホクトベガという大スターを生んでダート競馬の認知度を引き上げ、97年から本格的なダート統一グレード制が敷かれると、それまでの一頭独裁体制が崩れ、各地に強い馬が育つようになる。フェブラリーSと同じ日のヒヤシンスS、これが日本のダート競馬の夜明けともいえる97年に生まれた世代で争われ、グレードなしの前座にしとくにはもったいないくらいのメンバーが揃ったのは偶然ではない。「ダート馬も金になるやんか」というと言葉が悪いが、とにもかくにもダート競馬の価値が正当に評価されるようになったことの証明で、この世代からは、それまでの「走らせてみたらダート向きやった」、「芝はアカンからダートで」という場当たり的な面が薄れ、配合、生産、購買という実戦の前段階からのダート指向が明らかになってきている。早い時期から強い馬のいる世代は後からさらに強いのが出てくる場合が多いので、来年、再来年のフェブラリーSというかダートG戦線はメチャメチャ高いレベルの争いになるのではないだろうか。 先の話はともかく、“交流”開始後現時点までのダートの名馬について大雑把にいうと、血統的には“地味な”タイプが圧倒的に多い。と、それまでは思っていたのだが、実はそうではなかったのではなかろうかとこのごろ考える。これまでの良血の基準は芝での成績、あるいはいわゆる先進国の成績のみに価値を求め、地方競馬を含めた日本でのダートの成績はあくまでサブとしか扱われなかった。超良血〜良血〜まあまあ〜それなりに〜そうでもない〜何ともならん……という血統の価値があまりに一元的で、そもそも基準となる物差しの置き方にも間違いがあったのではないか。去年のオークス馬ウメノファイバー、あるいは87年のダービー馬メリーナイス、どちらも母は南関東の重賞勝ち馬であり、ダート馬のポテンシャルが時として芝でも頂点に立つパワーを秘めていたという例もある。大根の葉っぱとか魚のアラとか実は本体より栄養があるにもかかわらず捨ててしまうように、これまでの日本の血統の基準では、本当はいいものなのにそうと気付かず捨てていた部分があまりにも多く、そういうアンチ良血のパワーがダートという舞台を得て一気に噴出してきたのだとも思える。現4歳のダート・エリートたちが台頭してくる来年以降はともかく、今年はその線で狙いを立てたい。 ◎ファストフレンドはいわゆる地味な血統で、ダートで芽が出て、交流重賞で花開きグレード4勝、G1でも牡馬に互して健闘して見せた。にも関わらず強い内容だったのは地方でのレースなので、中央のバリバリが揃うと影が薄いと見られている。ホントに“中央のバリバリ”か? 実はパリパリ程度かもしれないし、ことによるとフニャフニャかもしれない(今でこそだれもが「王者メイセイオペラがパンとしていれば……」とかいっているが、去年のこのレースでは「王者」を差し置いてワシントンカラーが1番人気になってたやんか)。正直いって霜月Sで格下に迫られた内容はこんなもんかとも思っていたのだが、見方によってはどこまでも抜かせなかったともとれるレースぶりだったし、その後の東京大賞典、川崎記念では結果はともかく一番強いレースをしていた。 父のアイネスフウジンは、朝日杯3歳Sに勝ち、ダービーはレースレコードで逃げ切り、当時の日本で屈指の名種牡馬であったシーホークの仔で母の父がテスコボーイと、成功する条件は十分に整っていたにもかかわらず、シーホークの仔なのにテスコボーイに似すぎていたためか、あるいは牝系が弱いせいか、よく分からんがどうも非力な産駒が多く、今までのところ重賞勝ち馬はこのファストフレンド1頭だけで、まあ何ともしかし……としかいいようのない成績だ。一方、曾祖母の代にニュージーランドから輸入された牝系もかなりのもので(遥か遠くにJCに来たキーウイがいるが)、至宝ノーザンテーストのおかげをもって4勝(全てダート)を挙げた母が出世頭。その母にしても準オープンではチョイ足りなかった(引退戦はオープンの銀嶺Sで勝ち馬はミスタートウジンだった)。ここまで強くなった理由を血統面から探すとすれば、その競り合っての頑張りはノーザンテーストのものだろうし、突然現れて何食わぬ顔でトップに上り詰める神秘性は祖母の父シルバーシャークからのものだろう。シルバーシャークはよく「マンノウォー系らしく母系に入って良い働きをする」と評され、実際その通りだし、オグリキャップやキャロルハウスの母の父であるというだけでも名ブルードメアサイアーと呼べる。でもその正体はもっとかなり神秘的だと思う。最近でもウメノファイバーの祖母の父として顔を出したり、ダート重賞でいうならホクトベガとワールドクリークはともに曾祖母がシルバーシャークを父に持つ輸入馬。ちょっと異色の名馬を送り出すために、30年前から伏線を引くという壮大な構想があったとさえ思わせる。ワールドクリークもホクトベガも、レディジョセフィン直系の牝系にシルバーシャークがかかっていたことを考えると、父の母が持つナスルーラ3×4(父自身、タイプでいうとナスルーラの影響が最も強いと思う。ナスルーラの牝祖はワールドクリークやホクトベガと同じ)とシルバーシャークとの間にスパークするものがあったのだろう。条件級時代とはいえ、最多勝の東京で最多勝の1600m。久々のホームコースで圧勝したりして。 vウイングアローは先週オジさんが久々に重賞勝ち。それはちょっとシャレがキツいんちゃうかと思えるような仕掛けで後続の追い出すタイミングをメチャメチャにしておいて、自分はまんまとゴールまで逃げ込んだユーセイトップラン。この2頭がこの牝系では実に久々の重賞ウイナーであり、そういう孤立した近親同士の結束というのがこれまた堅くて、ともに98年秋以来、相次いで重賞勝ちというのもあるかも。ナスルーラのラインブリードを施された母に、今やダート専用種牡馬となってきた父。リボーやバックパサー、トピオと一発のある血脈も持つ。父系のトップサイダーは97年の勝ち馬シンコウウインディと同じ。 メイセイオペラは4歳秋に前頭骨を骨折したとき以来のピンチ。当時は若さで克服できた部分もあるだろうが、今回はその前に右前球節炎で南部杯を回避しているという事情もあり、アブクマポーロも引退した今、流れとしてはそろそろ世代交代かなという黄昏ムードが否めない。父系祖父ニジンスキーも凱旋門賞でゴール寸前外に逃げて敗れ、不敗神話が崩れると引退戦となったチャンピオンSで再び何でもない相手に敗れた。母系曾祖父ダマスカスは通算32戦21勝2着7回3着1回のタフガイだったといっても5歳いっぱいでの話だ。「もう、メイセイオペラも終わったで」と口でいいながらポケットにはメイセイオペラがらみの馬券が潜んでたりするひとは多いと思うが、オグリキャップの引退戦の有馬記念、トウカイテイオーの1年ぶりの有馬記念、スペシャルウィークの秋の天皇賞がどれも4番人気(冷徹な評価をむねとする専門紙は当然それより印が薄い)だった。4番人気なら密かに買おうというわけで印も4番目の△。 キングヘイローはカミノクレッセの高級版というか、段々なりふり構わずになってきたみたい。不器用なのか器用貧乏なのかもよう分からんようになってきたが、こういうのは好き。今回ダメでも高松宮記念があるさ。天皇賞でも可能性なしとはいえない。ここと安田記念で芝・ダートのG1ダブルも楽しい。直線一気の可能性に▲。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2000.2.20
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